第九章 第六話 せっかく作戦を立てたのに、ブラドのせいで全てが台無しです
マリーの本音を聞き出すために、俺はエリザベートと仮の婚儀を結ぶことになった。
作戦中に変な噂が立たないように、彼女の父親である騎士爵様と会い、事情を話す。
「と言う訳で、騎士爵様にもご協力願いたいのですが」
「なるほど、だけど難しいなぁ。俺としては兄さんの気持ちは分かる」
娘を持つ父親の立場からすれば、やっぱり男爵様と同じ気持ちになってしまうのだろう。騎士爵様は腕を組んだまま、瞼を閉じて悩む素振りを見せる。
「兄さんのことだ。俺のような失敗はしない。だけど、強引に話しを進めれば、娘との亀裂が生じるということも、この身が体験していることだからなぁ。兄さんが落ち込むような姿は見たくない」
騎士爵様の言葉からは、何だから兄弟愛のようなものが感じられるなぁ。余程仲が良さそうだ。
「お父様! 娘であるわたしのお願いが聞けないと言うのですか!」
中々直ぐに結論を出さないことに対して、苛立ちを覚えたのだろう。説得役として一緒に来ているエリザベートが、座っている椅子から立ち上がって声を張り上げた。
「エリザ、これはとてもデリケートなことなんだ。様々な観点から物事を考えて、大局を見極めなければ、貴族として危うくなる。俺のような平民に近い貴族ならまだいい。だけど兄さんは男爵だ。仮に行動に移すとしても、慎重にことを進めなければならない」
やっぱり一度失敗を経験している人は違うな。経験を糧にして物事を考える。
「わかりましたわ! もう、お父様には期待いたしません! 貴族なんてものがあるから、こんなに尻込むのですわ! こうなったら、わたしがオルウィン家と言う貴族をぶっ潰します! 貴族のプライドよりも、マリーお姉様が幸せな道を歩むほうが何倍も大事ですわ! シロウさん行きましょう。お父様なんか大嫌いですわ」
「大嫌い……だと」
エリザベートの言葉に、騎士爵様は固まったかのように動かなくなる。
娘からの拒絶の言葉は、父親からしたら凄まじいダメージなのだろうな。もし、将来俺に娘ができたのなら、気をつけよう。
エリザベートが俺の腕を掴み、強引に立ち上がらせる。彼女に引っ張られる形で、俺は騎士爵邸を出ていく。
「お父様があんなに分からず屋だとは思いもしませんでしたわ。こうなったら、世間にどんな目で見られようとかまいませんわ。このまま作戦を実行するとしましょう」
本当に大丈夫なのだろうか? 何だか心配になってくる。
頼むから、面倒臭いようなことにはならないでくれよ。
心の中で呟きながら、俺はエリザベートと一緒に宿屋に戻る。
そして騎士爵様からの協力を得られなかったこと、そのまま作戦を実行することになったことをクロエたちに話す。
「騎士爵様の協力が得られなかったのですか。それは残念です」
「仕方がないね。どう転ぶかわからないけれど、とにかくやってみるとしようか……おや?」
カーミラが建物の横にある木を見て首を傾げたな? 何かあるのか?
気になった俺は建物の横にある木に視線を向ける。すると、黒服の男が俺たちのほうを見ていた。
確か、あの人はマリーを追いかけてギルドに来た男だったよな。
視線が合うと、彼は逃げるようにこの場から走り去っていく。
いったい何だったのだろう? 何だか嫌な予感がするな、一応気をつけておこう。
「それじゃあ、行くとしようか」
俺たちはオルウイン邸に向かう。
屋敷の前に辿り着くとタイミング良く扉が開かれて、白い肌の男が外に出る。彼は俺たちに気づくとこちらにやってきた。
「ちょうどよかったです。今からお呼びに行こうとしていました」
「俺たちを呼びに?」
「ええ、旦那様とお嬢様から、シロウを呼ぶように言われましたので」
「シロウさん良かったですね。門前払いをされるかと思っていましたけれど、家の中に入れるのなら、第一段階は完了じゃないですか! このまま第二段階に移りましょう!」
クロエが喜ぶが、俺には違和感を覚えた。
昨日、リピートバードの言葉では、二度と自分の前に顔を見せるなと言っていた。それなのに、急に俺たちを呼ぶと言うのは何か変だ。
やっぱり可笑しい。だけど、親子で話し合った結果、最後に一度だけ顔を合わせる方がいいという話しになったのかもしれないよな。勘繰りすぎるのはよくない。
少しだけ警戒するも、俺は屋敷の中に入る。
通された場所は前回と同じ部屋だ。
「これはシロウ君、よく来てくれたね。さぁ、座ってくれたまえ」
男爵様に座るように促されたが、違和感をまったく感じない。
どうやら俺の考えすぎだったようだな。
「執事よ。皆さんに飲み物を」
「畏まりました」
俺たちを連れてきた男は、一礼をすると応接室から出ていく。
「話しは飲み物が来てからにしよう」
飲み物が来てから話すと言われ、俺たちは飲み物が運ばれてくるのを待つ。
「お待たせしました」
しばらくして執事の男が飲み物を持ってくると、俺たちの前においた。
「まずは一口飲みたまえ。今日はかなり美味しいのを仕入れてね。自慢の紅茶なんだ」
紅茶を飲むように促され、俺はカップを口元に持っていく。
「この僅かに香る匂いは……皆んな! この紅茶を飲んではダメだ!」
カップの縁が唇に触れた瞬間、カーミラが突如叫ぶ。しかし時既に遅い。
少しの量ではあるが、紅茶が口内から喉を通っていく。
すると、急に身体の痺れを感じ、まともに動かせられなくなった。身体は自然と倒れ、テーブルにぶつける。
「クロエとエリザベートも飲んでしまったか。これはまずいね」
身体が動かせられないので、他の皆んながどうなっているのか分からないが、カーミラの声を聞く限り、二人も俺と同じ状況に陥っているようだ。
「あははははは、さすがカーミラと言いましょう。僕の毒入り紅茶を見抜くなんて。ですが、これでシロウは封じた。あなた一人ではどうすることもできないでしょう」
執事が笑ったかと思うと、俺は驚いた。執事の顔はレオニダスを魔神木に変えた魔族、ブラドに代わっていたのだ。
「さぁ、この間の借りを返させてもらいますよ」
後書きクロエ視点
「最後まで読んでいただきありがとう。カーミラお姉さんだ」
「クロエだよ! 評価、ブックマーク登録してくれた人ありがとう!」
読者にお礼を言った私は、胸の前で腕を組み、プイっと横を向きます。
「もしかしたら勘付いているかもしれないけど、コメントで紅茶に睡眠薬か、催眠薬を混ぜているかと思ったなんて書いたから、作者が痺れ薬を仕込んだなんて思わないでよね! あなたがコメントする前から、既に作者は書き終わっていたのだから、勘違いしないでよね!」
あう! 台本に書いてあるから私が言っているけど、どうして私なのですか。ぜんぜん私のキャラじゃないですよ。
「どうして私がこんなセリフを言わないといけないのですか。私はツンデレキャラではないですよ! どっちかと言うと、エリちゃんが言うべきセリフだと思うのですけど!」
「それは仕方がないだろう。作者が後書き担当の順番を間違えたのだから……まぁ、私が作者に賄賂を渡して、順番を変えてもらったのだけどね」
カーミラさんが途中から何かをぶつぶつ言っているのですが、私には聞き取れません。
「クロエの気持ちも分かるが、次に進めよう。もし、今回の物語を読んで『面白かった!』『痺れ薬を飲んだシロウたちはこの後どうなる!』『次はいつ更新される?』と思ってくれたのなら、広告の下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援をお願するよ!」
カーミラさんがウインクで私に合図を送りました。
「面白かったら☆五つ!」
「つまらないと思ったら☆ひとつでも大丈夫だよ!」
パチン!
パーン!
カーミラさんが指を鳴らした直後、何かが弾け飛ぶ音が聞こえてきました。
そして私の周辺には、布の切れ端が散乱しております。
この布、もしかして。
視線を下に向けた瞬間、私は驚きで一瞬声が出ませんでした。
私の服はなくなり、パンツだけの状態になっていたのです。
「カ、カーミラさん! これはどう言うことですか!」
「いやぁ、指で星の数を表すのにも飽きてねぇ。指ではなく、身につけているものの数で星を表してみようかと」
私は両手で胸を隠しながら彼女を睨みました。
「と言う訳で、カーミラお姉ちゃんよくやった! と思った人は星五つ! パンツだけ残すな全裸にしろと思った人は星一つで構わない。あなたのムスコの反応に正直な気持ちで評価してくれ」
「何でそんな評価の仕方なのですか! 趣旨が全然違うじゃないですか! お願いですから、カーミラさんの言葉に惑わされないでください! 面白いかどうかで判断してくださいね!」
「まぁ、まぁ、許してくれよ。お詫びに昨日お菓子をあげたじゃないか」
「まさか! 昨日の後書きが終わった後にくれたお菓子って!」
「そのまさかさ。クロエをパンツ一枚にしたお詫びとして、先にご馳走したのだ」
私としたことが、全然怪しいと思わなかったなんて。昨日の私を殴りたい。
「わかった。わかった。それなら、またお詫びをしようじゃないか」
「お詫びと言いつつ、どうしてカーミラさんも服を脱いでいるのですか!」
「ど・く・しゃ・さ・あ・び・す! お姉さんが気持ちいことをしてあげようじゃないか」
そう言うとカーミラさんは瞬く間に私に接近すると、ギュと抱きしめました。
「ひゃん! カ、カーミラさん。あん! どこを触っているのですか。や、やめてください。ワンちゃんみたいに舐めないでくださいよ」
「ほらほら、早く締めないと読者にクロエの厭らしい声を聞かれてしまうよ」
「わ、わかりました。み、右下にあるひゃん! ブックマーク登録も……していただければ嬉しいひゃん! よろしくお願いああん! します」
「よくできました。それじゃ、ご褒美をあげよう」
その後、私が新しい扉を開けて目覚めてしまったのかは、あなたのご想像にお任せします。




