第十九章 第五話 セイラン戦争開始
久しぶりに多くの人と再会した翌日、俺たちは七つの部隊に分かれていた。
俺はソードの部隊に配置され、レオニダスとエレナ、そしてマリーがパートナーとなった。
「チッ、どうして俺がシロウと手を組まないといけない。どうせ一緒に戦うのであれば、コーウの方がよかったぜ」
不満顔をしながら、レオニダスが俺を睨む。
「レオニダス良い加減にしてよ。不本意なのは分かるけど、王様の決めたことなんだから、諦めるしかないでしょう？」
「はい、はい、わかりました。エレナを怒らせたら後が怖いからな。これ以上は文句を言わないでいてやる」
エレナが注意をすると、レオニダスが俺を睨むのを止めて視線を逸らした。
「うふふ、それにしてもこのメンバーでチームを組むことになるなんて、赤いバラを思い出しますわね。シロウ」
マリーが笑みを浮かべながら声をかけてくる。
「そうだな。確かに懐かしい」
マリーの耳元に顔を近づけると、俺は小声で囁く。
「今回の戦い、俺はサポートに回る。なるべくレオニダスに活躍の場を与えたいからな」
「分かりましたわ。では、ワタクシも協力いたします。鞭で捉えた敵を、レオニダスのところに投げますわね」
マリーの言葉を聞き、俺は少し不安になった。
彼女のことだから多分大丈夫だと思いたい。だけどそのようなことをして、手元が狂った場合、レオニダスに当てたりしないだろうか？
「て、敵襲！ 女王メイの軍団が現れ、こちらに接近中！」
斥候の人が、敵軍が現れたことを告げる。
「遂に来たか。皆んな行くぞ！」
「シロウの分際で俺に命令するな！」
仲間たちに声をかけると、レオニダスが声を荒げて猛スピードで走り出す。
「女王メイの軍勢なんか、俺一人で片付けてくれる！」
レオニダス、やる気満々だな。彼のやる気をさらに引き出してやるとするか。
「エンハンスドボディー」
俺はレオニダスに肉体強化の呪文を唱える。
よし、次は敵を弱体化させるとするか。
「サルコペニア！」
続けて見える範囲の敵兵に、筋肉激減の魔法を唱えた。
この魔法の影響を受けた者は、筋肉の元となる筋タンパク質の分解が、筋タンパク質の合成を上回せる。それにより筋肉の量を減少させることができる。
魔法の影響を受けた者は、全身の筋力低下が発生し、攻撃力、防御力、素早さが著しく低くなるのだ。
この魔法はひとつで三つの効果を与えることができる。さらに、速度が落ちたことで回避率が下がり、攻撃側は必中に近い状態になる。
これでレオニダスでも、それなりに活躍することができるだろう。
「オラオラオラ！ 行くぜ！一閃突き！」
レオニダスが剣を水平にして技を放ち、敵軍を薙ぎ倒していく。
「ハハハ！ どんなものだ！ シロウ！ テメーなんかいなくとも、この俺がいれば何万の敵でも勝つことができると言うことを証明してやったぞ！ お前なんか必要ない！ この部隊から消え失せろ！ バーカ」
そうか、そうか。レオニダスのやつ、そんなに俺のサポートを必要としていなかったんだな。これは少し彼に悪いことをしてしまったな。なんか余計なお世話だったみたいだし、彼にかけている肉体強化の魔法を解いてやるか。
俺は彼にかけていた魔法を解き、レオニダスの活躍を見守る。
「オラ！ もう一回一閃突きだ！」
再びレオニダスは、剣を構えて同じ技を放つ。数人は倒したものの、その威力は百分の一くらいにまで減少していた。
「ど、どうやら手元が狂ってしまったようだな。運のいい奴ら……だぜええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！」
攻撃を放った直後、彼の攻撃を避けた兵士が槍を薙ぎ払う。敵の攻撃を受けたレオニダスは物凄い勢いで吹き飛ばされ、俺たちのところに戻ってきた。
「ど、どうじで、ごうなっだ」
結構ダメージを受けてしまったみたいだな。まともに発音することができないでいるみたいだ。
仕方がないから回復させるか。
「ネイチャーヒーリング」
回復魔法を唱え、彼の体内で損傷した臓器を回復させていく。
「く、くそう。余計なことをしやがって！ 誰が回復してくれと頼んだ！」
回復をしてあげたことに対して、レオニダスがイチャモンをつけてくる。
「あ、手が滑ってしまいましたわ！」
「グホッ！」
戦闘中のマリーが、兵士を鞭で捕まえた際に、手元が狂ってしまったようだ。レオニダスに敵兵が投げ付けられ、彼は地面に倒れる。
「ごめんなさいね。レオニダス、つい、手が滑ってしまいましたわ」
「マ、マリー！」
レオニダスの握った拳が震えている。今の一撃で頭に血が上ったかもしれないなぁ。
「マリー様！ お願いですから、レオニダスを虐めないでください。ほら、レオニダスも子どもじゃないのだから、素直にお礼くらい言えないの？」
「うるせー！ エレナは黙っていろ！ お前は俺のお袋かよ！」
「お、お袋！ 私はそんなに年は取っていないわよ！ バカ！ ファイヤーボール」
レオニダスの言葉が癇に障ったようだ。彼女はファイヤーボールを複数空中に展開させる。
これはやばそうだな。巻き込まれる前に離れるか。
「スピードスター」
俊足の魔法を唱え、一瞬にしてレオニダスから離れた。
「ま、待て！ 俺はそう言う意味で言ったんじゃない！」
「言い訳無用！」
エレナが叫ぶと、彼女は次々にレオニダスに向けて火球を投げてくる。
エレナのやつ、いつの間にか魔法を複数展開できるようになったのか。うん？ 今の状態をうまく使えば、敵を一気に倒すことができないか？
「マリー！ レオニダスを捕まえて、敵に向かって振り回してくれ」
「分かりましたわ！」
俺の指示に従い、マリーはレオニダスを捕まえる。そして彼を振り回し、敵が集中している場所にレオニダスを連れて行った。
「逃すものですか！」
レオニダスを追って、エレナが次々と火球を放つ。
「ぎゃああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！」
「うわああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！」
巻き込まれた敵兵が次々と火球を浴びて悲鳴を上げる。
この調子なら、しばらくすればこの辺一帯の敵を一掃できるかもしれないな。
「くそう！ シロウ！ 覚えておきやがれえええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！」
レオニダスが叫んでいるけれど、ここからでは遠くてよく聞こえないなぁ。
きっと彼は喜んでいるのだろう。だって一番目立って、活躍しているのだから。
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