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第一章 第二話 個人で登録し直したので、ランクEからの出発です

 翌日、俺は目を覚ます。


「夢か。パーティーを追放されたからと言って、一年前の夢を見るなんてな」


 起き上がり、ベッドから出ると窓を開けて空を見る。旅立ちの日にはもってこいの、雲ひとつない青空だ。


 出発の準備を整えてから、家を出るとしよう。


 目的地はどこにしようか。確か隣町にあるサザークという町に、この町の姉妹ギルドがあると、マリーから聞いたことがある。そこで冒険者としてやり直そう。


 今後の方針を決めると、俺は実家を出た。


「まさか一年かかるとは思わなかったな。でも、マリーたちのパーティーに入れたお陰で、冒険者のパーティーとはどういうものなのかもわかったし、Aランクまでのクエストがどのぐらいなのかも分かった。俺一人でも十分だ。今度はソロで冒険者をしよう」


 俺は周囲を見渡しながらある店を探す。


 確かこの辺りに人を運んでくれる行商人の店があったとおもうのだが。


 キョロキョロと周辺を見ていると、馬車のマークが書かれた建物を発見した。


 あった。あの店だ。それに店の前にある馬車の御者席に、人が乗っている。もしかしたらすぐに出発することができるかもしれない。


「すみません、サザークまで乗せてもらいたいのですが」


「サザークまでだね。千ギルでどうだ?」


「わかりました。ではお願いします」


 運賃を払って馬車の中に入ると、隣町に連れて行ってもらった。


 馬車で移動したお陰で、徒歩なら丸一日はかかるところを、三時間で済むことができた。


「ありがとうございました」


「こちらこそ、また機会があったときは御贔屓(ごひいき)を」


 馬車を下りて運転手にお礼を言うと、俺はサザークの町を歩く。


 町に着いたことだし、さっそくギルドに向かおうかな。


 しばらく歩くと、ギルドの看板がある建物を見つけた。


「あった。外観は以前にいたギルドとほとんど一緒だな」


 扉を開けて中に入り、受付に行く。


「すみません。この町では初めてなのですが」


「はい。では、以前いた町のギルド名と名前を言ってください」


「ギルド名はホワイトチャペルです。俺の名はシロウ」


「ホワイトチャペルのシロウさんですね。少々お待ちください」


 受付嬢が一冊の本を取り出すと、ペラペラと捲っていく。


「あー、以前は赤いバラに所属していたみたいですね。ですがメンバーリストから消えています。ということは、新規での登録なのでしょうか?」


 受付嬢の言葉に、俺は驚かされる。


 マジか! 俺が赤いバラから追放されたのは昨夜だぞ。それがもう他のギルドに伝わっているとは! ギルドの情報網の評価を改めるべきかもしれないな。


「あ、はい。新規での登録でお願いします」


「以前も冒険者だったので、登録金は免除されますが、ランクはEからの出発になります。自分のランク以上のランクは受けられないので、ご注意ください。あちらに依頼の書かれた紙がありますので、受けたい依頼がありましたら、受付のほうまで持って来てください」


 これも彼女の仕事の一環なのだろうな。わざわざ言う必要のない説明までも言ってくるなんて、マニュアル接客も大変だな。


「ありがとうございます」


 わざわざ丁寧に説明をしてくれた受付嬢に礼を言い、俺は依頼内容の紙が置かれている場所に向かう。


 うーん、何かやりがいのある依頼はないかな? お、これなんか簡単だし、報酬金額も高い。


 俺は依頼の紙を黙読する。


『町から西のほうにあるダンジョンにいるスライムに、大事な杖を奪われた! 誰か取り返してくれ! 杖を取り返してくれれば十万ギル。討伐して、その証となるコアを持って帰れば二十万ギルを用意するから、誰か俺よりも強い冒険者は取り返してくれ! 頼む! 亡くなったばあさんの形見なんだ!』


 なるほどなぁ。つまりは、杖を取り返して更に討伐ができれば、合計三十万ギルを稼ぐことができると言うわけだ。俺にとってスライムの討伐ほど楽な仕事はない。


 しばらく生活するための軍資金も必要だし、この依頼を受けない手はないよな。


 俺はスライム討伐の紙を受付に持っていく。


「すみません。この依頼を受けたいのですが」


「はい」


 スライム討伐の紙を受付嬢に見せる。紙に目を通した瞬間、彼女は溜息を吐き出した。


「シロウさん、先ほどの話をちゃんと聞いていませんでしたね。私は自分のランクよりも上のランクは受けることができないと言ったではないですか。この依頼はAランク以上の冒険者になります」


 受付嬢の言葉に、俺はやってしまったと思った。俺からすれば、スライムなんて魔物はザコの二文字で片付いてしまう。


 けれど、スライムは上位に君臨する魔物だ。一般的には、体内にある核に傷を入れない限りは倒すことができない。そのせいで多くの冒険者がスライムの餌食になることが多い。


「ダハハハハ! こいつはとんだ初心者がいたものだ。ランクを確認もせずに、依頼を持ってくるとはな」


 受付嬢の言葉を聞いていたのか、見た目四十代前半のおっさんが、バカにするような口調で俺のところにやってくる。


「お前のような初心者が受ける依頼は薬草採取ぐらいがお似合いだぜ。なんなら薬草の取り方からレクチャーしてやろうか? ギャハハハ」


 自ら羞恥を晒す結果になるとは言え、こんな頭の悪そうなおっさんが話しかけてくるとは思わなかった。


 よくいるんだよな。自分のほうがランクが上であることで、威張り散らして下を見下すくせに、実際は全然強くない冒険者が。


 変なやつに絡まれてしまった。はぁー面倒臭い。


「おい、何だその態度は! それが先輩にする態度なのか! どうやら教育がなっていないようだな。なら、先輩に嘗めた態度を取るとどうなるのか、思い知らせてやる!」


 どうやら俺の態度が気に入らなかったようだ。男は俺に殴りかかろうとしてきた。


 仕方がない。あんまり目立つようなことはしたくないのだけど、降りかかる火の粉は払わなければならないからな。


「ショック」


 俺は呪文の言葉を言う。


「がああああぁぁぁぁぁぁ」


 魔法が発動した瞬間、おっさんは悲鳴を上げて膝から崩れ落ちると床に倒れる。


 無様にも、白目をむいて尻を突き出す態勢でだ。


 俺が使った魔法は、無敵貫通の効果を持つ失神魔法。体内の神経を活性化させることで、心臓に戻る血液量が減少して意識を失うというものだ。


「おい、今の見たか? Aランクの男があの青年を殴ろうとした瞬間に倒れたぞ」


「ああ、見た。いったい何者なんだあの青年は」


 周りが騒ぎ出す光景を目の当たりにした瞬間、俺は額に右手を置く。


 やっちまった。あの男Aランクだったのかよ! それにしても弱すぎるだろう! 俺的にはただ相手の気を失わせただけなのに、触れずに倒しちまったのがいけなかったのか?


 Aランクの男を触れずに倒したことで、周りが騒めき出す。


 認識阻害魔法で記憶を弄ってもいいのだけど、できることならあの魔法は、いざというときにだけしか使いたいんだよな。


 周囲が騒ぐけど、考え方を変えればこれはチャンスかもしれない。上手くいけばランクが上がるかも。


 俺は受付嬢を見る。


「これで俺の実力が分かってもらえたでしょうか? 俺は元Sランクパーティーのメンバーです。実力はAを越えています。だからスライムの討伐をさせてください」


 説明をしながら、受付嬢に笑顔を向ける。


 すると、彼女は笑顔を返してくれた。


 これは上手く行ったか?


「ダメです。規則は規則。どんなに実力があったとしても、認めることができません」


 受付嬢が即答して断ってくる。


 こうなったら認識阻害の魔法で無理やり受けるか? いや、そんなつまらないことで無暗に魔法を使うものではない。母さんの言葉を思い出せ。俺の力は世界を亡ぼすかもしれないほど強力なんだぞ。


「おい、この騒ぎはなんだ」


 どうしたものかと考えていると、階段から一人の男が下りてきた。


 揉み上げと顎髭がつながっているジャンボジュニアと呼ばれる髭を生やしており、片目には魔物の爪で引っかかれたかのような三本の傷がある。年は六十代のようにも見えるが、年齢にそぐわないほどの筋肉マッチョであった。


「ギルマス! 実は」


 受付嬢が男のもとに向かう。どうやら彼はここのギルドマスターのようだ。


 彼女が状況を説明したようで、男は俺のところにやってくる。


「話を聞かせてもらった。俺はここのギルドマスターのオルテガだ。話がある。付いて来てもらおう」


 言いたいことだけを言うと、オルテガは俺に背中を向けて一人で階段に向って行く。


 何だか面倒なことになりそうだな。今日はもう、ギルドの活動は止めて宿を探しに行くとするか。


 ギルドマスターの誘いを無視して、そのままギルドを去ろうとする。


「おい! どうして帰ろうとする! 話があると言っておるだろうか。さっさと来い!」


 ギルドから出て行こうとすると、オルテガは声を張り上げてまで俺を呼び止める。


 どうやら話を聞かないと解放してくれないようだ。


 仕方がない。面倒なことになりそうだが、話を聞いてやるとするか。


 出入口から離れると、階段を上って二階に上がり、一番近い部屋に入る。


「そこに座れ」


 ソファーに座るようにギルドマスターが言うと、俺は彼が指定した場所に座る。


「確かシロウだったな。話は耳に入っている。元、赤いバラのメンバーだとか」


「まぁな。ただの荷物持ちと雑用係だったけど」


「がははははは」


 事実を述べると、オルテガは一瞬目を丸くする。そしてすぐに豪快に笑いだした。


「Aランクの男を一瞬で倒すほどの実力を持っておりながら、荷物持ちとは中々やるなぁ」


 急に笑い出したかと思うと、彼はいきなり俺を褒め出した。別に何も褒められるようなことはしていないはずなのだけど。


「俺も元は冒険者だ。だからこれまで多くの人間を見ている。そんな俺には分かる。お前の実力はSランク、いや、それ以上かもしれない。真の実力を持っている人間ほど、力を隠しているものだ。どうせ赤いバラも、お前が陰でバックアップをしていたのだろう」


 彼の言葉に、驚かされる。


 え? こいつ、俺が陰でバックアップをしていたとか言いやがったか? どうしてそのことがわかる。しかも何もかもお見通しと言いたげな表情で俺を見てくるし、このギルドマスターはいったい何者なんだ。


「どうして俺が、陰の実力者だと言うことがわかった!」


「なぁに、お前からは、俺と同じ匂いがするだけだ」


 ギルドマスターの言葉に、俺はすぐに服の匂いを嗅ぐ。


「そんなに俺って臭いのか?」


「それは、間接的に俺が臭いと言いたいのか!」


 思ったことを口に出しただけなのに、彼は顔を赤くして声を上げた。


「そうだ」


「そこは嘘でもそんなことはないと言いやがれ! これだから最近の若いものは、年長者に対しての敬意と言うものが足りん」


 ぶつぶつと文句を言いながら、ギルドマスターはゴホンと咳払いをした。


「話を戻そう。お前が納得できないのもわかる。正直このギルドの仕組みは俺も不満を持っている。いちいち階級のランク上げなんてものをしないで、実力のあるやつは飛び級してもいいはずだ。そこで相談なのだが、俺がお前を直ぐにAランクに上がるように、依頼の根回しをしてやろう。そうすればあのスライム討伐を受けることができる」


 どうしてこの男は、そんなに俺のランクを上げたがるのだろうか? 考えすぎなのかもしれないが、裏があるような気がしてならない。


 だけど、一目見て俺の力量を見破った観察眼は大したものだ。それに関しては信用できる。それに早くAランクに上がれるのなら、乗らない手はない。


「わかった。その話に乗ってやろう」


「そうか。それはありがたい。俺はお前に一番に期待している」


 オルテガはポンと俺の肩に手を置くと部屋から出て行った。


 彼の話がどれぐらい信憑性があるのかはわからないが、もし、本当であれば俺はとてもラッキーだ。天までもが俺に味方をしている。


 そう思った俺は部屋から出ると、一旦外に出て宿屋を探すことにした。

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