第八章 第九話 よくも恥をかかせやがったな! こうなったら奥の手だ!
〜レオニダス視点〜
あれ? 俺はどうしてこんなところで寝ているんだ?
俺ことレオニダスは、気がつくと横になっており、青空を眺めていた。
「おい、レオニダスが負けたぞ!」
「しかも敵に情けをかけられて、回復までしてもらっていやがる! お前なんか恥だ!」
周囲から俺に対する罵声が聞こえてきた。
そうだ。俺はデンバー国の代表として、ブリタニア国の代表であるシロウと試合をしていたんだ。だけど急に意識を失って、そこからの記憶が一切ない。
負けたのか? この俺が? 【強剣依存】のスキルで最強になっていたんだぞ!
上体を起こしてシロウを見る。
「よかった。目が覚めたんだな。まったく、魔物に寄生されていたなんて思ってもいなかったぞ。寄生の影響でボロボロになった身体は治してやったけど、立てるか?」
この俺が魔物なんぞに寄生されただぁ? そしてシロウに助けてもらい、恩義をかけられただと!
やつの言葉を聞いた瞬間、俺は腸が煮えくり返る思いに駆られた。
こんなこと認めねぇ! 認めるわけにはいかないんだ!
「俺は負けてねぇ! 勝手に勝敗をつけるな!」
怒りが込み上がった俺は直ぐに立ち上がり、シロウの顔面に拳を叩き込もうとする。
「まったく、お前らしいな。勝利に固執することは悪くない。だけど、今のお前は弱くなっている」
シロウはやれやれといいたげな顔をすると、俺に向けて拳を突き出した。
やつの一撃は俺の拳よりも早い。先に俺のほうが拳を喰らい、吹き飛ばされる。
「ぐああ、ぶへぇ。がはっ」
何度もリングに身体をぶつけながら転がり、会場の壁に激突することでようやく俺の身体は止まる。
「あーあ、せっかく治してもらったのにまたぶっ飛ばされちまったよ」
「弱いのに頭も悪いんだな。幻滅だぜ」
「でもいい気味だぜ。デンバーで一番強いことをひけらかして威張っていやがったからよ。気に食わなかったんだ」
観客たちから再び俺は罵られる。
くそう! 俺は強い! 最強なんだ!
声が聞こえた方に顔を向け、観客たちを睨みつける。
顔は覚えたからな! あとでお前らをボコボコにしてやる!
腕に力を入れ、ゆっくりと立ち上がる。
「力が劣ってしまったのは、ティルヴィングがなくなっているからだ! あれさえあれば【強剣依存】のスキルで、俺は強くなる!」
俺は声高らかに吼えた。
今の俺が無様な姿を見せたのは、剣を失ったからであり、ティルヴィングさえあれば本来は強いことを観客たちに知らしめる。
「あのなぁ? レオニダス、ひとつ聞くけど、お前は何を言っているんだ? 【強剣依存】なんてスキルは存在しないぞ。鑑定士の息子である俺が知らないはずがない」
いつの間にか、シロウは俺の目の前にいた。やつの顔を見た瞬間、背筋が凍りついたかと思うほどの寒気を覚える。
俺はシロウにびびっているのか? そんな訳ない! 俺はこいつを優に超えているんだ!
何も怖いことはない! 言い返せ!
「俺は知っているぞ! 鑑定士は都合の悪いスキルは開示しなくていい決まりになっているってな! 俺のもう一つのスキルにビビって、お前の母親が隠し通そうとしやがったんだ!」
「誰がそんなデタラメを言った。鑑定士は鑑定結果を全て開示する義務がある。スキルを隠蔽してしまえば、後にその人が危害を及ぼすことにもつながるからな! 鑑定士の息子である俺が保証する」
「あはははは、中々面白いことを言ってくれますね。彼の言葉を間に受けてはいけませんよ。彼は鑑定士の闇を世間に知られたくないので、嘘をついているのです」
ブラドの声が聞こえ、そちらに顔を向ける。やつはニコニコと笑みを浮かべながらこちらに近づいてきた。
「レオニダス君、きみはまだ負けてはいませんよ。まだ切り札を切ってはいない。エレナさんから貰いましたよね? あれを使ってください。このままでは君は、世間に負け犬だと認識されますよ。本当にいいのですか? 負け犬になって」
やつの言葉を聞いた途端に、俺はカチンときた。
誰が負け犬だ! 俺は! 俺は最強なんだ! 国中に俺の強さを知らしめてやる!
俺は懐から液体の入った瓶を取り出すと、蓋を開けて一気に飲み干す。その瞬間、身体全体が熱を帯び、とても我慢できない状態に陥る。
「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「何やっているのよあの人!」
「こっちに振り向けるな」
突然観客席にいた女性たちの悲鳴が聞こえた。彼女たちは両手で目を隠している。
身体中に感じる熱を少しでも逃そうと、俺は服を脱ぎ捨て、裸体を曝け出していた。
「がああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
今度は身体中が筋肉痛になったかのように激しい痛みを覚えた。その痛みは尋常ではない。俺は耐えきれずに絶叫する。
そして再び意識を失った。
目が覚めると周囲の風景が違うことに気づく。
あれ、こんなに近くに観客席があったけ?
観客席にいる観客たちは全員が立ち上がり、我先に出口へと向かっていく。
一人の観客と目が合った。その者は青ざめており、恐怖で顔を歪めていた。
「ま、魔物と目が合ってしまった! こ、殺される!」
魔物だと? いったいどこにいやがる? そんなものどこにもいないじゃないか?
俺は周囲を見ようとした。しかし首が動かせられない。それなのに、なぜか三百六十度の光景が見えてしまっている。
これはいったいどういうことだ?
状況を確認しようと、俺は眼球を下げて足元を見る。
『なんだこれは! お、俺の身体があああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
俺は悍ましい光景に絶叫をしてしまった。
目が覚めれば、俺は人の身体ではなかった。胴体は樹木のようになっており、足だか手だかわからないものが地面から突き出し、触手のようにうねっている。そして俺の身体には無数の目が存在していた。
三百六十度周囲を把握することができたのも、この目によるものなのだろう。
「ご気分のほうはどうですか? レオニダス君」
ブラドが笑みを浮かべながら俺に近づく。
『ブラド! テメェ! 俺の身体に何をしやがった!』
「君にシロウを倒す力を与えてあげただけですよ。確かに今の見た目は、魔物のように見えてしまうかもしれませんが、あなたは神の力を得て神に近しい姿になったのです。人が想像する神とは人型ですが、本来の神とは人ならざる姿をしているものです。現人神となった君なら、必ずシロウを倒すことができます」
ブラドの説明を聞き、俺は納得した。
なるほど、俺は神の力を手に入れ、擬似的に神となったのか。確かに人間如きが神様に抗うことなどできないものな。
『そうか、そうか! なら、親善試合の続きといこうではないかシロウ!』
俺は地面に立ったまま呆けているシロウを睨み、殺意をぶちまける。その瞬間、無数の触手が一斉にやつに向かって襲いかかる。
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