ご褒美
「旦那様、アーサー様と同居は大丈夫ですか?」
「二人っきりにならないでくれよ」
「それはしません。……でも、今からどこにいかれるのですか?」
「家具屋だ。他に行きたい店があれば言いなさい」
何故いきなり家具屋ですかね?
使ってない部屋がほとんどですけど、家具はついてますよね?
旦那様を見ると、いつもの無表情だ。
でも、二人で出かけるのが、嬉しくなった。
しかも、外出は二週間ぶりで、思わずにやけてしまう。
「どうした?」
「旦那様と出かけるのが、久しぶりで嬉しくなりました」
「たまにはいいだろう」
街につくと、賑わいのある人々の往来に圧倒されてしまう。
いつもは、日が昇る朝と夜しか来なかったから、新鮮だった。
初めて来たみたいにホゥッとしていると、人の往来に紛れないように、旦那様は手を引き寄せる。
「危ないぞ」
「はい。腕を組んでも?」
「そうしてくれ」
ヘルハウスにいる時のように旦那様の腕に手を入れる。
旦那様は確認したように、「では、行くぞ」と並んで歩き出した。
そして、迷わずに家具屋に進んだ。
家具屋では、新しいベッドを注文している。
しかも、一番高級なベッドだ。
「新しいベッドですか?」
「アーサー様……というか、ジュリアに頼まれていたからな」
「棺桶じゃなくてですか?」
ジュリア様のご褒美はいい男ではなかったでしょうか?
不思議な気持ちで、ベッドの注文を淡々とする旦那様を後ろから見ていた。
ベッドはすぐに届けてくれるそうで、旦那様の用事はあっという間に終わった。
そして、せっかく街に来たから、「何か食べるか?」と言われた。
思いがけないお出かけに、胸はおどっている。
そのまま、お洒落な喫茶店で紅茶とケーキを頼んだ。
店主は、旦那様がこちらに来ることが初めてのように驚き、かしこまっている。
旦那様は、甘いものがお好みで果物沢山のチョコレートケーキを食べている。
「旦那様は、よくこちらに来られるのですか?」
「店で食べるのは、初めてだが……いつもは、ロウが買って来るからな。美味いか?」
「はい、とっても美味しいです」
そう言うと、旦那様はフッと笑みを溢す。
最近は、時々そんな表情を見せてくれるようになり、ちょっと特別感がある。
「それにしても、ジュリア様のご褒美はいい男ではなかったのですか?」
「アーサー様を紹介すればいいんじゃないか?」
「確かに見目麗しいと評判ですけど……大丈夫ですかね?」
「大丈夫だろう。お化けのジュリアじゃ何もできん」
それは、アーサー様の貞操は大丈夫ということですかね……。
ご令嬢たちに人気のアーサー様なら、ジュリア様はきっと気に入るにもしますし。
でも、アーサー様は大丈夫ですかね。
なんだか、ジュリア様にアーサー様を押し付けたいと、旦那様は思っている気がしますね。
「暗くなったら帰るか?」
「そうしましょうか」
そのあとも、旦那様と街を歩き、二人のお出かけは楽しいものだった。
ドレスや、帽子にと色んなものも私に買ってくださり、二人では持って帰られないほどだった。
結局、持って帰られなかったものは、翌日に届けてもらえるように、すべて旦那様が手配していた。
帰るころには、日も暮れていたが、旦那様がいればこの薄暗い帰り道も不安はなかった。
しかし、ヘルハウスでは、アーサー様は大騒ぎだった。




