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第5話 策士な幼馴染

「ロイ、今日は終わりにしていいぞ」

「は~い」


 陽が頭の真上に登った頃、休憩が終わり引き続きジャガイモの収穫をしていた僕に父さんが声を掛けてきた。


「お、今日は随分と進んだじゃないか」

「へへ、六歳になった僕はすごいんだ」


 上がっていいぞと言うついでに収穫の進行状況を確認した父さんが驚いているので僕は胸を張って六歳児らしいドヤり方をする。

 こうしてドヤれるのは全て【芋掘り上手】のお陰だ。【芋掘り上手】は単にステータスの『器用さ』だけを上げる技能スキルだと思っていたけど、副次効果として…いや、本来は芋を掘る技術が上がるというのが【芋掘り上手】の主な効果なのだと休憩明けから今までの数時間で思い知らされたよ。

 籠を担いで周りを見渡すと先ほどまで青々としたジャガイモの葉で隠れていた大地がそこら中から顔を出しており、その大半は父さんが収穫したところだけど、母さんが収穫した面積と僕が収穫した面積の大きさはほとんど同じ。この前のジャガイモ収穫の際は父:母:僕=6:3:1くらいだったから大成長だ。【芋掘り上手】様様である。


「あら?ロイ、こんなにやったの?」

「もっちろんだよ。すごいでしょ!」

「ええ、本当にすごいわ」


 父さんの後から来た母さんにも驚かれ、そして褒められた僕はホクホクした気持ちで一人家に帰り水浴びを済ませる。


(いやぁ、やっぱり父さんと母さんに褒められるのは嬉しいな~)


 ステータス上での知力は100を突破したけれど僕は所詮六歳児。ステータスが上がっても僕は僕のままでいられることに喜びと安心感を覚えながら僕は自室のベッドに横たわり睡魔に身を委ね瞼を閉じた―――


「ロ~イ~ク~、あ~そ~ぼ~!」


 ―――けど、ドンドンと階下の方から戸を叩く音とキンキンと耳に響く声のせいで睡魔は一瞬にして逃げてしまった。睡眠失敗、幼馴染襲来。


(あ~…そう言えば今日ノエルと遊ぶ約束してるんだった)


 僕としたことが忘れていたようだ。加護に夢中で約束をすっぽかしてしまった。

 悪いのは完全に僕なので、ベッドから跳ね起きてダッシュで階下の玄関に向かう。


「ロイクぅ……約束したじゃ~ん…うぅ~」


 扉に手を掛けた時、木の板一枚向こうから今にも泣きだしそうな幼馴染の声が聞こえた。


(まずいまずいまずい!ノエルが泣いちゃう!)


 焦りをそのまま力に変えて扉をバンッと開く。


「ごめんノエル!忘れてた!」


バンッ!


『《条件:全力で扉を開ける》を満たしました。

【底辺神の加護】により技能スキル――【扉開け】を獲得します。

 前世と過去の経験により【扉開け】が【扉開け上手】になりました。

 前世と過去の経験により【扉開け上手】が【扉開け名人】になりました。

 前世と過去の経験により【扉開け名人】が【扉開け仙人】になりました』



 こうなったら言い訳なしの正面突破あるのみ。扉を開けてすぐのところに立っていた半泣きの少女の眼を見て謝る。天の声に意識を割く余裕なんてない。


「うぅ~…そんなにわたしと遊ぶのいやなんだぁ……」


 残念失敗。正面突破しようとしたらとびっきりの強い力で弾き返されました。その力を人々はこう呼ぶ、美少女の涙と。


「あ、いや、そうじゃなくて…本当にただただ忘れていたというか…そのぉ…」


 どうすればノエルを泣き止ませることが出来るのか。考えても考えても答えは出てこない。ちくしょう…知力105をもってしても女の子の涙には抗えないってのか!


「ほら、やっぱりぃ…わたしと遊びたくないんだぁ……」


 結局何か良い言葉を掛けることの出来なかった、それどころかむしろ泣きっ面に蜂な言葉を掛けてしまい空色の瞳からはついに涙が溢れ出す。


 うわっ、めんどくせぇと思わないでもない。ただ悪いの全部僕なんだよね。畑仕事が終わったらすぐにノエルの家の前に集合するって約束したんだ……僕の方から。


「そんなことないって。僕、ノエルと遊ぶのすっごく楽しみにしてたから!」

「ならどうして忘れたの…?」

「……」


 ぐうの音も出ないとはまさにこのこと。まさか前世の記憶が蘇って、加護が~…とか言っても信じてもらえないだろうし、そもそも端からそのことを言うつもりのない僕は黙りこくる。

 どうしたらこの気持ちを伝えることが出来るのだろう。ノエルと遊ぶことが嫌なわけない、本当に心の底から楽しみにしていたんだ、と。男の少年時代にそういった記憶がないものかと探ってみるけど彼はずっと机に噛り付いていた。


「言えないの…?」

「いや、そういうわけじゃ…」

「そういうわけじゃ?」

「……ない」


 気付けば僕は追い詰められていた。


「言ってみて?わたしおこらないから。ロイクのこと知りたいな」

「…本当に?」

「本当に」

「…誰にも言わない?」

「もちろんよ」


 そう言ってノエルは潤んだ瞳を細めて笑う。その表情はとても綺麗だった。


(あ、まずい。嵌められた)


 それに気付いたのは「内緒話なら家の中で」とノエルに手を引かれた後のことだった。




 ◇◇◇




「へぇ~。じゃあロイクには前世の記憶があって、神さまの声が聞こえるんだ」

「うん…まぁそんなところかな」


 ノエルが僕のベッドに座り、井戸水で冷やされたエールをちびちび飲みながら「へぇ」と納得する。僕もその横でドキドキしながらノエルと同じように冷えたエールをちびちび。


 結局、ノエルに手を引かれ自室に連れ込まれた僕は昨日の夜、【天の声】を聴いたところから前世の記憶をはじめとする誰にも言わないでおこうと思っていたことの全てを彼女に話してしまった。

 もうこの際だ、認めてしまおう。僕はノエルのことが前々から好きだったのだと。

 天使のように可愛らしいその声が、村娘とは思えないほど綺麗な銀絹の髪が、乾燥知らずのプルンとした唇が、空のように透き通った水色の瞳が、コロコロと変わる人間味に溢れるその表情が好きだった。もうね、超大好き。

 だからノエルに「わたしロイクのこと知りたいな」…な~んて言われたら鼻の下伸ばして言っちゃいますよ、全部。実際全部言っちゃったし。


「本当に誰にも言わないでね?…その、前世の記憶があるとか神様の声が聞こえるとか知られたら、教会の人は黙っていないだろうから」


 もう何もかもが後の祭りだけど、一応釘は刺させてもらおう。


 僕が初め、前世云々を他の人に語らないようにしようと思っていたのはこの村にもある教会が関係している。

 僕はその教会がどんなところでどんな人がいるのかを知らない。たまに創成神様へお礼を言いに行くだけだから当然だ。でも男の記憶が教えてくれた。教会にはなるべく近づかない方がいいって。教会は危ないところだって。

 宗教は人の心を救う薬にもなれば人の心を腐らせ目を曇らせる毒薬にもなる。他と違う異端者を断罪せよ、怪しきは有罪なり。

 流石に極端すぎないか?と思うけど、人生の先輩である男の注意は無視するべきじゃない。それが宗教を客観視することのできる無神論者からの言葉であればなおさらに。


 子供の口は羽のように軽い。もしも彼女が我慢できずに他の子にこのことを喋り、教会に伝わってしまったら…。子供の戯言で片付けられるのが関の山だろうけど、可能性はゼロじゃない。

 以前の僕ならノエルは絶対に他の人には言わないもん!って彼女を信じていただろうけど、今の僕は無根拠に人を信じるなんて愚かな行為はしないよ。だから釘を刺す。

 だって言っちゃったから。恋煩いによって盲目になってしまった僕、彼女のこと信じちゃったから。


「本当にお願いだよ」

「もちろんよ。だってこれはわたしとロイクだけのヒミツなんでしょ?」

「う、うんっ!」


(いや、やっぱりノエルは絶対に守ってくれるよ!)


 宗教よりも恋煩いの方がよっぽど人を盲目にさせる。この後、家の中でおままごとを一緒にやって、日が暮れる前にノエルは帰っていった。


「…はぁ。やっちゃった」


 一人残された自室で膝を抱えながら何とも言えない無力感が僕を襲った。









「おかえりなさいあなた。今日は先に水浴びしますか?それともご飯にしますか?」

「ノエルっていう選択肢はありますか?」

「え?」

「ん?…あっ、いやっ、違くないんだけど違くって…えっと…その…じ、じゃあ、ご飯にしようかなぁ~、あはは…」

「あっ、はい、分かりました。じゃあ今からスープを持ってくるので机の上を片付けてもらってもいいですか?」

「よろこんで」



 おままごとはとても楽しかった。

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