第七章 第八話 エリザベートがケガしているじゃないか! お前たちのせいで依頼失敗になったら責任とってもらうからな!
〜エリザベート視点〜
フフフ、やりましたわ。偶然にも馬車にトラブルが起きたお陰で、運よくあの男から離れることができました。でも、マリーお姉様とまたお別れすることになったのは残念ですが、これも致し方がないですわね。
わたしことエリザベートは、マリーお姉様に嘘をつき、あの男の目を盗んで現在は森の中を一人で歩いていますの。
マリーお姉様に嘘をついてしまったのは、さすがに心苦しいです。ですが、これもわたしが婚約者とお会いし、そのままとんとん拍子に話が進んで、結婚なんてことにならないようにするためですもの。
「さて、これからどうしましょうか。普通にこのまま町に戻って実家に帰っても、お父様は許してはくれないでしょうね。だとすると、町の宿屋で泊まるしかないでしょうか?」
独り言をぶつぶつと言いながら、わたしはその考えが間違いだということに気づきます。
「いえ、宿屋なんかには泊まれないですわ。きっとあの男はわたしを探すでしょう。宿屋なんかは、一番に滞在先として考えるに決まっていますわ。別の場所に身を隠すしかないですわね。でも、どこがいいのかしら……キャ!」
考えごとをしながら歩いていたからなのでしょう。わたしは地面から突き出ている木の根っ子に足が躓き、そのまま転倒してしまいました。
「あいたた。もう、なんで根っ子なんか出ておりますのよ! 根っ子なのですから、おとなしく地面の中に埋もれていてくださいな!」
少々感情が昂っていたのでしょう。わたしは立ち上がると、まるで子どものように木に文句を言います。
「痛い!」
転んだ拍子に擦り剥いてしまったようです。足から血が流れていました。幸いにも、擦り傷で済んでおり、あまり血が流れることはなさそうです。
「ああ、お洋服が土塗れですわ」
服に着いた砂粒を払い、わたしは木を睨みつけます。
「これも全てシロウさんのせいですわ! あの男がお父様の依頼を引き受けなければ、こんなことにはならなかったですのに!」
木なんかに八つ当たりをしても意味がない。そう頭の中ではわかっているのに、声に出して文句を言わないと気が済みませんの。
「とにかく、一刻も早くこの森を抜けて町に戻らないといけませんわ」
わたしは歩く速度を上げて町に戻ろうとします。今度は木の根っ子に躓いて転倒しないように足元を見ながら。
しかし、前方が不注意になっていたせいで、わたしは再び何かにぶつかってしまします。
「キャ! もう! 今度は何なのですの!」
目を細めてわたしはぶつかったものを睨みます。
「何だ? ぶつかってきたのはお前の方じゃないか?」
「へへへ、お嬢ちゃんどうしたのかな? こんな森の中で一人でいるなんて」
「おい、よく見ろよ、中々の上玉じゃねえか。こいつは高く売れそうだな」
「その前に一発やらせろよ。俺は最近溜まっているんだ」
ぶつかった人物を見て、わたしは血の気が引く思いでした。何せ目の前の人物の手には、斧や鎌などが握られていたのです。
そう、わたしは運悪くも野盗と遭遇してしまったのです。
転んだり、ケガをしたり、野盗と遭遇したり、本当に今日という日は厄日ですわ。
とにかく、早くここから離れないと。
踵を返して野盗たちから逃げようとしたときです。いつの間にか野盗の仲間が背後に立っており、逃げ道を塞がれていました。
「捕まえた!」
退路を塞いでいる野盗に気を取られている間に、わたしの背後にいた野盗に手首を掴まれてしまいました。
「放しなさい!」
「おっと、中々お転婆のお嬢ちゃんだ。だが、これでもう逃げることができないぞ」
男から離れようと、わたしは裏拳を打ち出そうとしました。けれど、非力なわたしの攻撃は男に掴まれてしまい、引っ叩くことができません。
「へへへ、しっかり押さえつけておけよ、今から少し楽しませてもらうからな」
退路を絶った野盗の男が厭らしい手つきで指を動かします。
その光景をみて、これからどんなことをされるのか悟ったわたしは、恐怖で震え上がりました。
「キャアー!」
咄嗟にわたしは叫び声を上げます。
「こいつ、悲鳴を上げやがった!」
「そんなこと関係ねぇよ。どうせ人がいたとしても、俺たちのことをビビって助けに来るやつなんかいないさ」
「違いない」
男たちの会話に、わたしは絶望します。
確かお父様がおっしゃってましたわ。ジュラの森には危険な野盗がいる。騎士団も手こずっており、けして護衛なしで入ってならないと。
ああ、わたしはこれから薄汚い男たちに穢されるのでしょう。こうなるのであれば、大人しく馬車の中に居ればよかった。
「へへへ、たっぷりと俺たちを楽しませてくれよ」
男がわたしの胸に手を伸ばす。
穢される瞬間を見たくなかったわたしは目を閉じました。
けれど不思議なことに、わたしの胸を触られる感触を感じることはありませんでした。
これはいったいどういうことなのです?
「ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
不思議に思っていると、突然男の悲鳴が聞こえ、閉じていた目を開けました。
するとわたしの視界には、地面に転がっている野盗の姿が入りました。
「エリザベート大丈夫か!」
急に倒れた男に戸惑っていると、シロウの声が聞こえ、顔を上げます。
うそ! どうして追い着いたの! いくら悲鳴が聞こえたとしても、走って追いつけれるような距離ではなかったはずなのに!
驚く中、わたしはホッとしました。
彼はわたしを見ると歯を食い縛り、こちらに鋭い眼光を送ってきました。
「よくも、エリザベートにケガを負わせたな! もし、そのケガが原因で依頼失敗になったら、どう責任をとってくれる!」
「ケガだって? いったい何を言っていやがる」
「こいつは初めっからケガしていたぞ」
シロウさんの言葉に、野盗たちは困惑します。それもそうでしょう。なにせこのケガは、わたしが転んだ拍子にできたものなのですから。
「嘘をつきやがって! バレバレなんだよ! 俺たちといたときには、ケガひとつしていなかったぞ! それに服まで汚しやがって、これで俺の評価が下がったらどうしてくれる!」
「何ごちゃごちゃと意味のわからないことを言っていやがる!」
「頭のおかしいやつめ! この場で叩きのめしてやる!」
「逃げてください! こいつらはこの国の兵士でも手こずるほどの実力者ですわよ!」
わたしは咄嗟に声を荒げます。
あれ? どうしてわたしは、彼の身の安全を願うようなことを口走ってしまったの?
「スピードスター、エンハンスドボディー!」
どうしてあんな言葉が出たのか疑問に思っていると、一瞬にして彼の姿が消えてしまいました。
「何! どこに消えやがった!」
どうやら野盗たちも彼を見失ったようです。本当にあの人はどこに消えたのでしょうか?
「お前の後ろにいるぞ」
再びシロウの声が聞こえたかと思うと、野盗たちの背後に彼が立っていました。
「それじゃあ、エリザベートにケガを負わせた罰を受けてもらうぞ」
「ブべべべべべべブフォオオオオオオォォォォォォォォ!」
いったい何が起きましたの! シロウが野盗たちに声をかけた瞬間、一人が突然ぶっ飛んでいきます。
吹き飛ばされた男は地面を転がり、砂煙を巻き上げていきます。
「まずは一人目、次はお前だ!」
「ブフォオオオオオオオオォォォォォォォ! オエ、ガハ」
彼に斬りかかっていた男も、先ほどの野盗と同じく地面を転がり、木に激突することでやっと止まりました。
「さて、エリザベートを解放しろ! でないと今度はお前があいつらと同じ道を辿ることになる」
「チッ! 撤退だ! お前ら一旦アジトに帰ってお頭に報告するぞ」
わたしを拘束していた野盗の男は、わたしを解放すると一目散に逃げていきます。その光景を見て、やっとわたしは助かったのだと実感が湧きました。
「あれ? どうして?」
気が付くと、わたしは両の目から涙が流れていることに気づきます。その理由はきっと野盗たちから助かり、穢されなかったことで安心してしまったからなのでしょう。
「相当怖かったんだろうな。すまない、俺がもう少し早く来られればよかったのだけど。遅れてしまった」
彼は頭を下げて謝りました。
どうして彼が謝るのですか? こうなったのも、全てわたしの責任ですのに。
「ケガして痛かっただろう。直ぐに治してやるからな。ヒール」
シロウさんがわたしに向けて笑みを浮かべると、回復呪文を口にしました。すると、わたしの擦り傷は瞬く間に治り、ケガをする前の状態に戻っていました。
あれ? どうしてこんなに、心臓の音が聞こえてくるの? もしかして回復魔法の影響なのかしら?
「傷のほうはこれで問題ないよな。あとは身体の汚れのほうだな。ウォーター、ソープ、フロー」
彼が連続で呪文を唱えた瞬間、目の前に水の塊が出現したかと思うと、その水はわたしの身体を覆いました。
驚いたわたしは咄嗟に目を瞑ります。
「今、エリザベートの身体を魔法で洗っている。すぐに終わるから、我慢してくれ……いいぞ、目を開けてくれ」
目を開けていいと言われ、わたしは目を開けました。けれどその瞬間、驚きで声を出したくとも出ない状況に陥ってしまいました。
わたしの身につけている衣服が濡れて透けており、下着が丸見えの状態になっていましたのです。
この変態!
そう言おうと思い、彼に視線を向けると、シロウさんはわたしに背を向けてこちらを見てはいませんでした。
もしかしたら、透けることがわかっていたので、背を向けたのでしょうか?
そんなことを考えていると今度は風が吹き、あっという間にわたしの服はきれいに乾いているのです。
「そろそろそっちを向いても大丈夫か?」
「あ、はい。大丈夫ですわ」
服が完全に乾いたことを告げると、彼は振り返り、わたしを見ます。
「よかった。エリザベートが綺麗になって」
「あう!」
よかった。エリザベートが綺麗になって……よかった。エリザベートが綺麗で……エリザベート、綺麗だ。
彼の言葉が頭の中で何度も繰り返され、わたしは身体中が熱くなるのを実感します。
「うん? 大丈夫か? 何だか顔が赤いぞ」
「だ、大丈夫ですわ! お気になさらず」
「そうか。それじゃあ一緒に馬車まで戻ろうか。またあの野盗たちが現れるかもしれないからな」
「はい」
「シロウ、エリここにいましたのね」
「よかった。エリちゃん、ケガひとつしていないみたいだね」
二人で馬車に帰ろうとすると、進行方向からマリーお姉様とクロエさんがこちらに走ってきております。
そんなお二人を見た瞬間、なぜかわたしはムッとしてしまいました。
何だか可笑しいです。大好きなマリーお姉様が迎えにきて嬉しいはずなのに、今は邪魔者のように思えてしまいます。
どうしてこんな気持ちになっているのか分からないまま、モヤモヤした状態でわたしは馬車に戻っていったのです。
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