第九章 第七話 操られたオルウィン家の者たち
「ブラド! シロウたちにいったいどんな毒を飲ませた!」
「あははははは! 言う訳がないじゃないですか。尋ねられて答えるほど、僕はバカではないですよ」
テーブルに顔を埋めたまま、俺は二人の会話を耳に入れる。
なるほどな。どうやら俺は、不覚にもブラドの毒入り紅茶を飲んでしまったということか。だけど毒を盛られたとわかった以上は、解決方法はもちろんある。解毒すればいい。
はぁー、ブラドのやつ、本当に面倒臭いことをさせてくれるじゃないか。
毒には選択毒性と言うものがあり、生き物によって毒の影響の出やすさが異なってくる。
そして毒の種類も多い。神経毒に血液毒、細胞毒に自然毒、そして人口毒だ。そしてそれぞれの毒の成分が細かく分かれる。更に毒の種類によって治療の仕方も異なってくるのだ。なので、いったい何の毒を盛られたのかが分かっていないと治療が難しい。
仕方がない。面倒臭いけれど、一つ一つ試してみるか。
幸いにも、僅かに口を動かすことができる。これなら呪文を唱えることも可能だな。
あーあ、ブラドのやつがせこい手を使ってくるせいで、面倒臭いことをしなければならないじゃないか。テーブルの上に蹲っているのも格好が悪いし、さっさと終わらせよう。
「ブラド! 今日こそは許さないんだからね」
「別に許してもらおうとは思ってもいませんよ。これが僕の仕事なのですから」
「直ぐにあんたを倒して解毒方法を教えてもらうよ!」
「やれるものならやってみてください。僕には、あなたたちに特攻をもつ防御壁を持っていますので。ねぇ、オルウィン男爵、マリーお嬢」
詳しい状況を把握することができないが、おそらくブラドの言葉からして、彼の言っている防御壁というのはマリーたちのことなのだろうな。
仲間であるマリーや、その父親である男爵様を傷つけるようなことはできない。そう思っているのだろう。
本当に魔族らしいやり方だ。
「シロウたちならともかく、私がその手が通用すると思っているのか? 私は魔族だよ。同じチームに所属してはいるが、彼女は敵だ。マリーもろともブラドをぶっ飛ばせるのであれば、一石二鳥。私には特しかない」
「腐っても魔族というわけですか。人間の男に毒されたかと思っていましたが、そうではないようですね。嬉しいような、作戦が失敗して悲しいような複雑な気分ですよ」
カーミラの言葉に少し心配になった。
多分冗談だよな。本気でマリーたちもろとも倒そうとは思ってはいないよな?
安心しきれないところが怖い。ここは早く解毒したほうが良さそうだな。
えーと、ある程度は試したから、あと考えられるのはこれぐらいかな。
「デトックスフィケイション」
解毒の魔法を唱えた瞬間、身体に起きた痺れがなくなった。さらに身体が軽くなったような気分となり、俺は起き上がる。
「バカな! 僕の用意した毒は、簡単に解毒できるようなものではないんだぞ!」
俺が起き上がったのが、やつにとっては予想外だったようだ。ブラドは驚きの表情を浮かべる。
「解毒するのに少し時間がかかったけれど、どうにか毒による身体の障がいを見つけることができたよ。お前の用意した毒の正体は神経毒だ。身体の神経に障がいを与えることで、身体の動きに制限をかける。ならば、毒素を薄めれば神経の異常がなくなり、普段どおりに動くことできる」
「くっ」
俺の説明に、ブラドは苦虫を噛み潰したような表情をした。
「デトックスフィケイション」
身体を動かすことができないでいるクロエとエリザベートにも、解毒の魔法をかける。
「シロウさんありがとう」
「助かりましたわ」
二人が完全に回復したのを確認すると、俺はブラドに視線を向ける。
「残念だったな。これでお前の思うようにはならなかったというわけだ」
「クッ、だけどまだだ。僕はガーベラから、催眠にかかったオルウィン家たちを自由にすることができる権利を譲ってもらっている! シロウは仲間とその父親を攻撃できない!」
ブラドが声を荒げると、マリーと男爵様はやつを守るように前に出る。
さてと、これは困ったな。どうやって二人を傷つけずにブラドだけを倒そうか。
思考を巡らして考えてみるも、やはり方法は一つしかないという結論に至った。
どうせブラドを攻撃しても、二人がやつを守ろうとするだろう。ということは、二人にかかった暗示を解くほうが先だよな。
「ブラドさまの敵が出た! やつを倒せ」
男爵様が叫ぶと、応接室内に黒服の男たちが入ってきた。
彼らには見覚えがある。やっぱり俺の予想どおり、黒服たちは、男爵様の護衛で雇われた武闘家たちか。
「いくらシロウでも、これだけの人間たちに傷をつけずに倒すことはできないはず。彼らに殴られ、ボロ雑巾のようになってください」
一斉に黒服たちが拳を構えて襲ってきた。
うーん、ギルドでの光景を繰り返しているよな。確か異世界の知識では、こういうのをデジャブと言うんだったけ?
だけど再現して俺まで同じ魔法を使うのは芸がない。ここは別の魔法で無力化させてもらうとしますか。
「スリープ」
黒服の男たちに睡眠魔法を発動した。脳内に睡眠物質が増加された彼らは、身体の機能を維持するために眠りに就く。
「さぁ、男爵様もしばらく眠っていてください」
マリーの父親にも睡眠魔法を発動させ、彼にも眠ってもらう。
「さて、これで黒服と男爵様はお寝んねだ。エンハンスドボディー」
黒服たちが床に倒れた直後、今度は肉体強化の魔法を唱えた。マリーが鞭を放って俺の胸を狙って攻撃したのが見えたからだ。
放たれた鞭を握り、軽い綱引き状態となる。
「どうしてシロウさんは、マリーさんにも睡眠魔法をかけないのですか? 彼女も眠らせれば、あとはブラドだけじゃないですか!」
「マリーにも食らってくれればよかったのだけどな。マリーにはユニークスキル【抗体】がある。一度受けた状態異常を無効化するというやつだ。俺は前にマリーに対して、睡眠魔法を使ったことがある」
「なるほど、彼女の寝込みを襲おうとして一度使ってしまったと言うわけだね」
カーミラの言葉に、俺は苦笑いをしてしまう。
余裕なのはいいことだが、冗談を言っていい場面かどうかくらい、わかっているだろうに。
「これはいいことを聞きました。マリー嬢は一度受けた状態異常が通用しないですか。これはいい盾になりますね」
ブラドがニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
うーん。あの様子だと、ブラドのやつ全然気づいていないみたいだな。それともわざと気付いていないふりをしているのか? 後者なら策士だが、前者ならただのバカだぞ。
まぁ、それを今から試すとしますか。ブラドがせっかくマリーの状態が催眠だと教えてくれたのだ。なら、早急に終わらせてやつの心理を確かめるとしよう。
「マリー、いい加減に戻ってこいよ。ウエークアップ」
俺はマリーに覚醒魔法を発動させた。
「あれ? ワタクシはいったい今まで何をしていたのでしょうか?」
「バカな! ガーベラの催眠魔法を解いただと!」
マリーが正気を取り戻したのを見て、ブラドが驚愕した表情を見せる。
「催眠魔法って言うのは、脳を半覚醒にさせて半分眠っている状態にさせているんだ。それにより無意識の状態になる。だから、睡眠のサイクルであるレム睡眠とノンレム睡眠のサイクル速度を早め、目覚めさせれば催眠が解けると思った」
「まさか、そのような手段で、催眠を解くとは! だけど再びかけ直せばいいだけだ!」
ブラドは指を擦らせてパチンと音を出す。
「さぁ、もう一度シロウを攻撃する……んだああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
やつがマリーに攻撃を指示した瞬間、彼女は鞭を動かして攻撃した。しかし標的は俺たちではなく、ブラドに向けて放たれる。
彼女の一撃を受けたブラドは窓を割って庭へと吹き飛ばされた。
ああ、どうやらやつはバカだったようだ。マリーにはユニークスキルの【抗体】があり、一度受けた状態異常を無効化すると教えたのに、もう忘れていやがる。
さてと、やつも吹き飛ばされたし、庭のほうが思いっきり戦える。
俺たちエグザイルドは、庭のほうへと移動した。
後書きマリー視点
「最後まで読んでいただきありがとうございます。マリーですわ! ブックマーク登録してくれた方ありがとうございます!」
「マリー先生、急に独り言を言い出してどうしたのですか?」
ワタクシが読者のあなたにお礼を言っていると、生徒のクロエちゃんが声をかけてきました。
そうでしたわ。ワタクシはエグザイルド学園の幼等部の担任なのです。今から生徒である子どもたちに教育をしなければなりませんの。
「それではクロエちゃん、カーミラちゃん、エリちゃん。よく見ていてくださいね。ここに、評価と呼ばれるお星様があります」
「お星様光っていないよ?」
「マリー先生光らせてよ!」
カーミラちゃんとエリちゃんがお星様を光らせるように言います。子どものお願いごとを聞くのも先生の仕事。
「分かりました。では、光らせますね」
ワタクシは評価と呼ばれる星を五つ光らせました。
「さて問題ですわ! お星様はいくつ光ったでしょうか?」
「はーい」
「はーい」
「はーい」
皆んな元気に手を上げてくれます。子どもの元気な姿を見ると、ワタクシまで元気になりますわね。
「それではカーミラちゃん。お星様はいくつ光ったかな?」
「五つです!」
「よくできました! もしカーミラちゃんを褒めたい方は星五つお願いしますわ」
「先生! また消えましたわよ?」
エリちゃんが評価の星が消えたことを教えます。ワタクシはもう一度点灯させました。
あら? どうして一つしかつかないのかしら? まぁいいですわ。
「では、問題です。今のお星様はいくつ点いたでしょうか? クロエちゃん答えてください」
「えーと、えーと、一つ!」
「よくできました! クロエちゃんが頑張って答えたと思った方は、星一つで結構です」
「そんな評価のお願いの仕方があるか!」
この声は! ワタクシがお慕いしているシロウ先生の声ですわ!
「シロウ先生!」
「誰がシロウ先生だ!」
「ちょっと、シロウ。台本どおりにやらないとダメじゃないか」
台本とは違った行動をとったシロウを、カーミラが注意しました。
「いや、俺はまともなことしか言っていないからな。それに、よくお前たちもつきあっていられるな?」
「産みの親である作者の頼みですもの。快く引き受けましたわ」
ワタクシだって本当はいやですわよ。誰が【読者の家畜】略して【読畜】の言うことなんて聞きますか。でも、シロウと後書きで共演できると聞きましたので、引き受けましたのよ。
「それに明日のテーマも決まっているらしいよ。確かアイドルオーディションって言うの。まだ台本を貰っていないから、誰がどんな配役なのかわからないけど」
あら、クロエには明日の後書きのことを話されているのですね。あの読畜の作者。
「明日の後書きまで決まっているのかよ! まぁ、とにかく本当のお願いの仕方をするぞ」
「分かりましたわ。後書きも含めて今回の物語を読んで『面白かった!』『ブラド失敗続きでざまぁ』『次はいつ更新される?』と思ってくださったのでしたら、広告の下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援をお願いしますわ!」
「面白かったら☆五つ! つまらないと思ったら☆ひとつでも大丈夫だ! 素直に感じた気持ちで評価していただけると作者のモチベーションも上がる」
ワタクシに続いてシロウもあなたにお願いします。
「あと、右下にあるブックマーク登録もしてくれたのなら、ワタクシも嬉しいですわ! ではご機嫌よう」




