メイド萌えではない!
「ギルバード卿、ちょっと来てくれ」
『私は今から遠乗りに行きますがな』
「10日以上も散歩に出掛けてまだ行く気か? ……いいからちょっと来てくれ」
『私が散歩に出掛けたのは昨日ですぞ?』
「もうずっといなかったぞ……」
お化けは時間の感覚が乏しい。
ギルバード卿にとって、10日前に森に出掛けたのが昨日の感覚らしい。
ギルバード卿と向かい合って座ると、何故かジュリアは横に座る。
「……ギルバード卿、リーファと結婚したんだ。ジュリア達と一緒になって脅かさないでくれ」
『私は何もしてませんがな』
「リーファのドアをガタガタと揺らしていただろ……!」
『しかし、私達はお化けですからなぁ』
「怒るぞ……」
『……ジュリアさん、どうしますか?』
『ガイウスがベッドに入れてくれたら諦めるわ』
「だから、ジュリアは身体がないだろ……」
『あら、身体があれば良いのかしら?』
「妻はリーファだ。どんな事情があれど結婚したんだぞ」
結婚したのに何で俺がジュリアと……と思う。
……こいつらに言っても何だか無駄な気がしてきた。
そもそもこんなに真剣に止めた事は無い。今までも使用人を脅して来たがやっていけないならそれはそれで気にもしなかった。だが今は違う。
ロウはお化けどころか何事にも動じないから、ほっといてもいいがリーファは違う。
せっかく保護したのに、これでいいのだろうか。
ため息が出る。
そこにガラガラとワゴンの音がしてきた。
リーファとロウが晩餐を持って来たのだろう。
「おや、ギルバード卿。お帰りでしたか」
「ふぉっふぉっふぉっ……また、遠乗りに行きますがな……」
「それがよろしいでしょう。ガイウス様はリーファ様とお食事ですからね。さぁ、ジュリアさんも……」
『私はガイウスの膝で食事するわ』
「ジュリアの食事はないぞ。下がれ」
「ジュリアさん、ガイウス様はリーファ様と二人がいいのですよ」
ロウがギルバード卿とジュリアを出そうとすると、三人は井戸端会議のように話しだした。
『いやらしいわね』
『何をする気でしょうな』
「ガイウス様もお若いですから…」
『こんなメイド女をどうするのかしら?』
「ジュリアさん……メイド萌えというやつですよ」
『何ですかな? それは…』
「世間ではメイドの姿がいいという者もいるのですよ」
『クローリー公爵にそんな趣味があったとは……』
『きゃー!? ガイウスの変態!』
「いいから出てけ!」
何がメイド萌えだ!
ロウまで一緒になって……! そんな趣味は無い!
「ほら、ガイウス様がお怒りですよ。皆様下がりますよ」
ロウは二人を連れてリーファと食事を置いて出て行った。
リーファを見ると、メイド萌えは本当ですか? と言うようにジッと見ている。
「言っとくがそんな趣味は無いからな!」
「そんな心配はしてませんが……白ちゃんも飛んで行ってしまいました」
「邸内を彷徨っているから、またすぐに戻ってくる」
「はい。では、私もすぐに着替えて来ますね」
「それでは、食事が冷めるだろう。今日はそれで食べればいい……言っとくがメイド姿だから言っているのではないぞ」
「はい」
そう言うと、リーファはクスリと笑った。
そして、二人で食事を始めた。
リーファが起きている時間になるべく一緒に食事は摂るようにしている。
面倒くさいと思うかと思ったが案外そうは思わなかった。
リーファが一生懸命だからかもしれない。
「料理は楽しいか?」
「はい。まだまだロウさんには敵いませんが……今日のスタッフドトマトはロウさんに教えてもらいながら作りました。ロウさんは包丁さばきが凄くお上手なのですね」
「……ロウは元々陛下に仕えていたんだ。腕も立つから困った事があれば頼ればいい」
「陛下の料理人でしたか?」
「そうではないが……」
ロウの元々の仕事は説明しにくいし、リーファには聞かせられない仕事もある。
リーファは聞かないほうがいいのかと察したように、それ以上聞いてこなかった。
「リーファ、後で庭でも歩くか? 一人では歩けないだろう?」
外には、甲冑がいるからな。
「一緒に行って下さるのですか?」
「勿論だ」
「じゃあ、食事が終わればすぐに着替えますね」
リーファは嬉しそうにそう言った。