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前編

 年末が近づく頃、レフィエリには『聖夜』と呼ばれる夜がある。


 その日は国民の多くが夜の宴を楽しむことが定番となっており、街の飲み屋も盛況になるのがいつもの流れだ。


 そして、女王レフィエリシナらもまた、毎年仲間で集まり楽しい一夜を過ごす。


 ちなみにフィオーネはもちろん毎年参加している。

 会場はレフィエリシナの自室だ。


「お母様! 今年も開催されるのですね! この会が!」

「ええ、もちろんです」


 フィオーネはこの会が好きだ。

 何も気にせず仲間と盛り上がることができるから。

 そして今年は、これまでとは違い、リベルらも参加する――これは初めてのことだ。


「し! か! も! 師匠もいる!」

「参加報酬が出ると聞いてー」


 部屋のすみで既に酒を飲み始めているエディカはリベルの方をちらりと見て「金かよ」と呟いていた。


「あの……おじさんも……来てしまって、良かった……のですかね?」


 そんな中気まずそうに小さくなっているのはリベルについてきた自称おじさんの男性アウピロス。


「ええもちろんです。アウピロスさんにもぜひ参加していただきたく思っていたので、こうして来ていただけて嬉しいです」


 レフィエリシナはそう言ってアウピロスに微笑みかける。


「そ、それは良かった……」


 面に少しだけ安堵の色を浮かべるアウピロスだったが、ちょうどそのタイミングでアウディーが入ってきたために、気まずそうな顔をしながら壁にひっついた。


「アウディー、お酒はこちらに置いているわ」

「おっ、よさげな酒ですね!」

「飲み過ぎないようにしてちょうだいね」

「はい」


 入ってきたばかりのアウディーだが、すぐに棚の上の酒の瓶を物色し始めた。


「師匠はお酒は飲まないのですか?」


 早速酒に興味津々な二人を目にしてふと思ったことを口にするフィオーネ。


「飲まないねー」

「なぜですか?」

「恥かきたくないから、かな? 雇われの兵にもよくいたよー、酒飲んで派手にやらかすやつー」


 そこへ口を挟んでくるのはアウディー。


「あんたは飲まなくても誰にでも手出せるもんな!」


 少し腹を立てたように表情を固くするアウピロス。

 しかし当のリベルは笑顔を保っている。


「僕も相手選ぶよ」


 ただ、その声はどこか冷めていて、笑顔さえも刃を向けているかのようであった。


 ちなみに。飲まないのか、と尋ねはしたが、フィオーネもまたお酒には手を出さないタイプの人間である。というより、これまであまり機会がなく、まだ飲んでみていないのだ。きっかけがなかったのだ。もっとも、飲んでみたいと思ったことも特にはないのだが。


 刹那、レフィエリシナは透明なグラスに水が入ったものをリベルへ差し出した。


「貴方には水を与えましょう」

「ありがとー」

「レフィエリの水は美味しいのですよ」

「かきごおりも美味しいですもんねー、分かりまーす」


 フィオーネは近くにあったベッドへ腰を下ろす。その流れでリベルも同じようにした。こういう時ベッドは便利だ、椅子のようにも使える。


 エディカとアウディーは酒を囲んでご機嫌だ。


 楽しそうな二人を見て、やはり親子だな、と思うフィオーネ。


 父娘、楽しそうな二人を見るたび、フィオーネは少し切なさを感じる。これもまた毎年恒例の現象である。というのも、フィオーネには親がいないのだ。母と慕うレフィエリシナはいるけれど、血は繋がっていないので、厳密には親子ではない――日頃は何とも思っていないが、楽しげな父娘を目にした時だけは、どうしても少し考えてしまう。


「二人とも、飲み過ぎてはなりませんよ」

「これうますぎですよ! どうですかレフィエリシナ様も!」

「アウディー……まさかもう酔い気味?」

「やっぱ酒最高ですわ! あー、今年も一年何とか平和で良かった!」


 アウディーの言葉によってレフィエリシナの表情が僅かに曇った、そのことに気づく者はいない。


 レフィエリシナが窓を開けるとひんやりとした風が室内へ吹き込む。

 少し寒いけれど酔っ払いにはちょうどいいかもしれない、とフィオーネは思った。


 ちょうどその時、リベルがフィオーネに声をかける。


「フィオーネ寒くない?」

「え。ま、まぁ、少しは寒いですけど……」


 唐突な話題に戸惑っているフィオーネをよそに、リベルはいつも身体の左側にかけている青い布をほどき始める――そして彼はそれを広げてフィオーネの背にかけた。


「これねー、意外と暖かいんだよ。仕事柄よく外うろつくから重宝してたんだよー。冷える夜にちょうどいいんだよねー」

「確かに……暖かいです」


 言いながらもフィオーネは彼の左肩を見つめてしまう。


「それより袖が気になる、って顔だねー」

「あっ……、す、すみません、その……」


 気まずさを感じるフィオーネだが、当のリベルはあまり気にしていない様子。むしろ、どこか楽しそうである。


「袖もないと思ってた?」

「……えっと、あの」

「これね! 一応袖はある方がいいんだよー」


 リベルは数秒で青い腕を作ってみせる。袖の中に。そして、その光る不思議な腕を伸ばす。


「違和感ないでしょ?」

「た、確かに……」

「こうやって腕を作った時、袖がなかったら不自然だからさー、一応袖もそのままにしてるんだよねー」


 聖夜に袖が一応必要な話、なんて、何だか似合わない。

 そう思いながらも。

 リベルが色々話してくれることにフィオーネは嬉しさを感じていた。

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