第3章 思考停止による安堵
2022.8.24 7:30
テレビのワイドショー番組で巨大不明生物の正体を考察
「巨大未確認生物襲来!」
「イズ県に巨人が2体出現、自衛隊機がこれらを撃破」
「巨人の正体に迫る!」
司会者女「それでは専門家先生方の意見をお聞きしましょう」
巨人2体の写真、荒らされたシモダ市街の街並みの映像
水族館長 男 小野アクト
「はっきりしたことは言えませんが、クジラの変異種ではないでしょうか!それ以外考えられません」
インチキ宗教家 女 ジャヌビア・メトホルミン13世
「何を愚かな!これは神からの啓示です、彼らは使徒とでもいうべきか。巷では第1巨人、第2巨人なんて呼んで殺してしまったが、とんでもないバチ当たりですぞ!せめて第1使徒アルツ、第2使徒ハイマーと呼びなさい!」
医者 男 仙野シド
「まあみなさん落ち着いて。今のところ正体は不明ですが、ずば抜けて大きいことを除けば人間のようにも見えます。特に老人のようですね」
司会者 男 加藤テオドール
「結局上陸はしなかったんですが、何がしたかったんでしょう」
医者 仙野シド
「身長が推定でも30mから40mもありますし、重量は相当なものです。自重を支えることができないから上陸は難しかったのでしょう。陸に上がったら死んでしまうクジラと一緒ですよ」
カルト宗教家 ジャヌビア・メトホルミン13世
「何を愚かな! あれは神から遣わされた使徒ですよ!啓示ですよ!」
司会者
「まあおちついて」
カルト宗教家 ジャヌビア・メトホルミン13世
「ニホン国をー、ぶっこわーす!」
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老人ホームでテレビ(巨人関連のニュース映像)を見ている職員と騒いでいる認知症老人。
職員「頼むからメシん時に徘徊するなや」「こいつも駆除してくれよ、国でよ!」
転倒する認知症老人。「いたい…」
男「くそっ、事故報か…」
悲しい顔や安堵の顔などさまざまな表情でニュースを見ている老人ホームの老人たち。
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2022.8.24 14:12
シモダ港
ニュース音声
「シモダ港は本日から営業を再開…」
「海水浴シーズンですが、イズ県東岸の海水浴場は当面の間、遊泳禁止となり…」
「イズ県沿岸の海水からは軒並み病原性大腸菌O-157が検出され…」
「ニホン政府は南イズ町及びシモダ市に調査団を派遣し…」
大便臭が漂うシモダ市海岸を役人が視察。巨人の遺骸が浜に打ち上げられている。
役人「きたねえ、まさに汚染水の海洋放出だぜ」
「ひでえ、うんこの成分が海岸にこびりついてやがる」「でもまあ海中でやってくれたから海水で希釈されてそのうち気にならなくなるだろう」「このにおい、何とも言えない便臭、昔、ばあちゃんを入れた老人ホームのにおいだ」
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2022.8.25 10:15
ニュース番組
官房長官の会見
「この度出現した巨大未確認生物は既に自衛隊によって害獣として駆除されており、脅威は排除されました。イズ県シモダ市近辺に若干の被害をもたらしてはおりますが、極めて軽微であります。また再び同様の事態が起こる事は想定できず、よって、トーカイ各県に発出されていた緊急事態宣言を、只今をもって解除致します」
女性アナウンサー
「経済被害が数百億円以上とも言われる今回の巨大未確認生物災害について、政府は、再び同様の生物災害が発生する可能性は無いとして、緊急事態宣言を解除しました」
街の声 子連れ女性
「不安ですね、またいつ出現するか思うと海水浴には行けないですね」
街の声 老人男性
「いやぁ〜、解除になってよかった。こんなのどうしようもないし、考えても仕方ないことは考えなくていいんですよ。どうせ我々は老い先短いんだし、ふへへへ」
街の声 オタク系30代男性
「怖いだとか(緊急事態宣言が)解除になって良かったとかの問題じゃないんですよ、あの巨人は何者なのか、どこから来たのか、どこへ行くつもりだったのか、これらが全く不明」
女子アナ
「様々な意見がありますが…」
テレビに緊急地震速報の表示が入る。
「緊急地震速報です 強い揺れに警戒してください」
「緊急事態宣言が解除されたので街の皆さんもひと安心といったところでしょうか…」
老人ホームでテレビを見ている老人たち。
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海面からブクブクと気泡と共に巨人の体の一部が出てくる。
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巨大な老人が駆除され、人々は一応の安堵をする。
やがて多くの民衆は考えることをやめ、事実を見ずにいることで安心を得る。
不都合な事実を無いことにして安心する。
愚かでいることが楽なのだ。
何も考えず愚かなまま流れに身を任せるのが楽なのだ。
破滅に向かっているとも知らずに。
第3章 終了