第一章 第七話 恋するマリー
〜マリー視点〜
「ここはどこなのでしょうか?」
目が覚めると、ワタクシはベッドで眠っていました。固いベッドに寝心地の悪さからして、ワタクシの家ではありません。
「あれは夢だったのでしょうか?」
起き上がると、心臓の音が聞こえてきます。夢の内容は鮮明に覚えております。ワタクシたち、赤いバラのメンバーはスライムの討伐に向かい敗北。そして仲間のレオニダスとエレナに置き去りにされ、死を覚悟したときシロウが……。
「あれ? どうして?」
シロウの顔が頭の中で浮かんだ瞬間、ワタクシは急に頬が熱くなるのを感じました。そして心臓の音が更に早くなり、ドキドキが収まりません。
夢だと思われるものに出てきた彼はとても強く、勇敢でありました。死を覚悟した瞬間、まるで物語に登場するような勇者様のようにワタクシを庇い、圧倒的な知識でスライムを倒してくれました。
『マリーは下がっていろ。こんなザコを相手にしているなんて人生の無駄遣いだ』
マリーは下がっていろ、マリーは下がっていろ、マリーは下がっていろ、こんなザコ、こんなザコ、こんなザコ。
彼の言葉が何度も頭の中で繰り返され、その度に胸を締め付けられるかのように、心が痛みます。
「いったいワタクシはどうしてしまったのでしょう。あれは夢だったような、現実だったようなあやふやな感じです」
ワタクシは自身の手を見ました。その瞬間、目を大きく見開きます。
手の平には、夢の中で転んだときにできたケガと同じものがありました。
「あれは夢ではなく、現実に起きたことですの?」
ワタクシは考えます。収まらない胸のドキドキ、思い出すと顔が熱くなる現象、そして胸を締め付けられるかのような心の痛み。
「もしかして、ワタクシはシロウのことを……こうしてはいられませんわ!」
この気持ちが本物なのかを確かめるために、ワタクシは急いで部屋を出ました。
そのまま建物を出て、外装を見ます。
宿屋のマークがついていました。ワタクシは自分自身でここに泊まった覚えはありません。つまり、彼がワタクシの身体を抱きかかえて、危険なダンジョンを引き返して、この安全な宿屋まで連れて来たことになります。何てお優しい方なのでしょう。
ああ、まさしく勇者のようなお方。
「シロウ、シロウはどこにいますの!」
早く彼に会いたい。そしてこの気持ちを確かめたいですわ。彼が一番に行きそうな場所はギルド。まずはそこに行ってみましょう。
ワタクシはスカートを摘まんで軽く持ち上げ、全速力で走ります。
ギルドの前に来ますと、勢いよく扉を開けました。
「シロウ!」
はしたないと分かっておりながら、ワタクシは彼の名を大きめの声で呼びます。首を左右に振ってギルド内を見渡しました。ですが、フロントには彼の姿は見当たりません。
ワタクシは受付のお姉さんのところに向かいます。
「あら、マリーさん。すみません。スライムの件は既に終わっております。なので、依頼を受けることができませんので」
受付のお姉さんはスライムの件が終わったと告げますが、今のワタクシには関係ありません。依頼よりも、今はシロウを探すことが最優先事項ですわ。
「シロウを見かけませんでしたか?」
「シロウさん? いえ、今日はまだ見ていませんが」
受付嬢である彼女が見ていない。それはつまり、まだ彼はこのギルドには来ていないことを差しております。
「ありがとうございます。では、ワタクシは急いでおりますので、ごきげんよう」
淑女らしく、スカートを軽く摘まみ、軽く会釈をします。彼とよくお会いする方に、ワタクシの印象を下げるような行いをすれば、シロウに伝わってしまうかもしれません。
ギルドを出ると、一心不乱にシロウを探します。
すると、黒髪のショートヘアの美男子が、ワタクシの目に映りました。間違いなくシロウです。
ワタクシは直接建物の中に入ることはせずに、窓から眺めます。
彼を遠くから眺めていると、胸のドキドキが収まりません。
「やっぱり、ワタクシはシロウのことが……好き」
このドキドキが、シロウに対しての好意であると自覚したワタクシは、身体中熱くなっているのを感じます。
窓越しに移っているワタクシの顔は、ゆでたこのように真っ赤です。
テーブルに座ったシロウに一人の女性が近づきました。手には紙とペンが握られています。
どうやら、ここは食堂のようです。そう言えば、彼が好きな食べ物はなんだったでしょうか?
「ああもう、どうしてワタクシは覚えていないのですか。こうなるのならしっかりと見ておけばよかったです。ワタクシのバカバカバカ」
両手で交互に自身の頭を軽く叩きます。ですが、彼の好きな食べ物は何ひとつ思い出せません。
「こうなったら、直接この目で確かめるしかありませんわ」
ワタクシはお店の中に入ることを決心しました。そして彼が好きなものをリサーチして、必ずワタクシのものにしてみせますわ。
ですが、なるべく普段通りに接するように心がけなければ。オルウィン家たるもの、どんなときでも優雅に可憐に大胆に、それがワタクシの座右の銘ですもの。
決意を固めると、ワタクシは扉を開けて店内に入って行きます。
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