第二十章 第一話 ミーリアと迎える朝
「もう、朝か。昨日は酒を飲んでいたせいで、ぐっすりと眠れたな。夜間の襲撃はなかったみたいだけど、きっと敵の第二陣が来るはずだ」
目が覚めた俺は、眠気眼のままポツリと呟く。
「シロウ……お兄ちゃん」
横からミーリアの声が聞こえて隣を見る。クリーム色の髪の女の子が、俺の隣で眠っていた。
そういえば、一人で寝るのは怖いから、寝付くまで一緒に寝てくれと頼まれたんだよな。結局俺もそのまま寝入ってしまったのか。
そろそろ起きて外の様子を見た方がいいのかもしれない。だけど、ミーリアの心細い気持ちを考えると、彼女が起きるまでの間は一緒にいたほうがいいのかもしれないな。
「うーん。あれ……ここ……どこ?」
「おはよう。どうやら起きたみたいだな」
「シロウお兄ちゃん! どうして一緒にいるの!」
どうやら目が覚めたばかりで、頭が働いていないみたいだな。
「昨日、一人で寝るのが怖いから、寝付くまで一緒にいてくれって言ったじゃないか。結局俺もそのまま眠っていた」
「そうだった! 忘れていた。ごめんなさい。迷惑をかけて」
「そんな顔をするなよ。別に迷惑だとは思っていない」
申し訳なさそうに言うミーリアの頭に手を置き、彼女の頭を優しく撫でる。
「シロウさん。起きていますか? 入りますよ」
テントの外からクロエの声が聞こえ、俺が返事をするよりも早く彼女が入ってきた。
「あ、クロエさん。おはようございます」
「ミーリアちゃん! どうしてシロウさんのベッドにいるの!」
「えへへ、一人で眠るのが怖かったので、シロウお兄ちゃんに添い寝をしてもらっていたんです」
ミーリアが一緒のベッドにいる理由を言うと、クロエは俺のところにやってきた。
彼女はムッとした顔で俺を見ている。
クロエのやつ怒っているなぁ。
「シロウさんばかりずるい! 私もミーリアちゃんと一緒に寝たかった! どうして教えてくれなかったんですか!」
あ、そっちの理由で不機嫌だったのね。
クロエはミーリアと仲良くなろうとしていたからな。少しでも仲良くなるきっかけを掴もうとしているのだろう。
「ははは、すまない」
「クロエさん。それじゃ、今日はわたしと一緒に寝てください」
「本当! ミーリアちゃん大好き!」
ミーリアが一緒に寝る約束をすると、クロエは顔を綻ばせて彼女に抱きついた。
「それで、クロエは俺に用があって来たんだろう?」
「そうだった。王様がね、シロウさんはバウマンに入ってもらうって」
「バウマンってことは」
「そう、私と同じチーム」
バウマンは確か、エルフを中心とした弓兵部隊だよな。王様は俺を後方支援に使うつもりのようだ。
まぁ、俺が狙われている以上は、必然的にそうなってしまうだろうな。
別に後方支援じゃなくて前線に立っても、捉えられる心配はないと思うのだけどなぁ。
「分かった。それじゃあ今日はよろしく」
「うん。ミーリアちゃんはどうするの?」
「私ですか? えーと」
突然話を振られ、ミーリアは俺を見る。
「ミーリアのしたいようにすればいい。俺たちの陣地にいる限り、君は自由だ」
「わかりました。それじゃあ、私も後方支援をします。戦うことはできないけれど、ご飯を作ったりはできますので」
「そうか。ミーリアの作るご飯楽しみにしているからな」
「はい!」
彼女が元気よく返事をすると、俺たちはテントから出る。
さてと、それじゃあ戦場に細工をしに行きますか。
俺は配置場所から離れたところに向かい、地面を触る。
うーん、やっぱりこの大地では、自然現象としては期待ができないな。ここは意図的に細工をするとするか。
「ウォーターポンプ」
水圧の強い水の魔法を唱え、周辺の地面を濡らしていく。
「これでよし。あとは敵が来るのを待つだけだな」
一時間ほど大地に水を染み込ませ、策の準備を完了させると、俺は持ち場に戻る。
陽が高くなる頃、一度後退した女王メイの軍団が再び攻めてきた。
俺はファイヤージェットを使い、上空から敵兵の数を大雑把に把握する。
昨日よりも数は減っているけど、おそらく熟練の兵士を中心に編成されているはずだ。俺以外は油断できないな。
「敵は昨日よりも少ないが、熟練の兵士たちだと思っていい。だけど安心しろ。俺がいる限り、負けることはない。俺のタイミングで、矢を放ってくれ」
上空からエルフたち弓部隊に声をかけ、俺は策を実行するための準備を行う。
タイミングを見計らい、敵兵士たちが罠を仕掛けた場所に到達すると、俺は口角を上げる。
「さぁ、始めようか。アースクウェイク」
この魔法は、人為的に地震を引き起こす魔法だ。
この星の内部にあるマントルを動かしたことで、プレートの境界が徐々に狭くなると、プレート同士がぶつかり強い力が生まれることで地震を促す。
地面が動き、エルフたちが動揺した。
事前に説明していたとしても、本当に地震が起きたら、さすがに驚くよな。
なるべく大きい振動にはならないように気をつけているが、それでも震度三ぐらいの揺れとなっている。
突然の揺れに戸惑っているのか、敵兵たちは進行を止めてその場に立ち尽くす。
よし、足止めは成功した。次の段階に移る。
「リクイファクション」
そして液状化現象を促す魔法を唱える。
この魔法の影響により、砂地盤である砂場では、地震による振動が加わると、砂の粒子同士による摩擦により、地盤で地中に溜めていた地下水位が上昇する。
繰り返される摩擦により、体積が減少。地下水による地盤の水圧が増加する。その結果、地盤は急激に耐力を失い、液状化現象が起きる。
一部の場所が陥没し、水分を含んだ地面に多くの敵兵は落下した。
「よし、今だ! 矢を放て!」
クロエたちエルフ部隊に矢を放つように指示を出す。
「みんな放って!」
先陣を切ってクロエが矢を放つと、続けて他のエルフたちが撃ち出した。
放たれた矢は、陥没した地面から抜け出せないでいる敵兵に、雨のように降り注ぐ。
これで、こちら側に攻めて来る敵兵は袋のネズミだ。
「シロウさん! 敵兵が離れて行くよ」
陥没から免れた敵兵たちが後退して行くのが見えた。多分、他の部隊と合流するのだろう。
そう思っていると、一人だけ戦場に残っているのが見えた。ローブを着てフードで顔を隠しているので、容姿がわからない。だけど確実に言えることは、あいつが敵であること。
腕の位置を変え、指先から放たれる炎で揚力を利用し、空を飛んでローブ姿の人物の前に降り立つ。
「久しぶりぶりですね。英雄シロウ。その節はボコってくれてどうもありがとうございます。お礼参りに来ました」
この男の声はまさか!
ローブの人物は被っていたフードを取った。
顔に化粧をして、星マークが描かれた道化が俺を見てニヤリと笑みを浮かべる。
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