第九章 第八話 ブラドのブラッド攻撃
吹き飛ばされたブラドを追いかけ、俺は庭へと出る。
やつは植木に背中を預けるようにして倒れていた。
「くそう。僕としたことが、一度開示された情報を忘れてしまうなんて。これも次々とシロウのやつが、僕の策を簡単に突破してしまうせいだ」
ブラドはよろよろと起き上がり、こちらを睨む。
「なぁ、カーミラはブラドのことを知っているって言っていたよな。あいつは昔からあんな卑怯なやつだったのか?」
「いや、少なくとも私が前のパーティーにいたころは、あそこまでのことはしなかった。寧ろ自分の実力で人間たちを攻め、他人を利用しようなんていう発想すらしなかったけれどねぇ。だけどまぁ、人間と同様に魔族も時が経てば変わるってことだろう。正直、見損なっている」
カーミラの言葉が耳に入ったのだろう。ブラドは歯を食いしばった表情でこちらを睨んでいた。
「好きなだけ言えばいいさ。それは事実なのだからね。だけど、僕は昔の僕ではない! どんな手を使っても最後に勝てばいいんだ!」
ブラドが声を張り上げた瞬間、彼は懐から赤い液体の入った瓶を取り出し、放り投げる。地面に当たって割れた液体は、球体となって俺の前に移動する。
「ブラッドニードル」
やつが呪文を唱えると球体は変形し始め、無数の針のような棘が突き出る。
俺は後方に跳躍して敵の攻撃を回避した。
「もう、僕には後がないんだ。こうなったら死ぬ覚悟で本気で行かせてもらう」
パチンとブラドが指を鳴らす。
すると、棘を突き出した球体は地面に落下し、血の水溜まりを作る。そして血の水溜まりは、早い速度で俺の足元に移動した。
こいつはまずいな。
敵の攻撃がある程度予想できる。再度形状が変わる前に避けなければ。
足に力を入れて跳躍をすると、くるりと身体を回転させて反対方向に移動する。
俺の立っていた場所には、水溜まりから無数の棘が突き出ていた。
「アハハハハ! 回避ばかりではないですか! 僕の攻撃に手も足も出ないようですね」
ブラドのやつは、勝ち誇ったかのように笑う。
うーん、この言葉を言うのは少々酷な気がするけれど、やっぱり言って上げないといけないよな。あのまま思い込んでいると、あとで恥を掻くことになってしまうし。
「なぁ、ブラド? 俺を倒す気があるのなら、避けられないような攻撃をしてくれよ? さっきから簡単に避けられてしまっているから、拍子抜けてしまうぞ」
「バカにしやがって! なら、これならどうだ!」
やつが叫んだ瞬間、再び懐から瓶を取り出すと、地面に投げ捨てる。そして先ほどと同じように、俺の周囲に複数の球体を配置させた。
「成る程なぁ。複数の球体を出現させて俺の逃げ場を失わせようと言う考えか」
「そうです。これなら逃げ場がないですよ」
「確かに逃げ場がない。ならば、作ればいいだけじゃないか」
「戯言を! このような状況下で逃げ道が作れるはずがない! ブラッドニードル」
ブラドが叫び、複数の棘が一斉に襲いかかる
「それが作れるんだよな。異世界の知識を用いれば、できないことはない。コアギュレイション・ファクター・コンバージョン」
この状況を回避すべく、俺は呪文を唱え、やつの攻撃に働きかける。すると球体から突き出した棘は、俺に触れる直前で溶け、液体となって地面に落下する。
「そんなバカな!」
「何も驚く必要はないさ。これは当たり前のことなのだからな。お前は血液を使って攻撃する際、魔法で血を固めた。だから鋭利な棘状にすることができた。だけど、俺の魔法で凝固因子であるフィブリノーゲンをフィブリンに転換させたんだ。その結果、血液がゲル化したというわけだ」
「僕の魔法が次々と無効化される。こんなことありえない」
目の前の現実を認めたくはないのだろう。ブラドは両手を頭に置いて嘆き出した。
「あり得ないわけがないだろう? 実際に起きていることなんだからさ」
どうして自分が信じられないものを否定するのだろうな。受け入れたほうが楽だし、そのほうが新しいことを学べるというのに。
俺は面倒臭そうに頭を掻く。
「数でダメならスピードで勝負だ。お前の身体に風穴を開けてやる!」
ブラドは血液の入った瓶を割り、空中に展開させる。
「ブラッド・ブレット!」
空中に浮遊した血液は、複数に分かれるとやつの魔法で固まった。そして瞬く間に放たれる。
「このスピードと数では、すべてに魔法をかけて血液をゲル化させられない! 僕の勝ちだ!」
矢よりも早いな。だけど、この程度か。
「ロックウォール」
敵の攻撃が届く前に、呪文を唱える。その刹那、地面が盛り上がって壁のように岩が出現する。
「お前、冷静さを失ってバカになっているな。無効化しなくとも防げばいいだけじゃないか」
もしかして、こいつは一度パニックになると、行動が単純になるタイプなのか? 直接俺を狙ってばかりで、搦め手を使おうともしない。今のあいつは獣と大差ない。
「この僕をバカにしやがって! こうなったら奥の手だ!」
ブラドが叫び、今度は短剣を取り出す。そしてそれを自身の腕に突き刺した。動脈を切ったのか、勢いよく血液が流れ出す。
「さぁ、僕の血液をすべて使います。これで終わりにしましょう」
ブラドの言葉を聞き、俺は真剣な場面であるにも関わらず、呆れてしまった。
自分の血を全て使ったら死ぬじゃないか? 仮に俺に勝ったとしても、最終的に死んだら意味がないじゃないか? そんなこともわからないほど、バカになってしまったのかよ。
ブラドの血液は形状を獣の形へと変えていく。
「これが……僕の奥の手……ブラッドウルフだ」
やつは息絶え絶えとなりながらも、自分の血液で魔物を生み出した。
うん、これ以上はバカの相手をしていられないから、さっさと終わらせよう。
「コアギュレイション・ファクター・コンバージョン」
呪文を唱えた瞬間、凝固因子を変えられた魔物は、形状を維持することができずにゲル状へと変わっていく。
魔物の身体は液体へと変わり、地面を真っ赤に染め上げる。殆どの血液を失ったブラドは地面に倒れた。
後書き、オマケコーナー! エリザベート視点
「最後まで読んでいただきありがとうございます。エリザベートですわ! 評価、ブックマーク登録してくれた方ありがとうございます!」
わたしはアイドルを目指す女の娘です。現在、アイドルグループ、エグザイルドのメンバーに選ばれるために、オーディションを受けている最中ですの。
どうやら残ったのは、わたしとエレナさんと言う方です。このどちらかが、追加アイドルメンバーとして選ばれるようですわ。
「審査員のカーミラお姉さんだ。歌、踊り、ルックスの審査をしたけれど、今のところはお互いの魅力が互角で勝敗がつけられない。そこで、次はこれを食べてもらおう。アイドルは時にして食レポをすることもあるからね」
パチン!
審査員のカーミラさんが指を鳴らすと、わたしとエレナさんの前にウッシーナーが運ばれてきました。
これはウッシーの腸に、加工されたお肉を詰め込んだものですの。
「さぁ、これを最も美味しそうに食べるんだ。ただし噛み砕いてはいけない。歯を立てずに美味しそうに食べてくれ」
「ちょっと! ふざけているの」
カーミラさんの言葉に、エレナさんは抗議します。
確かにエレナさんの言う通りです。そんなふうに食べては、食べ物に対する冒涜ですわ。
でも、言うとおりにすれば、わたしはアイドルになれる。ここは意を決するしかありません。
「あーん。ちゅぱ、ちゅぱ、じゅるる」
わたしは言われて通りにウッシーナを口に含み、音を立てながら頬張りました。
「さすがエリザベートだ。早くエレナもしないと負けてしまうよ」
「できるわけがないでしょうが!」
「はぁーわかったよ。それではしょうがない。それじゃあ総合評価に移ろう」
エレナさんが拒否したことにより、結果発表に移ることになりました。
わたしはどれぐらい評価が貰えるのでしょうか?
「エリザベートは頑張ってくれたから星五つだ」
やりました! 星五つです!
カーミラさんの評価にわたしは喜びます。
「そしてエレナは読者サービスができなかったから星一つだね」
「納得いかない! どうして最後のやつをやらなかったから、一気に星が四つも減るのよ!」
「それが、アイドルグループ。エグザイルドと言うものだからだよ」
「こんなのおかしいわ! こんなアイドルオーディション、私は認めないわよ!」
「別に君に認められなくて結構、これが私のやり方なんだよ」
エレナさんとカーミラさんが火花を散らしました。わたしの入る余地はありません。
「こんな方法で、私を落としてタダで済むと思っているの! いずれ、後悔させて上げるわ!」
カーミラさんを睨んだエレナさんは、今度はわたしのほうを見ます。
「こんな方法で私に勝ったからと言って調子に乗らないでよ! 別のアイドルオーディションを受けて、アイドルになった暁には、もう一度ライバルとして再戦を申し込むのだから。首を洗って待っていなさい!」
わたしをライバル認定すると、エレナさんは部屋を出て行きます。
この後、わたしはアイドル道を突き進むのか、エレナさんはアイドルとなって再び私の前に現れるのか、それはまた別のお話です。
「はい、と言うわけで、今回の後書きのキャストは、わたし、エリザベートと」
「カーミラお姉さん、あとついでにエレナでした!」
「ちょと! 私をついで扱いしないで!」
部屋の扉から顔だけを出してエレナさんが抗議します。ですが、彼女の言葉は聞かなかったことにして、わたしは締めに入りました。
「後書きも含めて、今回の物語を読んで『面白かった!』『次はいつ更新されるの?』と思ってくださったのでしたら、広告の下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援をお願いしますわ!」
「面白かったら☆五つ! つまらないと思ったら☆ひとつでも大丈夫だ! 素直に感じた気持ちで評価してね! カーミラお姉さんとの約束だよ」
「あと、右下にあるブックマーク登録もしてくれたのなら、私も嬉しいですわ!」




