第十六章 第五話 変わった咳払いをする男と決着をつける!
翌日、俺たちは魔族の街から出ることにした。
「あーん! カーミラちゃん行かないで! ずっとお姉ちゃんとこの町で暮らそうよ!」
「いい加減に離れてくれ! 私はシロウと一緒に、魔王の復活を阻止しなければならないんだ」
「魔王よりも、カーミラちゃんがいなくなることのほうが大問題だよ! カーミラちゃんが私の側からいなくなるなら、こんな世界滅びてしまえ!」
マーカラさんとカーミラの姉妹の会話を聞きながら、俺は苦笑いを浮かべる。
マーカラさん、そんなにカーミラと離れたくないんだな。俺たちが目の前にいるのに、泣き喚きながらカーミラに抱きついて懇願するなんて。
「それが人間と友好的な関係を築こうとする魔族の言葉か! いい加減に離してくれ」
「嫌だ! 離れたくない!」
「ハァ、本当は渡したくないのだけど、はい、これ」
カーミラが懐から何かを取り出し、マーカラさんに渡す。
あれは人形か? よくみたらカーミラに似ているような。
「ほら、私が作った私の人形だ。これを上げるから、いい加減に離してくれ」
「カーミラちゃんの人形?」
マーカラさんがカーミラから手を離すと、人形を受け取る。その隙をついたカーミラが、瞬時に俺の後ろに避難した。
これでマーカラさんが納得して、俺たちを見送ってくれるといいのだけどな。
人形まじまじと見ると、マーカラさんは色々な角度から人形を眺める。
「カーミラちゃん! このカーミラちゃん人形、パンツ履いていないよ! なんて破廉恥な! 私はあなたを痴女に育てた覚えはないわ!」
「人形なんだから、パンツを履かせる必要なないでしょうが!」
姉の言葉に、カーミラは声を荒げる。
まぁ、人形なんだから、普通パンツとかは履かせないよな。
「このままでは風邪を引いちゃう! 今すぐにパンツを作ってあげないと!」
マーカラさんは人形を大事に抱えると、物凄い勢いで俺たちから離れて行った。
俺の予想とは遥かに違う結果になったけど、まぁいいか。
「それじゃ、俺たちも先に進もう。カーミラ、スカーヤさん、道案内を頼んだ」
「ああ、任せてくれ」
「ほんの少しの罪滅ぼしにしかなりませんが、あなたのお役に立てるように頑張らせてもらいます」
二人の後ろを歩き、俺はソロモンとドーマンがいるアジトに向かう。
先に進むと、道が二手に分かれていた。
どっちに向かうのだろうかと思いながら様子を見ていると、カーミラは右に、スカーヤさんは左の道を歩く。
「待ってくれ! 二人とも違う方向を歩いている!」
俺の言葉を聞いたカーミラとスカーヤさんが引き返すと、互いに顔を見合わせる。
「カーミラさん、あなた道を間違えていますよ。ワタクシはドーマンとこちらの道から来ました」
「なるほど、つい先日まで共に行動していたスカーヤの言っていることなら本当だろう。だけど、あなたが生きていることはソロモンたちにも知られているはずだ。なら、裏をかいて前のアジトを本拠地にしている可能性がある。魔王を復活させるためにね」
「そうですか。元仲間のあなたの方が、彼らのことを熟知している。ですが、それもソロモンは知っている。更にその裏をかいて拠点を移さないとも考えられます」
お互いが先読みをし合っているが、これでは先に進むことができない。
さて、どうしたものか。
「キャット?」
俺の肩に乗っていたキャットが飛び降りると、地面に顔を近づける。そして鼻をひくつかせると、スカーヤさんの道を歩く。
『ワン!』
「もしかしてそっちが正解の道なのか?」
『ワン!』
俺の問いにキャットはすぐに返事をする。
キャットは一時的にドーマンに捕まっていたことがあった。なら、臭いを覚えているはずだ。きっと臭いを嗅いで、ドーマンがいる居場所を突き止めたのだろう。
「スカーヤさんの道に行こう。少なくとも、ドーマンがいる可能性が高い」
俺たちはキャットに導かれながら先を進む。
「んんん〜ん! やはり来てしまいましたか。スカーヤ程度では、あなたたちを止められませんでしたね」
「ドーマン! よくもワタクシの身体に細工をしてくださいましたね! 絶対に許しませんわ!」
「おやおや、怖い、怖い。そんなに睨まないくださいよ。僕はソロモンの命令に従っただけなのですから」
苦笑いを浮かべると、ドーマンはキャットを見る。
「キャスコ、まさかあなたがきっかけで、こんなことになるとは思っていませんでしたよ。ですが、そろそろ僕たちの関係に終止符を打ちましょう。これが、最後となります。さぁ、シロウたちを倒すのです。マンティコア!」
ドーマンが召喚石を投げつけると、石が割れて巨大な獣が現れる。
毛色は赤く、尾は蠍に似た形状。口には三列に並ぶ鋭い牙があり、顔と耳は人間に似ている。
マンティコアはあの尻尾による攻撃が特徴的だ。尻尾には毒があったり、二十四本の棘を矢のように飛ばしたりする。
あいつの尻尾には気を付けないといけないな。
「皆んな、やつの尻尾には毒がある。触れないように気を付けるんだ!」
「んんん〜ん。さすがシロウ。まさかマンティコアを知っているとは驚きです。なかなか入手できない珍品ですのに」
『ガルルルルルル!』
マンティコアが俺たちを睨みつけながら威嚇してくる。そして尻尾を逆立てると、魔物の尻尾は膨張していく。
「皆んな俺の周囲に集まれ」
やつの尻尾が膨張していくのを見て、俺はマリーたちを近くに呼ぶ。
「ライトウォール!」
魔法で光の壁を作ると、俺たちを覆った。防御壁が完成したと同時に、マンティコアの尻尾は限界を迎え、棘を放つ。
数多くの棘が光の壁に触れるも全てを弾き返した。
なるほど、マンティコアの棘は尻尾を膨張させることで放つことができるのか。まるで男性器の勃起だな。なら、あの魔法を試してみるとするか。男性に対してはある意味恐怖の魔法だ。
「エレクタイルディスファクション」
俺はマンティコアに男性にとっては恐ろしい呪いの魔法を唱えた。
「んんん〜ん。何やら魔法を使ったみたいですが、何も起きませんね。失敗したのでしよう。ご愁傷様です。マンティコア、あんな防御壁はさっさと破壊しなさい」
『ガルルルルルルルル!』
再びマンティコアは尻尾を立たせて棘を放とうとする。魔物の尻尾は膨張を始めた。
「アハハハハハ! やはり失敗だったではないですか! どんな魔法なのかご存知ではないですが、失敗するとはお笑い草ですね。アハハハハハ!」
ドーマンが嘲笑するが、別に構わない。魔法は確実に効果を発揮している。
「さぁ、今度こそあの壁を破壊するのです!」
ドーマンが棘を飛ばすように指示を出すが、マンティコアは棘を飛ばすことはなかった。そしてやつの尻尾は小さくなり、元のサイズに戻る。その光景を見て、俺はニヤリと口角を上げた。
「どうやら、魔法の効果が現れたようだな」
「そんなバカな! いったい何をしたのですか!」
「何って、マンティコアの尻尾の血流に異常を生じさせたんだよ」
うーん、なんて説明してやろうか。
「尻尾内を通っているか細い血管を狭くさせたんだ。それにより血の流れを悪くさせ、赤血球を詰まらせる。すると膨張に必要な血液が行き届かなくなり、次第に元のサイズに戻ると言うわけだ。一言で説明するのなら、勃起不全だな」
「何だって!」
「あ、因みについでだから、ドーマンにも使ったからな」
「そんなバカな! フン!」
俺の言葉にドーマンは驚く。そして俺の言葉が真実なのか、それを確かめようとしたのだろうな。彼のズボンは膨らむ。
「んんん〜ん! アハハハハ、驚かせないでください。立派に機能しているではないですか。あなたも意地が悪い……うん?」
彼は身体の異変に気づいたのだろう。視線を股間に向けた。
「そ、そんなバカな! フン!」
もう一度股間に力を入れたのだろう。再び彼のズボンが膨らむ。しかし、数秒後には膨らみがなくなった。
「フン、フン、フン、フンフフーン!」
ドーマンよ、そんなに現実を受け入れたくないのか。何度やっても結果は同じだ。
「僕のムスコがあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! おのれ! よくもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ようやく現実を受け止めたドーマンが怒声を上げる。
うん、やっぱりとても悲しいことだよな。俺もお前の立場なら嘆き悲しむよ。
「絶対に倒してやるううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
ドーマンが声を上げながら俺たちに向かってくる。
ドーマン程度なら、俺の拳で十分か。
「エンハンスドボディー」
光の壁を消すと、俺は肉体強化の呪文を唱えた。
「歯を食いしばってお前のしてきたことを後悔しろ!」
俺は走ってくるドーマンの顔面を思いっきり殴った。すると、彼は後方にある崖の壁にぶつかり、血反吐を吐く。
「これでドーマンと決着はついた。あとはマンティコアだが。面倒臭いからこれで終わらせる。ハートラプチュア」
面倒臭くなったので、即死魔法を唱えた。
すると心臓に穴が空いた魔物はそのまま地面に倒れ、動かなくなる。
「これでよし、皆んな、残りはソロモンだけだ。急ごう」
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