オーロラ・プロダクションのライバー達①
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「さて。報告を聞こうか」
大手タレント事務所『キングス・エンターテインメント』。
偉大な父の後を継ぎ、芸能界の玉座に坐した若干35歳の新任社長・王伀巳は、経営会議で部下たちを睥睨しながら言った。
「はい。月次経営会議は私が司会進行いたします」
秘書が眼鏡を押し上げながら、王伀巳社長の傍らで応じた。
「まず、今月度の売上実績からご報告いたします。それでは第一セグメントから──」
この一ヶ月間、王社長は組織に大変革をもたらした。
あらゆる非効率を排除し、無駄を切除し、害悪人材を追放した。
その成果を耳にできるこの瞬間を王伀巳は心待ちにしていた。
「──男性タレント事業における広告案件の売上は、昨年比で96%で着地いたしました。また当月の計画比で56%となっています。続きまして写真撮影案件ですが、こちらも昨年比92%となっており──」
秘書の報告が淡々と続く。
次第に、王社長は表情を曇らせていった。
「おい、ちょっと待て。昨年比96%だと? どうして売上が去年より減っているんだ?」
王社長は思わず秘書の報告を制止した。
「はい。原因の調査は既に開始させており、一週間程度でご報告できる予定です」
秘書は目鏡を押し上げ、上司の疑問に応じる。
「あくまで昨年比で1割に満たない減少ですので、外部要因による誤差の可能性もあります。今は無視してもよろしい段階かと──」
「莫迦を言うな。問題は『減ったぶんが誤差かどうか』じゃないだろうが。俺の改革の後だぞ? 『どうして利益が増えていないんだ』という話だ!」
王社長は大きく舌打ちをして椅子に深々と背を戻す。
「ちっ……。怠惰な社員どもに営業を徹底的に強化させろ。行動を増やせ。安穏とした毎日を遅らせるな。結果を出せない無能はキングスにはいらん」
「かしこまりました」
「ふむ。我が社の主力……男性タレント事業が不振とは不気味ですな」
一人の老年の役員が口を開いた。
創業者・王伀将時代からの腹心であった古参の経営陣だ。
「とはいえ社長、今は人員削減の直後です。売上の一時的な目減りはありえることでしょう。しかし一応、『裏』を探っておくべきでしょうな」
「ふん。言われなくても分かっている。おい、この一ヶ月で最も数字の変化が大きかった部署を教えろ。売上か、他の重要業績評価指標でだ」
会社全体の業績が振るわない原因がどこかにあるはずだ。
定量的な原因か、定性的な原因か。
王社長は、まずは前者から探ることにした。
「はい。データはこちらに」
壁に投影されたスライド資料が、秘書の操作で切り替わる。
「最も数値の変化が激しかったのはVTuber事業部……ブランド名『オーロラ・プロダクション』です。配信広告収益が約20%も減少しています」
オーロラ・プロダクション。
先代社長のお遊び事業として立ち上がったくせに一丁前に急成長して、株主どもにも可愛がられ始めている田舎事業部か。
「配信広告収益が減少? つまりVTuberどもの配信で得られる広告収益が減っているということか。理由はなぜだ?」
「はい。それは──」
「──それは私からお答えいたします」
秘書の言葉を遮って、会議室で起立した男がいた。
今回も読みいただきありがとうございます。
少しのあいだ『大人サイド』のお話が続きますが、どうかお付き合いいただけませ。
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