ノイズ①
▽
夜。暗い自室。
絵師系VTuber・黒縁ぐらす──、いや、
黒塚有子は椅子に座ってペンタブを握ったまま考えている。
思い出すのは、佐々木蒼プロデューサーの言葉だ。
──まずは黒縁ぐらすさんが配信を始めたきっかけを……根本の理由や、原初の成功体験を思い出してみたほうが良いです。
──そもそも、あなたは、なんで創作を始めたんですか?
「……理由、かぁ」
昔から表現者として生きていくのが夢だった。
だからイラストレーターとしての仕事に飛びついたし、VTuberの活動も頑張れている。
──やっとここまで来れたのだ。
──いま歩みを止めるわけにはいかない。
──登頂するなら、きっと今しかないから。
「……なんか確かに、頑張り続けること自体を目的にしてた感はあるなぁ〜〜……」
黒塚有子は机の上に伏せた。
ほっぺたが潰れる。
顔面で分厚い眼鏡が潰れて鼻柱にめりこむ。
痛い。
「……私、何が楽しくて、創作を好きになったんだっけ」
黒塚有子が絵を描き始めたのは高校生の頃だった。
買い替えてもらったばかりの大きなスマホで、無料アプリを入れて、指で好きなアニメのファンアートを描き始めたのだ。
それからTwitterアカウントを作って発信しだして、色々に手をだして今日に至る。
なぜ将来の夢になるほどに、のめり込んだのだったか。
「……あ〜〜っ、パッと思い出せたら苦労せんわなぁ〜〜〜〜っ! まあいいやぁ〜〜、もうちょいで配信の時間だし、佐々木Pに貰ったアドバイス再確認しとこかね……」
黒塚有子は机の上で視線だけをあげると、TwitterのDMからダウンロードしたテキストファイルを開いた。
ファイルの中には、黒縁ぐらすのYouTubeアナリティクスのスクリーンショットと佐々木Pの所感が書き連ねられていた。
──もしかしたら参考になるかもしれないので、今日語れなかった俺の雑感もDMに送っておきますね。
佐々木Pは、マク様の綺麗な銀髪を靡かせながら、笑顔で言っていた。
──アナリティクスを拝見した時に、『ジャンルのブレ』以外にも、視聴データに軽い『ノイズ』が観測できたんです。
──視聴者に人気のあった特定の箇所って感じでしたね。
──そこへの俺の見解とアクションのアイデアを記載しておきました。後ほどご覧になってください。
「ノイズって……これか……」
特筆されていたのは、今から1年も昔に行った生放送のデータだった。
まだ登録者数も少なかった頃。配信のワンコーナーとして、イラストも全く関係ない場面で、視聴者の視聴維持率がどーんと高くなっているシーンがあった。
──そのシーンは……
「あ……」
そのシーンの正体を知って、黒塚有子は、言葉を失った。
──あぁ……なるほどねぇ……。
こりゃあ確かに……ノイズだわ……。
「……っ、……ふ……うぅ……っ……」
黒塚有子は、思わず口に手をあてて蹲った。
分厚い眼鏡を外して、溢れる涙を袖でぬぐう。
「う……うぅ……っ、う……っ…………」
嗚咽を漏らしながら黒塚有子は思い出していた。
自分が創作を楽しめた理由。
自分が創作を好きになった理由を。
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