今夜も不眠
今日も疲れていた。
このヘルハウスで疲れているのは、俺だけのような気がする。
廊下のソファーに座り込むと、ハァー! と大きなため息がでる。
ロウは、てきぱきとあちこちの部屋の掃除に、リーファまで邸の掃除をしている。
ロウは掃除のあとには、手紙の整理をして、ガイウスに届ける。
ロウは昔から父上に仕え、子供心に不思議な人だと思ったが、今は変人に見える。
何故このヘルハウスに恐怖しないのだろうか。
ガイウスもなにを考えているのか、さっぱりわからない。
リーファは怖がりながらも、ガイウスの側を離れない。
しかも、あの可愛い顔でずっとガイウスに寄り添っている。
パタパタと足音がして頭を上げると、リーファが花瓶を運んでいた。
リーファはやはり、いつみても可愛いと思う。
ガイウスが、なにを考えているのかは、わからないが、リーファのために呪いのお茶を飲んだのは、なんとなくわかる。
「アーサー様……大丈夫ですか?」
心配そうに声をかけてくれたが、この距離はなんだろうか。
1メートル以上離れて声をかけられたことなんか人生で一度もない!
どこまで、俺は警戒されているのか……!
あの頃は、何故かリーファが欲しくて欲しくてたまらなかった。
今は、あの時の激情はないが……リーファが好きな気持ちが消えたわけではないのに……。
「リーファは、ヘルハウスの掃除もするんだな……」
「はい。できることはしたいのです」
「その花は?」
「旦那様が、花屋に頼んで毎朝届けてもらっているんですよ」
ガイウスを想ってか、リーファは益々綺麗になっていた。
そう思うと、自分のしたことが、リーファをどれだけ傷つけたか、罪悪感がわく。
「……リーファ。あの時は悪かった」
「……もう忘れたいのです。私は旦那様のことだけ、覚えていたいのです」
「そうか……そろそろ、ロウと薬に慣れる訓練の時間だ。もう行く」
「はい」
近付くことのないリーファに背を向けて、歩く。
そして、いつもの部屋に行くと、ロウはすでに待っていた。
「ロウ……来月には城に帰られるか?」
「まだ無理かと……アーサー様は成人してますから、中々薬の耐性がつきにくいのですよ」
「夜は来てくれるか?」
「嫌ですね。ジュリアさんは面白い方ではないですか」
「そう思うのは、ロウとガイウスだけだ!」
ロウは夜になると、呼ばれるのが嫌で最近は逃げられる。
俺は一体どうしたらいいんだ!
そして、また夜がやって来る。
『ダーリン~~お待たせ~~』
「待ってない!」
『今日は紹介したい方がいるのよ~~』
「誰だ!」
『ギルバート卿! ダーリンよ~~』
ジュリアが、廊下からギルバート卿と呼ぶと馬に乗ったお化けが、颯爽とやって来た。
何故馬!?
『ほほぅ。こちらがジュリアさんのご主人ですか……』
「誰が主人だ!」
『イケメンでしょ~~! こんなに顔が良いのは見たことないわ~~!』
顔が良いのは認めるが、ジュリアと夫婦になった覚えはない!
何でガイウスは勝手に俺をジュリアに貢ぐんだ!?
嫌がらせか!?
ガイウスは日中もほとんどリーファといるくせに、夜はリーファを部屋に入れたまま一度も出てこない。
今日も助けは来ない気がする。
「ジュリア、俺は疲れているんだ。休ませてくれ」
『積極的ねー! ギルバート卿。今日はここまでよ~~。また明日紹介するわね~~』
「毎晩と紹介するつもりか!?」
『私は今夜は墓場の見回りにいきますがな』
「そうか、もう来ないでくれ……」
『さぁ、ダーリン。二人の時間よ~~』
いそいそとベッドに入るジュリア。
ギルバート卿と呼ばれたお化けは、馬を走らせて行く。
そして、今夜も不眠だった。




