第1章 不安を帯びた娯楽
この物語を
生きる意味がないと言われた全ての人々に
捧ぐ
二十一世紀、ニホン国
この国は超高齢社会となり、もはや国民の三割は高齢者となっており
しかもその高齢者の5人に1人は認知症を患っている。
そんなニホン国は、幾度となく天変地異に襲われ(震災映像、原発爆発)
また常に軍事的脅威に晒されている(北朝鮮ミサイル、中国不審船、ロシア軍機)
そんな中、多くの国民は老いと恐怖に打ちひしがれながらも、なお惰眠をむさぼっているのだった。
第1章 不安を帯びた娯楽
「うおーーーっ!」
「いたい、いたい」
「なんでうんこ食ってんだよ!」
殴りかかるポーズの男
騒ぐ老人
グラグラっ…
幾人もの老人が立っているが地震の揺れにさらされている。
老人「うちに帰りたい!もう死にたい」
ドゥリンドゥリン…ドゥリンドゥリン…
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2022年8月22日 10時01分
緊急地震速報(気象庁)
イズ県沖で地震 強い揺れに警戒
カントー地方 トーカイ地方
震源地の地図画像
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「揺れてるよ」
ふらつく認知症高齢者
トーキョーシブヤからのテレビ中継画面
国会議事堂、寝ている総理大臣
北チョウセン国の移動式ミサイルが準備されている。
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2022年8月22日 11時05分 晴れ
老人ホームの前をルーランがバイクで通過すると、道端に転倒しているスーパーカブと男を発見。「!」
男「イテテ…くっそー…」
バイクを下りて駆け寄る。
ルーラン「大丈夫ですか」
男「ああ、大丈夫、夜勤明けでふらついちゃってね」
ルーラン「あー、腕から出血していますね」
ルーランは男の腕をペットボトルの飲料水で洗い、タンクトップの裾を破いて包帯にして止血をする。
男「すまない」
ルーラン「これでよし」
男「ありがとう」
ルーラン「そういえばさっきからズボンのすそに大便が付着していますね」
男のズボンの裾にうんこのシミがついている。
男「あっ!」
男「俺のうんこじゃないんすよ、ほんと」「いやー、老人がおむついじりをしてうんこをまき散らしましてね、弄便って言うんですがね、その処理です」「イライラしますよほんと、ははは…」
男「こんなこと思っちゃいけないんでしょうけどね、ボケてうんこを弄るような人たちは生きていて意味があるんですかね。あまつさえ、そのうんこを食うなんて。私はあんな人たちを世話して何か意味あるのかって思いますよ」
ルーランは昔を思い出した
ルーラン「生きる意味の有無は、その人自身が決める…」
男「え?何か言いました?」
Nアラートの警報音 ウー ウー ウー ウー
「ミ サ イ ル は っ し ゃ」「ミ サ イ ル は っ し ゃ」
ヴワッ ヴワッ ヴワッ ヴワッスマホ画面にNアラートの通知表示あり。
ー!緊急速報ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーたった今ーー
政府からの発表
2022/08/22 11:15
「ミサイル発射。ミサイル発射。北チョウセン国からミサイルが発射された模様です。頑丈な建物や地下に避難してください」
(総務省 消防庁)
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男「またですね、最近多いですね」
ルーラン「ええ」
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同日11:15
国民保護に関する情報
ミサイル通過。ミサイル通過。先ほどのミサイルは中部地方を通りタイヘイ洋に落下した模様です。不審なものを発見した場合は決して近づかずに警察や消防などに連絡してください。
対象地域:カントー地方 トーカイ地方 コウシンエツ地方 トーホク地方
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この国にたびたび降りかかる災害や軍事的脅威は
陰鬱で退屈な毎日を過ごす国民に対し
一時の緊張感と高揚感をもたらしていた。
それはちょっとした娯楽のようなものですらあった。
第1章 終了