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還る 5



一晩越えたがジュリアはまだ来ない。

もう、リーファに体温はほとんどない。

せめて冷たくならないようにと、一度も腕から降ろすことなくリーファをマントの中で抱えているが止めることは出来ない。


絶望的だった。

無理やり魂が出たから、本当の意味で死を迎えてないだけで、もうリーファはもたない。


そんな絶望の中に、呑気な声が頭の上から聞こえた。


『お待たせ~~。何の用かしら~? 急いで来いなんて……ガイウスったら~』

「ジュリア!」

『私に会いたかったの~』


呼び出されて機嫌の良いジュリアと違ってこっちは必死だった。


「ジュリア! 急いでリーファの中に入れ! リーファの身体を生かすんだ!」

『あぁ、リーファね。ヘルハウスに急に来たのに、よくわかってないみたいで漂っていたわよ。あれじゃ、ヘルハウスからは出られないわね。困った新人さんみたいな感じ?』


やはり、リーファはヘルハウスにいるのだ!

急に魂がでたから、きっと何が起こったのかわからずにいるんだ。

死んだ時の記憶があやふやなお化けと同じだ。


「ジュリア! いいからリーファに乗り移るんだ! 一刻を争うぞ!」

『……ご褒美は? ご褒美が欲しいわ!』

「何が欲しいんだ!? なんでもやるから早く入れ!」

『絶対よー!』


ジュリアは、『いくわよー!』と腕に抱きかかえているリーファの身体にスゥーッと両手を伸ばして、入り込んだ。


「リーファ……」


ジュリアが乗り移り、一呼吸おいたあと、リーファの瞼がゆっくりと開き薄いブラウンの瞳と目が合う。


「……ガイウスったら……そんなに見つめるなんて……」


リーファに乗り移ったジュリアが両手を伸ばし、首の後ろに手を回してくる。

中に入っているのは、ジュリアだとわかっているが、リーファの身体が動いたことに感謝するようにそのまま力任せに抱きしめた。


「リーファ……!」

「身体だけだけどね……ふふふ……」


これで、ヘルハウスまでリーファの身体がもつ。

あとは、リーファの魂を身体に戻すだけだと……。


「……それにしても、動きにくいわね。前はもっと動きやすかったのに! 死にかけているからかしら?」

「やめろ! リーファは死なせない!」

「まだ、魂の尻尾みたいのがあったから、大丈夫でしょう。あれが切れたら戻れないけどね~~」


クスクスとジュリアは軽く他人事のように笑う。


「リーファはどうしているんだ? 泣いてないか?」

「だから、よくわかってないと言ったでしょう? でも、ずっとガイウスを探していたわよ」

「どんな様子だ……?」

「んんーー……そうね。『どうしたの?』って聞いても『旦那様はどこですか? 旦那様……』って邸の中を彷徨っていて……。悪さするお化けにどこかに連れて行かれないように、ギルバード卿がリーファを見張っているけど……。ギルバード卿が『何かしますかな?』って聞いても、『旦那様の為に、クイニーアマンを焼くんです……』って、まだ、話がかみ合わない感じね。やっぱりお化けの新人さんだからかしら?」


リーファの様子を聞いていると、胸になにかがこみ上げてきていた。

顔も上げることさえできずに、ジュリアが乗り移っているまだ冷たいリーファの身体をまた抱きしめた。


「リーファに会わせてくれ……」

「ヘルハウスに帰れば会えるわよ?」


ジュリアはお化けのせいか、どこか感情が乏しいところがある。

今の想いが理解できてないように、キョトンとして言った。


「そんなことより! ガイウス! 私のご褒美は?」

「何が欲しいんだ? 新しい棺桶でもいるのか?」

「棺桶よりも、ベッドがいいわ! それと、いい男が欲しいのよ! その人と新しいベッドで寝るわ!」

「顔のいいお化けでも探すか?」

「生身の身体がいいわ! 生きている男でお願いね!」


生きている人間に憑りつくつもりだろうか?

だが、今ジュリアに逃げられては困る!


「リーファを戻したら、探そう」

「きゃーー! お願いね! ガイウスよりもイケメンでお願いよ!」

「わかった……」


ジュリアは両手を握りしめて嬉しそうになっているが、その様子はちょっと複雑だった。

リーファの顔で、そんなことを言わないで欲しい。


「それにしても、雑な馬車ね。ガタガタ揺れて落ち着かないわ」

「急いでいるんだ。リーファの身体が無事ならどうでもいい」


あとはヘルハウスに帰るだけ……。

望みは見えた。

リーファの待つヘルハウスへと、落ち着かない気持ちを抑えひたすらリーファに会えることを願っていた。







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