第十章 第三話 海の魔物、水飛沫にはご用心
海の魔物が現れたと聞かされた俺は、急ぎ甲板に出た。
扉を開けて甲板に出ると、数多くの海の魔物が次々と甲板に上がる光景が視界に写り出す。
「シロウ、来てくれてありがとうございます。最初はワタクシたちだけでどうにかなると思っていたのですが、数が多すぎますの」
マリーが状況を教えてくれる。
海の魔物の大発生、こんな話は聞いたことがない。だけど、俺のやることは変わらない。こいつらを倒し、魔物たちからこの船を守ることだけだ。
甲板に上がっている魔物は、センボンザクラ、ボーンフィッシュ、人面ヒトデか。こいつらはただのザコではあるが、それでも数が多いと面倒だ。
『強敵は、皆んなでかかれば怖くない』という言葉があるが、数の暴力というのは案外侮れないもの。
だけどまぁ、そんなこと俺には関係ないけれどな。
例え千体だろうと、一万体であろうと、俺には赤子の手を捻るようなもの。
「まずはボーンフィッシュからだ。ゼイレゾランス・バイブレーション」
骨だけの魚に向けて周波数を送る。すると、敵の身体にヒビが入り、次々と砕け散っていく。
今の魔法で全体の三分の一は削っただろうか。
よし、次は。
次の標的となる魔物を考えていると、人面ヒトデが視界に入った。奴らは甲板に上がったはいいものの、まともに動けないようだ。垂直に立ち上がってゆっくりと前進するも、すぐにバランスを崩して倒れてしまう。
愛くるしいが、あれではただの的のようなものだ。マリーとクロエには、こいつらの処理を頼むとするか。
「マリー、クロエ! 二人は人面ヒトデを攻撃してくれ。カーミラは俺と一緒にセンボンザクラを倒すぞ」
「わかりましたわ」
「はーい」
「了解した」
それぞれに指示を出し、能力に見合った敵と戦うように指示する。
「一応強化もさせておくか。エンハンスドボディー!」
仲間たちに肉体強化の魔法をかける。
マリーが鞭で叩き、クロエが弓を構えて矢を放つ。
鞭が人面ヒトデに触れた瞬間、衝撃に耐えきれなかった魔物の肉体が千切れ、バラバラになる。
クロエの放った矢も、ヒトデの中心部に当たると真ん中に風穴を開けた。
あれ? 思っていたのよりも威力が高くないか? 俺、ついうっかり強化をしすぎたかもしれない。
「なんかシロウさんが来てから調子がいい!」
「そうですわね。シロウにワタクシの勇姿を見せつけてアピールするチャンスですわ」
どうやら二人は、戦闘に集中しすぎて俺の強化魔法に気づいてはいないみたいだ。
まぁ、彼女たちが気持ちよく戦ってくれているのなら別にいいか。仲間のやる気を引き出すのも、俺のように能力があり、優れたリーダーの仕事の一つだからな。
二人はこのままにしておいても問題はないだろう。
カーミラのほうはどうだ?
「ほら、ほら、同士討ちをしちゃいな」
彼女は懐から瓶を取り出し、ハリセンボンが魔物となったセンボンザクラに投げつける。すると、敵の肉体は焼け爛れ、方向転換をした。その後、身体の針を飛ばしてセンボンザクラに攻撃を当てる。
カーミラは魔物を別の魔物に変える能力がある。その技を利用し、倒されたセンボンザクラをゾンビ化させ、敵を攻撃していた。
彼女はあのままでも問題はないだろう。変に強化をさせる必要はないな。
「さて、そろそろこの戦いを終わらせるとするか。ファイヤーアロー」
呪文を唱え、無数の矢の形をした炎を空中に展開させる。そしてそれらを一気に解き放ち、残った魔物を燃やす。
しかし、海の魔物は水の恩恵を受けているために、効果は半減される。
「シロウさんどうしたの! 海の魔物に炎で攻撃しても効果が薄いのに!」
俺の行動を見て、クロエが驚く。彼女があのような表情をするのもムリもない。なにせ、これは基本的なことであり、冒険者にとっては常識だ。こんなことをするのは、初心者ぐらいしかいない。はっきり言って、バカにされるような行動だ。
だけど、俺の狙いは炎によるダメージではない。本当の狙いはその先にある。
身体中を纏う炎を消そうとした魔物たちが、次々に海の中に戻る。そして消火を終えた魔物たちは、再び甲板に上がった。
「それじゃあ一気に終らせるとしますか。アイスクエストーズ」
雲の気温を低くさせ、上空にある水分を氷晶へと変化させる。
「ファイヤーボール」
続いてファイヤーボールを生み出すが、通常よりも酸素を多く取り込み、巨大な火球を生み出す。そしてそれをプチ太陽に見立て、天高く翳す。
「ダストデビル」
プチ太陽となったファイヤーボールによる直射日光により、温められた海面から上昇気流が発生し、周囲から強風が吹きこむ。すると渦巻き状に回転が強まった塵旋風が誕生した。
塵旋風により、強い上昇気流が発生したことで、雲の中で氷晶が落下と上昇を繰り返す。
これにより氷晶は雹や霰に成長すると、落下速度の違いにより衝突を繰り返し、こすれ合うことで静電気が発生した。
上空の雲に静電気が発生したことにより、雷雲に変わる。
「これで最後だ! サンダーボルト」
雲の中で溜まったエネルギーを放出させ、落雷を発生させる。雷は瞬く間に魔物たちにヒットし、敵は次々と地面に倒れて行く。
これが俺の狙いだ。一度炎を消そうとして海の中に入ると、海水塗れになる。だけど海水は不純物だらけだ。不純物の混ざった水は電気をよく通す性質に変わる。これにより、魔物の肉体は電気を通しやすくなり、電気を浴びた肉体は、本来の電子信号のやりとりを遮断され、そのショックで心肺停止に陥る。
電撃を受けた魔物たちは、そのまま甲板に倒れて動けなくなった。
「よし、これで魔物たちは全滅したな」
甲板を見渡し、生き残っている魔物がいないことを確認する。
「さすがシロウですわ! あれだけの魔物をあっと言う間に倒すなんて!」
「本当にすごいです! 魔物を炎で攻撃したのは、これが狙いだったのですね」
戦闘が終わり、マリーとクロエが駆け寄ると俺を称賛する。
「いや、まだだね。まだ終わっていないよ」
俺たちが勝利の余韻に浸っていると、カーミラがそれに水を差す。
「そう言えば、まだ船は動いていませんわね」
「本当だ。魔物たちが船を押さえつけていたかと思っていたのだけど?」
どうやら、まだ戦いは終わっていないようだな。
「皆んな、警戒を怠らないように。どこから第二陣が現れるかわからない」
仲間たちに警戒をするように指示を出す。すると、いきなり海から大きな水柱が上がった。
その水柱の中に、白い触手が見える。大きさからして巨大な魔物と見ていいな。
どうやって戦おうかと思案していると、触手が一度海の中に引っ込む。
「海の中に隠れたか?」
俺は確認しようと船の端に向かい、水面を見る。その瞬間、複数の触手が再び海の中から顔を出し、水面を叩いた。
飛び上がった海水の量は、凄まじい量であり、津波のように船に襲いかかる。
流されないように船にしがみつき、仲間たちに視線を向けた。
「皆んな大丈夫か!」
心配になった俺は彼女たちに声をかける。三人とも船に捕まっており、流されずに済んでいた。
「きゃー!」
「シロウさんこっち見ないでください!」
マリーとクロエが悲鳴を上げる。彼女たちの着ている衣服が海水を吸い、透けていたのだ。
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