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ノイズ①



 夜。暗い自室。


 絵師系VTuber・黒縁くろぶちぐらす──、いや、

 黒塚有子くろづか ゆうこは椅子に座ってペンタブを握ったまま考えている。

 思い出すのは、佐々木蒼プロデューサーの言葉だ。


 ──まずは黒縁ぐらすさんが配信を始めたきっかけを……根本の理由や、原初の成功体験を思い出してみたほうが良いです。


 ──そもそも、あなたは、なんで創作を始めたんですか?


「……理由、かぁ」


 昔から表現者として生きていくのが夢だった。

 だからイラストレーターとしての仕事に飛びついたし、VTuberの活動も頑張れている。


 ──やっとここまで来れたのだ。

 ──いま歩みを止めるわけにはいかない。

 ──登頂するなら、きっと今しかないから。


「……なんか確かに、頑張り続けること自体を目的にしてた感はあるなぁ〜〜……」


 黒塚有子は机の上に伏せた。

 ほっぺたが潰れる。

 顔面で分厚い眼鏡が潰れて鼻柱にめりこむ。

 痛い。


「……私、何が楽しくて、創作を好きになったんだっけ」


 黒塚有子が絵を描き始めたのは高校生の頃だった。

 買い替えてもらったばかりの大きなスマホで、無料アプリを入れて、指で好きなアニメのファンアートを描き始めたのだ。

 それからTwitterアカウントを作って発信しだして、色々に手をだして今日に至る。

 なぜ将来の夢になるほどに、のめり込んだのだったか。


「……あ〜〜っ、パッと思い出せたら苦労せんわなぁ〜〜〜〜っ! まあいいやぁ〜〜、もうちょいで配信の時間だし、佐々木Pに貰ったアドバイス再確認しとこかね……」

 黒塚有子は机の上で視線だけをあげると、TwitterのDMからダウンロードしたテキストファイルを開いた。


 ファイルの中には、黒縁ぐらすのYouTubeアナリティクスのスクリーンショットと佐々木Pの所感が書き連ねられていた。


 ──もしかしたら参考になるかもしれないので、今日語れなかった俺の雑感もDMに送っておきますね。


 佐々木Pは、マク様の綺麗な銀髪ウィッグなびかせながら、笑顔で言っていた。


 ──アナリティクスを拝見した時に、『ジャンルのブレ』以外にも、視聴データに軽い『()()()』が観測できたんです。

 ──視聴者に人気のあった特定の箇所シーンって感じでしたね。

 ──そこへの俺の見解とアクションのアイデアを記載しておきました。後ほどご覧になってください。


「ノイズって……これか……」


 特筆されていたのは、今から1年も昔に行った生放送のデータだった。

 まだ登録者数も少なかった頃。配信のワンコーナーとして、イラストも全く関係ない場面で、視聴者の視聴維持率がどーんと高くなっているシーンがあった。


 ──そのシーンは……


「あ……」


 そのシーンの正体を知って、黒塚有子は、言葉を失った。


 ──あぁ……なるほどねぇ……。

 こりゃあ確かに……ノイズだわ……。


「……っ、……ふ……うぅ……っ……」


 黒塚有子は、思わず口に手をあててうずくまった。

 分厚い眼鏡を外して、溢れる涙を袖でぬぐう。


「う……うぅ……っ、う……っ…………」


 嗚咽を漏らしながら黒塚有子は思い出していた。


 自分が創作を楽しめた理由。

 自分が創作を好きになった理由を。




 今回も読みいただきありがとうございます。


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