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白梅と月光  作者: 高崎 龍介
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終「武士」

 深作弥兵衛と竹取輝夜の死闘から早三か月が経った。”怨鬼”および竹取輝夜との激戦によって損傷した常陸國は復興のため近隣の国から多くの大工たちが急遽かき集められていた。

 大工たちの立てる木を打つ音は急ぎ仮設された徳川頼房邸にも響いていた。

「今年中には北町、西町の復興が完了する予定にございます。そうすれば半数の住民が戻ってくるとの見立てもございます」

「・・・そうか。済まぬが引き続き、復興の取り纏め頼むぞ栄次郎よ」

「仰せの通りに」

 出雲での戦後、栄次郎は頼房に取り立てられこうして復興の総監督を任じられていた。

「して、弥兵衛のその後は分かるか?」

「・・・先日、手紙が届いておりました」

 栄次郎は懐から封書をとりだすと頼房へと手渡す。中身を広げて確認した頼房はため息を漏らした。

「まったく困ったものだ」

「ほんとです。人助けのために全国を巡るなど」

「彼奴らしいがな」

 そして窓から庭でたたずむ娘へ視線を向けた。

 静かに池を見つめるその姿はかつての活発な様子から一転して別人のようにも見られた。

「ずっと、ですか?」

「帰りを待っているのだろう。今度こそ彼奴に相応しい女になると言っていたからな」

「・・・不気味ですな」

「失礼な奴だ。だが今回ばかりは同意してやろう」

 軽い冗談を飛ばせるほどの関係を二人は築けていた。


 庭で静かにたたずむ少女、総子は胸元で握りしめた文の相手に想いを巡らせていた。

 自分を助けるために必死の思いで戦いに臨んだ自分の想い人。夢見心地でもその光景は今でもはっきりと思い出すことができる。

 だからこそ彼に相応しい女になるべく日々をいそしむことを決めた。

(私は待っているぞ、弥兵衛)

 その瞳にはただ弥兵衛への想いだけが強く映っていた。


 さざ波が聞こえる丘で弥兵衛はお茶を啜っていた。輝夜との戦いの後、常陸國で一か月ほど静養していたがかつて師とともに歩んだ全国を巡る旅をもう一度しようと書置きだけ残して旅立ったのだった。

「お客さん、どこから来たんだい?」

「常陸です」

「あら、ずいぶん遠くから。旅でもされているんですか?」

「ええ。昔、師と全国を巡ったことがありまして今更ながらまた歩いてみたくなったもので」

「そうですか。こんなぼろ小屋ですがゆっくりしていってください」

「ありがとうございます」

 長年営んでいると思われる老婆から話しかけられながらも朗らかに答える弥兵衛。

 わずかな期間とはいえ、命を懸ける戦いを何度も行ったこともあり心のどこかで安寧を求めていたのかもしれない。だからこそ旅に出るなどという突飛なことをしたのだろう、と自己解釈していた。

「・・・穏やかだ」

 団子を頬張りながら空を眺める。

 ふと弥兵衛の耳が何かの音を聞きつけた。

「おや、もう行くのかい?」

「すみませぬ。この近くでの要件を思い出しまして。また今度ゆっくり寄らせていただこう」

「あいよ。気長に待ってるさ。これ持っていきな」

 そういうと老婆は小さな袋を弥兵衛へと渡してきた。

「これは・・・団子ですか」

「旅路のどこかで食べな」

「忝い」

 そう言い残して弥兵衛は走り出した。そして数分とおかず街道にて先ほど聞きつけた声の主と遭遇した。

「大丈夫か?」

「あ、あんた・・・早く逃げたほうがいい! 鬼が・・・・鬼が・・・」

「ほう、それはこやつのことか?」

「え・・・・うわあああああ!!!」

 道に倒れこんでいた男の背後に人の背丈よりも大きな鬼が立っていた。

 鬼は雄たけびを上げるとその両腕を二人めがけて振り下ろしてきた。

「・・・・ぐ・・・・あれ、生きてる?」

「怪我はないか?」

「あ、はい」

 男は弥兵衛のわきに抱えられていた。地面に立たされた男は目の前で起きた出来事に思考が追い付いていない様子だった。

「ここにいろ。安心しろすぐに終わる」

「だ、だけどあんたまで・・・・」

 そう言い終わる前に鬼は弥兵衛へと襲い掛かる。

「危ない!!」

「極刀流・・・」

 だが鬼の一撃が弥兵衛へ当たることはなく、男が瞬きをしている間に鬼は首を刎ね飛ばされて地面に倒れていた。

「な・・・なにが・・・」

「だから言っただろう?」

 そして男に怪我がないことを改めて確認する。

「この街道を北に進めば町があるそこへ行き事情を話せ。物わかりのいい者たちが多い。お主の言葉にも耳を貸してくれるだろう。あとのことはその者たちに頼め」

 そう言うと弥兵衛は鬼の来たほうへと歩き出す。すると周りから続々と先ほどの鬼と同様の個体が現れる。

「あんた、何者だ?」

「拙者は、常陸幕府征夷大将軍徳川頼房の懐刀にして極刀流七代目当主・・・」

 腰に差した刀をとりだす。焔が燃えるように見える刀身。それが業物であることは男の目にも明らかだった。

 刀を構えると同時に周囲の鬼たちが一斉に襲い掛かってくる。

「・・・深作弥兵衛だ」

 弥兵衛は刀を構え、鬼たちへ斬りかかっていった。


ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

まだまだ拙い文ですが、少しずつ直していきます。

この作品が読んだ人の心のどこかに残ってくれていれば嬉しいです。

「皆さんに幸あれ」

またどこかでお会いしましょう。

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