エレガントな日常
ヘルハウスに着くなり、アーサー様が物凄い勢いで廊下を走って来た。
後ろには、楽しそうなジュリア様がおいかけている。
「ガイウス! あれはなんだ!?」
「うちのお化けのジュリアですが……」
『ガイウス! やっとご褒美ね!』
ジュリア様は嬉々として、アーサー様の肩に手を置く。
それに、アーサー様は青ざめる。
どうやら、お化けが嫌らしい。
「ジュリア様……気に入ったのですか?」
『勿論よ! 王子様みたいだわ!』
それは正解です。
本物の執着王子ですからね!
「ジュリア、ベッドを買った。明日には届くからな」
『きゃあ! ガイウス! ありがとう!』
「良かったですね。ジュリア様」
『今夜が楽しみだわ!』
「ベッドが来るのは明日だがな」
和気あいあいと、三人で話していると、アーサー様は青ざめたまま、話しに加わる。
「な、何の話だ!? いや、リーファをこんなところに住まわせているのか!? 何かあればどうするんだ! お化けがいるんだぞ!」
「余計なお世話です。うちはヘルハウスなので慣れてください。では、晩餐の支度をしますから」
「ちょっと待て! このお化けは!?」
『ジュリアって言ったじゃない。 忘れんぼうさんね』
お化けを引き離して欲しいアーサー様は必死だった。
そんな、アーサー様にジュリア様はクスクスっと笑い、頬をツンツンとつつく。
「ジュリアはアーサー様がお気に入りですから……お相手をお願いしますよ」
旦那様にそう言われて、アーサー様は、青ざめたまま無言だった。
心の中はきっと、ヒィーッ! となっているだろう。
晩餐の時間には、げっそりとしたアーサー様が向かいに座っている。
ロウさんは、ご機嫌で給仕をしている。
「ロウさん。何か良いことでもありましたか?」
「私のエレガントな日常がやって来ましたからね。不気味なヘルハウスの当主にお綺麗な奥方様。晩餐にはお客様も来るなんて……これぞ、貴族の夕食です」
「……居心地はいいだろう」
「居心地はよくても、当主一人の公爵家なんてありませんよ」
やっぱり、ロウさんはヘルハウスが怖くないんだわ。
ロウさんは、感無量のようにジーンとなっている。
「リーファ……本当にこんなところに住んでいるのか?」
「はい。そうですが……ちょっと怖いですが、旦那様のいる邸ですから……」
アーサー様は、すでに根をあげそうだが今は城に帰られないから、今夜から大変だろう。
旦那様は、ジュリア様にアーサー様の部屋は出入り自由の許可を出されたし……。
私にあんなことをしたから、旦那様はちょっとお灸でも据えたいのかもしれない。
旦那様は、いつものようにワインを嗜んでいる。
そう思いながら、今夜も美味しい晩餐をいただいた。




