第三章 第三話 いや、俺は余裕だからお前たちの撤退につき合わせるなよ! 嫌だ―! 俺はあいつを倒すんだ!
命を救って称賛されていると、スキンヘッドの男がクロエに近づく。
パーン!
「このノロマ! あいつが死にかけたのはすべてお前の責任だ! どうせお前が立ち止まって、シロウの行方を遮りやがったのだろうが! そのせいで明かりを失って、あいつが死にかけたじゃないか!」
スキンヘッドの男が感情的になり、クロエを罵倒する。
「ごめん……なさい」
「あ? 声が小さいんだよ! もっと大きな声ではっきり言え! お前はいつもそうだ! いつも声が小さいせいで、俺をイラつかせやがる! 引っ込み思案な性格をいい加減に治しやがれ!」
「ごめんなさい……ごめんなさい」
一瞬のできごとに、俺は何が起きたのか理解が追い付かなかった。しかし頬を抑えるエルフに、怒声を上げるスキンヘッドの男を見るに、彼が暴力に走ったのは明白だった。
「ちょっと待って、いくら何でも女の娘に暴力を振るのはよくないだろう」
我に返った俺は、彼に近づき注意を促す。
「仲間を助けてくれたことには感謝する。だけど、これは俺たちのパーティーの問題だ。俺たちの問題に首を突っ込まないでほしい」
感情が高ぶっているからか、男は俺を睨んでくる。
だけどここで引いては、まるで俺が力に屈服したような感じがする。なんだかそれはいやだった。なので、俺も彼の言葉に抗議する。
「首を突っ込まないわけにはいかない。俺とお前はパーティーが違う。だけど、今は合同で依頼を受けている。だから、間接的には仲間だ。仲間の仲違いを止めさせるのも、リーダーの仕事だろう」
俺は不本意だった。彼女を助けるためとは言え、こんな男を仲間と言わなければならないのだから。
男は俺の言葉に何も反論はしない。何せ、俺は正論しか言っていないのだから。
論破された彼は無言のまま俺に背を向ける。
「チッ、確かにお前の言うとおりだ。同じ依頼を協力して行っている以上、仲間であることには変わりない」
「今度は俺が先に進む。文句はないな」
「ああ」
俺はどうにかスキンヘッドの男を言いくるめると、クロエに近づく。
彼女の叩かれたほうの頬は赤く腫れていた。
「ヒール」
回復魔法を唱え、彼女の頬の痛みを失くす。
「ごめんな。彼を止めることができなくて」
「いえ……ありがとう……ございます」
彼女は小さい声でお礼を言ってくる。
「本当にあのハゲは憎たらしいですわね。スキンヘッドを通り越して、ボールドヘッドになればいいのですわ。シロウ、そんな魔法を作れないのですの?」
マリーが男の悪口を言いながら、真のハゲにする方法はないのかと尋ねてきた。
魔学者のスキルにより得た異世界の知識を用いれば、実現は可能だ。この魔法は、魔法と言うよりも呪いに近いのかもしれない。
「まぁ、もし、あの男が命よりも髪が大事だったのなら、精神的ショックは与えられるかもしれないけど、なんかやる側としてはかなり虚しい気持ちになる」
そんなしょうもないことに、俺のスキルを使いたくはない。
俺とマリー、それにクロエが先頭になり、道を歩く。
「あ、また……聞こえた。音が……します」
歩いていると、クロエが何かを感じたと言う。
もしかしたら、この先に魔物がいるのだろう。俺は気をつけつつも前進していく。
すると広いフロアに出た。
クロエが言っていたので警戒はしていたのだが、魔物らしきものはどうやらここにはいないようだ。
「なんだ。ここはただ広いだけの部屋じゃないか。早く抜けて先を急ごうぜ」
スキンヘッドの男が先に進むように言ってくる。確かに見渡す限りは、敵の姿はない。
だけどこんなに広い部屋なのに、何もないというのは逆に怪しい。
「上…何か聞こえた」
微かにクロエの声が耳に入り、俺は顔を上げる。
今気付いたが天井が高く、翼を羽ばたかせていた魔物がいる。
その魔物は俺たちに気づいたようで、急降下をしてきた。
サルの顔にコウモリの羽、手には横笛を持っている。
「ロアリングフルート!」
俺は魔物の名前を言う。
「クソッ、まさかここのダンジョンにAランクモンスターがいやがるとは! だけどここで引く訳にはいかない。全員戦闘準備!」
「マリー、俺たちも戦闘準備だ」
「わかりましたわ。まぁ、シロウがいれば楽勝ですわね」
魔物を前にして、俺たちは戦闘態勢に入る。ロアリングフルートはクセのある魔物だ。やつの攻撃は遠距離だが、視力に頼るような戦い方をしてはいけない。何せ、やつの攻撃は目で見ることは不可能と言われている。
俺も知識としては知ってはいるが、実際に戦ったことはない。予備知識をもった段階での初見で、どれだけ戦えるのかはやってみないと分からないが、まぁ負けるようなことはないだろう。
『キャキャキャキャキャ』
ロアリングフルートは地面に着地すると、嘲笑うかのような泣き声をあげた。
天井側にいたときは小さく見えたが、実際には三メートルはありそうだ。
まずはやつの攻撃パターンから見極める。
「いくぞお前らああああぁぁぁぁぁぁ」
どのようにして戦うべきか思考を巡らせていると、スキンヘッドの男が剣を抜き、魔物に一太刀を当てる。
彼らの仲間もそれぞれ攻撃をしていた。
皮膚を切られて鮮血が流れる中、魔物は横笛を口にもって行く。
「があああああぁぁぁぁぁぁ」
その動作のあとに、スキンヘッドの男とその仲間たちが動きを止めた。そしていきなり絶叫しだしたのだ。
「痛い、痛い」
「いったいどうしちまったんだよ」
スキンヘッドのチームが地面に転がると、顔を歪めていた。
ロアリングフルートは、見えない攻撃をすると言うのは どうやら本当のようだ。
見えない攻撃の正体を知る必要がある。
「シロウさん……右に避けてください」
クロエの声が聞こえ、俺は右に跳躍した。その瞬間、背後の壁に窪みができる。
「もしかして、やつの攻撃の正体は」
確信は持てないが、敵の見えない攻撃の正体がわかったような気がした。これなら、やつの攻撃を躱しつつ、敵を倒すことができる。
「くそう! 戦略的撤退だ! 体制を立て直すためにダンジョンからでるそ!」
スキンヘッドの男が撤退を告げる。そして彼は一目散にこのフロアから出て行く。しかし、俺は撤退する気は起きなかった。
「あんたたちは撤退しろ。あいつは俺が相手をする」
「何を言っているのですか! あなたがやられては、もう一度このダンジョンの調査をするなんてことできませんよ!」
命を助けた男性が俺の腕を引っ張り、強引にも連れ出す。
「放せ! 俺はあいつを倒すんだああああぁぁぁぁぁぁ」
そんなことを叫びつつも、俺はいやいやダンジョンから出ることになった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク登録してくださった方ありがとうございます。
『面白かった!』
『続きが気になる!』
『今後の展開が気になる!次はいつ更新されるの?』
と思いましたら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援をお願いします。
面白かったら☆五つ、つまらないと思ったら☆ひとつでも大丈夫です!
あなたの感じた評価をしていただけると、作者のモチベーションが上がり、今後のパフォーマンス向上にもつながります。
右下にあるブックマーク登録もしていただければ嬉しいです!
ブックマーク登録をすると、しおりの機能が使えて前回読んだ場所が分かるようになっています!
あれ? 前の話しはどこまで読んだっけ?
という経験がよくあると言う人は、押しておいて損はしないかと思います。
何卒よろしくお願いします。




