白いものは
旦那様が浴槽は業者に頼み新しくしてくれたおかげで、気持ち良く入ることが出来るようになった。
そして、夜は起きるとすぐにお料理に取り掛かる。
私は旦那様が買って下さった洋服を汚さない為に、ロウさんが洗ってくれていたメイドのお支度着を着て、エプロンをしながら部屋を出る。
その為に恐る恐る廊下を歩くがいつも通り、白いボヤリとしたものは漂い、ジュリア様は、廊下の角から睨む。
ひぃー!? と思いながら、ゆっくり進むと私の横を透けた馬が走り抜ける。
何故邸の廊下に馬が!?
馬のお化け!?
馬には貴族らしい中年男性が乗っており、振り向かれると目が合ってしまった。
『おや……見慣れないお嬢様ですな?』
馬のお化けの上から話しかけられてしまった。
『ギルバード卿! 私からガイウスを取った女です!』
『おやおや……』
ジュリア様はピューと飛んで来て、ギルバード卿と呼んだ馬の上の中年男性に泣きついた。
白いボヤリと浮かんだものの一匹は、焦ったように、グルグル回っている。
そして、ジュリア様はキッと私を睨む。
私は来る! と思い慌てて部屋に走り込んだ。
『逃げたわねー! 出ーてー来ーい!』
逃げます! 脅かされるのがわかっているのにあえて受けません!
そして、ドアがガタガタ揺れ始める。
ポルターガイストというやつでしょうか!?
『ふぉっふぉっふぉっ……!』
ギルバード卿と呼ばれた方の笑い声が聞こえる。
「ジュリア様! 私は今から旦那様のお食事の支度が!」
『ふっ! 召し使いが! 出ーてーけー!』
勝ち誇っているのか、脅したいのかどっちですか!?
わかりません! お化けのテンションがわかりません!
「ジュリア!」
揺れるドアノブを必死で抑えていると、廊下から旦那様の声が聞こえた。
そして、ドアの揺れが止まる。
『ギルバード卿、帰っていたのか。居るならジュリアを止めてくれ』
『しかし、我らは脅かすのが仕事ですからなぁ』
「リーファには止めろ」
旦那様の声が聞こえたから、恐る恐るドアを開ける。
「旦那様……?」
今度は叫ばなかったのに、良く聞こえたなと思うと、旦那様の側にいた小さな白いものが飛んで来た。
「……旦那様? この子は?」
「生前の姿も残せない弱いお化けだ。そいつがリーファのことを知らせに来た」
両手を出すと、もぞもぞと動く。その仕草がなんだか照れているように見えて可愛い!
「旦那様! この子なら平気です! 可愛いですわ!」
「そうか……」
「お名前はなんて言うのでしょうか?」
「……名前? なんだろうな……誰も気にしたことないぞ……」
旦那様は目が点になって不思議そうな顔だった。
『クローリー公爵……お嬢様なら脅しても大丈夫では……? ふぉっふぉっふぉっ……』
「止めろ」
私が両手の上の白いものを見ていると、ギルバード卿と旦那様はそう話していた。
「決めました。白いから、白ちゃんにしましょう! 旦那様、この子と一緒に厨房に行ってきます!」
「えっ!? 大丈夫か!?」
「はい! 白ちゃん! 何かあったら旦那様にお知らせ下さいね!」
白ちゃんは頷いた。
「旦那様はジュリア様とお話でもどうぞ!」
『あら……! ガイウス、ベッドに行きましょう』
ジュリア様は嬉しそうに旦那様に垂れかかった。
「お前は身体がないだろ……」
「白ちゃん、一緒に来て下さいね」
何だかお友達が出来たみたいで嬉しくなり、白ちゃんと私は二人で行ってきます! と元気に厨房に向かった。




