密貿易
「ここであってるな」
漁船を走らせること数百キロ。
かなり沖合にまでやって来た。
「ええ、ここですね」
ある地域から脱出してきた人らと、ここで落ち合うことにしている。
俺らはその人らを救助し、引き返す役目を担っていた。
簡単に言えば密入国なわけで、はっきりと褒められるものではない。
しかし、相手は死ぬ気でこちらに来ているわけで、ここからこちら側が世話をする人らだ。
丁重に会わなければならんだろう。
「あれか」
しばらく洋上に漂っていると、ライトを消して船が近づいてくる。
「合図を送りましょう」
LEDの懐中電灯を持ち、相方が合図の信号を送る。
すると相手も同じ合図を送り返してきた。
「正解だな。さっさと済ませよう」
ライトをつけず、新月の星明りの中、彼らから荷物を受け取る。
入国したい人らとそれぞれの荷物、あとはこちらの上が発注していた諸々のものだ。
互いに渡り板をわたし、人をこちらに急いで移していく。
荷物も並行して相方が受け取っていく。
「OKだな」
相手も終わったことを知らせる合図を送り、こちらも受け取ったことの合図を送る。
板を撤収すると、さっさと相手は出発していった。
「こっちも行くぞ」
「はい」
そのまま速やかにここから逃げるように去る。
今回の入国者は9名。
荷物は衣装ケース4つ分。
これらを受け取り、すみやかに海域から逃げ出した。