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第一章 第十二話 マリーが押しかけ女房みたいになって困る

 マリーに宿屋の食堂に向かうように言われ、俺は部屋を出ると食堂に向かう。


 いったい何を考えているのだろうか。


 食堂に入ると、適当な場所のテーブルの椅子に座る。


 ここの宿屋は、朝晩食事がついてくるので、朝と夜はここで食事をすることにしている。


 まだ晩飯には少し早い時間帯だからか、食堂には俺しかいない。


 俺が席に座ってかなりの時間が経った。しかし、マリーがここに姿を見せることはない。


「いくら何でも遅すぎる。何かあったのか?」


 どうしてマリーが食堂に姿を見せないのか気になり、立ち上がった。すると、厨房のほうから毛先をゆる巻にしている長い金髪の女性が、両手に料理が盛られてある皿を持ちながら、こちらにやってくる。


「お待たせしたわね、シロウ」


「マリーそのかっこう」


 彼女はエプロン姿だった。


 エプロンをして料理を運んできたということは、これで遅かったんだな。


 彼女が遅かった理由に納得する。


「女将さんの手伝いをしていたんだな。言ってくれれば俺も手伝ったのに」


「え、ええ、そうですわね。ごめんなさい。うっかりしてしまいましたわ」


 思ったことを言うと、何故かマリーは苦笑いを浮かべた。


 何か変なことでも言ったか?


「それより、料理が完成しましたので、食べてください。冷めないうちに食べたほうがいいですわ」


 テーブルの上に置かれた料理を見る。薄い肉に野菜の千切りが皿に盛られている。


「ピッグのジンジャー焼きですわ」


 ピッグのジンジャー焼きは庶民の定番料理だ。ピッグの肉は低価格で購入することができるので、多くの庶民に愛されている。この宿屋でも何度か食べたことがあるが、今日はこの料理が出される日だったっけ?


 そんなことを考えつつも、一口食べる。


「あれ? なんか以前食べたときと味付けが違う」


「ええ、そうですとも、それはワタクシが作った料理なのですから」


「これ、マリーが作ったのか!」


 意外すぎてとても驚く。彼女は男爵の娘。お嬢様が料理をするなど、俺のイメージでは考えられなかった。


「ええ、オルウィン家の娘たるもの、料理ぐらいできないといけませんので。それでお味のほうはどうですの?」


「とても美味しいよ」


 食べた肉はよくタレが絡んでいるし、俺の好きな味付けだ。


 料理を褒めると、マリーは表情を明るくする。


「そうですか! シロウに気に入っていただけてよかったです。ワタクシのものになって下されば、毎日美味しい料理をあなたのために作ってさし上げますわ」


 彼女の言葉を聞き、俺は納得した。


 マリーの狙いはこれか。俺を餌付けすることで胃袋を掴み、彼女の料理なしでは生きていけないようにする作戦だな。そして俺を仲間に引き込み、魔学者のスキルを利用しようとしているに違いない。


 危なった。早い段階でそれに気づいてよかったよ。


 彼女の罠に掛かろうとしていることに気づき、自身に惑わされないように言い聞かせる。




 その日の夜、俺は宿屋の風呂で身体を洗っていた。ここの宿屋は、一部屋ごとに風呂がついているのがありがたい。


「シロウ。ここに着替えを置いておきますわ」


「あ、ありがとう」


 着替えを用意してくれたマリーにお礼を言い、身体を洗い続ける。すると、扉が開かれる音が聞こえてきた。


 え! まさか、マリーが入って来たのか!


 俺は驚き、扉のほうを見る。マリーがバスタオル姿で入って来たのだ。


「マ、マリー! 何でお前まで入ってくる」


「それはシロウの背中を流して差し上げようかと思いまして」


 また彼女の誘惑が始まった。今度は色仕掛けか。


「いや、遠慮する」


「遠慮してもムダですわよ。これはワタクシがやりたいからしていることですの」


 そう言うと、マリーは俺から石鹸を奪い取る。そして泡立てたタオルで洗い始めたようで、背中がごしごしされる。


 しかし、何かが変だった。背中を洗うにしては、布の面積が広いような気がする。そして、手で擦られているような感触はない。


「なぁ、マリー、もしかしてお前が巻いているバスタオルで洗っているのか?」


「ええ、よく分かりましたわね」


 背中に伝わる感触から、何となく分かったことだが、できることなら正解であってほしくなかった。


 彼女は自分が巻いているバスタオルに石鹸を泡立て、そのまま俺の背中を擦っている。そして間接的ではあるが、俺の背中は彼女の胸が押し当てられていることになるのだ。


 いくら俺の力が欲しいからと言っても、これはやりすぎだ。マリーは女の娘なんだから、もっと自分の身体を大事にしてほしい。


 俺だって年頃の男なんだ。いつオオカミに変貌するかわかったものではない。


「マリー、頼むからそんな方法で俺の力を手にしようなんて考えないでくれ。マリーなりに一生懸命に考えたことなのかもしれない。だけどこんな方法では、俺は絶対に君に靡くことはない。むしろ、嫌いになってしまう」


 俺の言葉にマリーは黙る。一時的にこの場は沈黙が支配した。


「そう……ですか。そう……ですよね。ワタクシのものになってもらいたいばかりに、あなたの気持ちなんか考えていなかった」


 数秒ほど経って、マリーが言う。しかしその声には、どこか元気がないように感じられた。


 落ち込んでしまったのかもしれない。


「ですが、これだけは言っておきます。絶対にあなたをワタクシのものにすると。それだけは肝に銘じておいてくださいませ」


 覇気のない声で告げると、マリーは風呂場から出て行く。


 それ以来、マリーは身体を密着させてくることはなかったが、俺に料理を作ったり、身の回りの世話をしてくれたりという行動に出るようになった。




 翌日、俺はそのことを受付嬢に話す。


「それって、押しかけ女房ってやつではないですか?」


「押しかけ女房? マリーが?」


「はい。同じ女としてマリーさんの気持ちが私には分かります。モンスターに襲われて殺されそうになったところに、さっそうと現れたシロウ・オルダー。命を救われたマリーさんはあなたに恋をした。そして自分の彼氏にしたいために、食事を作ったり、身の回りのお世話をしたりする。ああ、なんて健気なのかしら」


 受付嬢は妄想の世界に入ってしまったようで、一人でうっとりとしていた。


 あのマリーが俺に恋している? そんな訳がない。


 確かに吊り橋効果というものは存在する。しかしそれは、誰でも起きるというものではない。特定の条件を満たさないと、吊り橋効果は発揮されないのだ。その条件のひとつとして、ある程度好意があること。


 俺を追い出した当時のマリーを考えると、吊り橋効果なんてものはあり得ない。


 よって、マリーが俺によくしてくれるのは、俺のことが好きだからではなく、俺の力を欲しているからだ。


 俺は自分の中で結論づけると、少しは気持ちが楽になった。


 そう、マリーが俺のことを好きとは思えない。


 最後まで読んでいただきありがとうございます。


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 物語の続きは朝の十時代に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] とりあえず一部一章読み終えました。 シロウ、マリー、エレナ、レオニダス、 「優雅に華麗に大胆に」…。 …FG○? オルテガはドラクエ3の勇者の父だが。
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