第2章 害獣
2022.8.22 11:46
イズ県イズ半島沖
海中から現れるあぶく。
浜で泳ぐ海水浴客。
海の中でいちゃつく男女。
二体の巨人が海から顔を出している。
「ちょ、おま…」「やだ、なにあれ、こわい」「やばいよやばいよ」
不安そうな様子で巨人の頭を見つめる男女。そのほかの海水浴客も恐れおののいて浜に上がる。
「あ、あれは…」「なんて大きさなの…?」
浜辺にいる人々はポカーンとしてその場に立ち尽くして見ているか、スマホで撮影している。
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2022.8.22 11:50
沖に現れた巨人の頭のそばを通過する遊覧船
遊覧船の客は恐怖の表情で見上げる。
「ぽかーん…」「何なんだ、あれは…」
第1巨人アルツの顔アップ
第1巨人アルツが叫ぶ「グワオオオ…」
同日11:56
海中から現れた第1巨人アルツは体高約40メートル、体が重くて上陸できず、海岸線の海中を歩いている。
埠頭を逃げ惑う人々と見物する人の群れが入り乱れる。
「うわー、こっちへ来たぞー」「バケモノだー」
海中で泥状の便を尻穴からひり出すアルツ。
海水が茶色く濁り、大便臭がする。魚が浮いてくる。
人々「うんこだー!!」「海ン中でうんこ漏らしやがったー!!」
同日12:15
テレビ局のヘリが飛んできて、実況中継開始
ヘリのレポーター「わたしは今、イズ県シモダ市上空に来ています、ご覧ください、バケモノのような頭が海面から顔を出しています!」
「なんてことでしょう、バケモノが海に汚染水を放出しているようです、こんな光景はいまだかつて見たことがありません!」
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テレビ
「ニュース速報 巨大未確認生物がイズ県沖に出現 遊覧船が転覆か」同日13:15
国会議事堂 居眠りをしている総理大臣
同日13:20
混乱するイズ県庁。鳴りやまない電話。
「怪獣が出現!?」「クジラが街で潮を吹いている!?」「ハマオカ原子力発電所が爆発した!?」「北チョウセン国のミサイルがハマオカ原発に命中した!?」「巨人が街で暴れまわっている!?」「アジア系外国人が各地で略奪をしている!?」
「一体、何が起こってるんだ!」
イズ県庁第1会議室にてイズ県知事は緊急会議を開催。
知事「被害状況は?」
役人「えっと、情報が錯綜していますが、巨大な化け物がシモダ港沖で水様便多量の排便をしているようです。何を言っているのか分からないと思いますが、私も何が起こっているのかよく分かりません!」
知事「正確な情報だけください」
役人「この映像をご覧ください。これは市民が撮影したものですが、ユミガ浜に何らかの巨大未確認生物が現れたもよう。なお、巨大未確認生物は複数いるようです。現在確認されているだけで2体。小さい方は海上の頭部だけで高さ約5m、大きい方は頭部の高さ約6mほどと推定。いずれもまだ海中にいるようです。」
役人「うち1体は海中で多量の下痢便を排泄したようです。」
アルツの排便シーン(市民の撮影映像)
「むむむ、これは」
知事「1体じゃなく2体もいるのか!? クソッタレめ!」
副知事「これは…県で対処できるレベルではないかと…」
臨時ニュース
アナウンサー「ここで速報が入ってきました。イズ県沖に出現している巨大な害獣に対し、自衛隊に害獣駆除としての災害派遣出動要請が入ったとのことです…」
「なおこの害獣は巨大な老人の頭部のように見えますが、正体は不明です」
「ちょっと何を言っているか分からないかもしれませんが、私も何が起こっているのか分かりません」
サイタマ市オーミヤ区の街頭ビジョンのニュース映像
「巨大な老人のような害獣はイズ県シモダ市街地に上陸したとの情報もあります」「また、たった今、北チョウセン国がニホン海に向けて新たなミサイルを発射したとの情報が入りました…」
ざわ…ざわ… がや…がや…
街の人たち「いったい何が始まるんです?」「第三次世界大戦だ!」
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同日13:30
自衛隊は建前として武力派遣としてではなく、害獣駆除の災害派遣として出動。
陸自から戦車隊が出動、海自からイージス艦とP3-C対潜哨戒機が出動、空自からF2戦闘機が出動
統合幕僚長「まずは偵察だ!できるだけ正確な情報を集めろ!」
P3-Cが第1巨人アルツ上空に到達。
機長「こちら巨人上空に到達。海上に巨人の頭部二つ見ゆ、いずれも海中に巨大な胴体が隠れていると推定」
副機長「ソノブイ投下します」
P3-Cがソノブイ投下。
統合幕僚長
「P3-Cからの索敵情報が来たぞ」「データリンクする」
統合幕僚長「目標は巨人だ。40m級巨人が1体、30m級が1体だ。便宜上、40m級を第一巨人アルツ、30m級を第二巨人ハイマーと呼ぶ」
「繰り返す、40m級が第1巨人アルツ、30m級が第2巨人ハイマーだ」
機長「了解。攻撃準備完了」
統合幕僚長「これより害獣駆除を実施せよ」「作戦名は“オペレーション ウミボウズ バスター”だ!」
機長「了解。ウミボウズバスター開始!」「我、これより第一及び第二巨人を撃滅せんとす」
副長「対潜水艦用短魚雷用意!」
乗員「はっ!」
機長「目標はあの頭だ、あの口に魚雷を放り込むぞ!」
副長「それでは目標が浅すぎて対潜用短魚雷では攻撃不可能です!」
機長「可能だ!魚雷が深く潜らんように海面すれすれで落とす。そして相手が生物じゃ自動追尾もできんだろうから目標に肉薄する!」
副長「ええっ!」
機長「一式陸攻にできてP3-Cにできないわけがない!」
低空で海面すれすれを飛ぶP3-C。航空魚雷を放つ。
魚雷のほうを向いて大口を開けるアルツ。口の中に魚雷が突っ込む。
副機長「これぞまさに口腔魚雷!」
山の向こうで爆発あり。
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同日13:55
ドカーン!轟音が県庁を襲う。
「きゃーっ」「何の音だ」「海の方からだ」
緊急対策室
役人「何だ、なにが起こってるんだ?」
副知事「自衛隊の攻撃が始まったものかと…」
知事「住民の避難状況は」「さっきの爆発音は何だ」「バケモノを倒したのか」
同日14:00
国会の委員会中、総理と副総理に耳打ちをする役人。「ひそひそ…」
タブレット端末に映る第1巨人アルツ。
副総理が第1巨人アルツの駆除映像を見て「これが巨人か」「まるで痴呆老人だな」「やったか」
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同日14:00
お茶の間のテレビニュース
「イズ県に出現した2体の巨大未確認生物について、政府はそれぞれ非公式ながら、第1巨人アルツ、第2巨人ハイマーと呼称しています。なお、すでに自衛隊による害獣駆除作戦が始まっている模様です。自衛隊はこの作戦をウミボウズ駆除作戦と命名しました」
父親「こりゃ害獣駆除ってレベルじゃねーぞ!」
子供「ろうじんこわい」
お母さん「あれは人間じゃないわ、バケモノよ」
テレビ「これは撃破された巨人の映像ですが…」
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海に漂う頭のない第1巨人。少し離れた海上からそれを見つめる第2巨人ハイマー。
ハイマー「ウオオオオオ…」
やがて海に潜るハイマー。
同日14:02
「もう一体が」「海に潜航」「仕留めるぞ」
「了解」「対潜爆雷投下」
P3-Cがハイマーに爆雷攻撃開始。
潜航するハイマーに爆雷が命中。海面が赤く染まる。バラバラになった肉体が散らばる。
「巨大未確認生物の沈黙を確認」
「任務完了、帰投する」
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2022.8.22 夕刻
富士の山に夕陽が沈む。
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自衛隊法 第八十三条(災害派遣)
都道府県知事その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を防衛大臣又はその指定する者に要請することができる。
第2章 害獣 終了