帰って来た執事
目が覚めると日が落ちている事がわかる。
いつもは目が覚めると真っ暗だが、今夜は薄暗く灯りが燈されていた。
隣には旦那様が上半身裸で片膝を立てて読書中だった。
……一体いつ脱いだのでしょうか。
寝る前は下着のようなシャツを一枚着ていたはず。
「起きたか?」
もそもそ動く私に旦那様が気付いた。
「はい」
「……旦那様、寝夜着はどうしましたか? 消えましたか?」
「下は履いてるぞ」
何故脱ぐのでしょうかね。使用人もいない邸だから、気にもならないのでしょうか。
目のやり処に困り枕に顔を埋めていると、ドアのノックがした。
「リーファ様、起きていられますか? ロウです。只今帰りました。ガイウス様はどちらに行かれていますか?」
まさかこのタイミングで帰ってくるとは!?
きっと旦那様の部屋に先に行っていなかったから、そのままこの部屋に来たんだろう。
でも、この状況をどう説明するのか!
そう思うと旦那様は気にする事なく、ロウさんに答えた。
動揺しなさすぎです……。
「ロウ、ここにいるぞ。急ぎか?」
ベッドから答えた旦那様に気付いたロウさんは、顔色も変わらないままドアを開けてきた。
スパパパーッン!!
「!?」
そしていきなりクラッカーを鳴らされた!
何処から出しましたか!?
「おめでとうございます! やっと夫婦になられたのですね!」
やめてくださいー!
この執事は何を考えているのでしょう! ただ一緒に寝ただけなのに、クラッカーでお祝いされるなんて予想外です!
「ロウ、止めろ。何を考えているんだ」
本当に何を考えているんでしょうね!!
恥ずかしさのあまり、頭まで被ったシーツから出られない。
「これで私のエレガントな日常の始まりですね。こんなヘルハウスに当主一人とは、いささかどうかと思ってました」
「悪かったな」
「リーファ様、よくぞ夜伽をなされました! 今夜はお祝いをしましょうか」
「い、いりません! 私達っ……まだ……っ!」
「まだ……? いい大人が二人で何をしているのです? クラッカーを鳴らしてしまいましたよ。次はもっと派手に鳴らしましょうか?」
私が頼んだわけではないですよ!
とにかく出ていって欲しいと焦る。
「だ、旦那様……」
「ロウ、書斎で待っていろ。着替えたら二人で行くから……」
「はい、畏まりました」
さすがの旦那様も呆れたように言った。
ロウさんはクラッカーを鳴らしといて、いつも通り変わらない。
そして、ロウさんとおそらく廊下で様子を聞きながら待っていたであろう料理人さんは書斎に行かれた。
「リーファ……ロウがすまん」
「まさか、クラッカーを鳴らされるとは思いませんでした」
「すまん……着替えたらまた迎えに来るから、すぐに着替えられるか?」
「急いで着替えます!」
ロウさんは何か私では、計り知れないと思いました。
そして、着替えをすました旦那様と一緒にロウさんの待つ書斎へと行った。




