超有能!宮廷道化師にお任せあれ!!
王太子が婚約者断罪!どうする、宮廷道化師! @短編103
「お前とは婚約を破棄する!即刻ここから立ち去れぃ!」
この声は王太子であるエリック様か・・
なんで仕出かしちゃいましたかねぇえ・・・
僕が戻るまで、何で待てなかったんですかねぇええ〜〜〜・・
僕は王様付きの道化師、ジェスター4世。
道化のふりをする暗部。国王陛下の諜報・護衛がメインの仕事です。
最近、王太子様のご乱行に頭を痛めた国王陛下の命を受け、そのお相手である小娘を調査していたのです。
そうなのです。
誰にも知られたくない、闇に屠りたい事柄は僕の出番なのです。
王家の為に尽くすのが、我がクラウン家の諚。輝かしい王冠、『クラウン』と名乗って良いと王家に赦されている由縁です。
さて、この小娘・・ライア・ツゥール男爵令嬢ですが・・
私生です。最近母親が亡くなったので、男爵家に引き取られたとか。
しかも貴族としての教育がまだ1年程度の小娘・・ほとんど平民ではないですか!!
王家の嫡男であらせられる王太子殿下のご友人なんて滅相も無い!!
まだ王城で奉公しているメイドの方がマナーも出来ていますよ!
王城で働く者は、騎士家以上の家格が無いと働けませんからね。マナーも完璧です。
お手付きにするんでも、どうしてちゃんとした娘にしなかったんです?
王は奥方一筋の愛妻家、夫としても模範な方なのに・・
王太子様が言うには、何でも貴族のお高く止まったところが嫌なんだそうです。
平民は自由でざっくばらんで気取らない、暖かな心情が良いんだそうで。
平民が自由って、本気で思っているんですかねぇ・・憧れてるんですかねぇ・・そんな良いもんじゃねーんですけどねぇ。
確かに未来の王、嫡男であるエリック様の重責は相当なモノでありましょう。
この国の未来、そして民を導いていなければならないのだから。
だから国民はあなたに期待をし、税金を差し出しているのです。
今着ているシルクのシャツも、我が国が誇る特産品である絹糸で織られているのです。
あなたが先程召し上がっていた料理やワインも、我が国の民が生産した農作物で作った物。
現国王であるあなたの父上が制定したのです。あなたもいずれその任を負うのです。
あなたの憧れる平民じゃあ、こーんな贅沢な御召し物に御ご馳走、一生着る事も食べる事できないんですよー。
馬鹿な事言っても、今はまだ子供だからと、お目溢ししてもらっているのです。
ですが、ちょいとばかりハメを外しすぎましたね。
あなたの婚約者であるスゥイーリア嬢は、オースティン公爵の御令嬢。
オースティン公爵家は、この国一番の領地を有する大金持ち。国庫と呼ばれるほどの小麦畑を持っています。
おまけにワインの名産地としても有名で、国内外の美食家の舌を虜にしています。
もしも彼が反旗を翻し、他国に籍を移してしまったら、この国の民は飢えるでしょう。
今まで何度も隣国から懇願されているのを、我が国への忠誠心だけで留まってくれているのです。
父である公爵様は、公爵家を継がれる前は辺境伯として国防を担っていた方で、剣の達人であったとか。
長男で嫡男でもあらせられるラスティ様は、騎士としても名を馳せた勇猛な方です。
そして辺境伯の役目は、今は次男のアンバー様が担っているのです・・・
さすが辺境伯、剣も槍も達人級。この間は周辺で悪さをしていたオーガの群れを、たった一人で滅ぼしたとか。
父娘もですが、兄妹の仲も良いそうで、目に入れても痛くない、溺愛だとか。
もしも娘が、妹が虐げられたと聞いたら・・ああ、恐ろしい。
現実味を帯びて来ました・・・この国の存亡が!!
本日は国内外の貴賓も招いたかなり盛大なパーティーです・・・
もっとこじんまりとしたパーティー程度なら、国内の話で済んだのに、なんで大臣や大領主、国外の外交官殿が来ているようなパーティーでやらかしたんでしょうねぇ・・・
数日かけて僕が調べて来た事、もう意味無くなっちゃったじゃないですかー・・
いや。
ここで頑張るのが宮廷道化師!国のため、王様のため!
さあ、引っ掻き回しますよ〜〜!!
「ははは!!エリック様〜〜〜、サプラーーイズ!!」
「4世?」
僕は4世って呼ばれているんです。代々の宮廷道化師クラウン家の男は、みんなジェスターですから。
「妖精じゃありませ〜〜ん、4世でーーーす♪何何?エリック様ー、何を騒いでいるんですぅ〜〜?」
エリック様の背後にピトッとくっ付いて、右肩から、次に左肩から、僕は頭をヒョコヒョコと覗き込んで戯ける。うざいくらいが丁度良いのが道化師だからね。
「おい、こら!邪魔するな!」
「はははーー!!邪魔って何がです?なんか騒いでいましたね?何何〜?何してるんです?エリック様ぁ〜〜」
「だ、断罪だっ!!」
「ひえっ!!ぼ、僕をですぁぁ〜〜?そんな事、許されませんよぉ〜〜。僕はお父上の道化師ですから〜〜」
僕はわざと『よよよ〜〜』ってな感じで床にへたり込む。
そしてハンカチを咥えて『キーーーッ!』。
「お前じゃ無い!この
「そこから先は、駄目ですよ」
僕はびょ〜〜〜んと飛び跳ね、王太子様の顔に引っ付かんばかりに顔を近寄せて、威圧バリバリで一言。
僕は暗部だからね。威圧でちびらせる事も出来るんだけど、まあ王太子様だから『スタン』程度で。
「まったく!!王太子様ったら〜〜。分かっているんですよ、僕にはね!さてスゥイーリア嬢、我が王太子様が驚かせちゃいましたね!実はあんな酷い言い方には理由があったのです」
僕は涙目のスゥイーリア嬢の元へ、ぴょんぴょんと戯けた調子で飛び跳ね近寄る。
そして両手を見せて、何も無いですアピールをして・・・パン!
合掌するように手を叩き、ゆっくりと両手を離すと・・・綺麗なブローチが現れた。
「まあ・・・それは」
「はい!これがあの、小娘むにゅにゅ・・男爵令嬢が無くしたと言う王太子様からいただいたブローチです。僕は頑張って探してきましたよ〜。男爵様の許可を頂いて、こむ、むにゅにゅ、男爵令嬢の部屋を調べたんです〜〜。そしたらありましたよ!」
王太子様の近くにいた小娘は、顔を青くしている。
そうだろうそうだろう。
これはお前の家にあったんだ。お前の部屋の机の中にね。
確かこのブローチは『スゥイーリア嬢に奪われた』そうだね?
ずっとスゥイーリア嬢に意地悪され、虐められていて、王太子様のブローチも取り上げられたんだっけ?
じゃあ、どうしてここにあるのかな?
男爵様は『王の命令で捜索に来た』と言ったら素直に部屋に入れてくれましたよ〜。
つまり、男爵様は知らなかったと言う事ですかね?
それとも・・・男爵様は娘をトカゲの尻尾切りのように見捨てたのかな?
まあどちらでも良いですけどね!
「王太子様に頼まれ、原因のブローチを探し、そして見つけて来たんです。これで解決解決〜〜♪」
そしてちょっとマジック。ぽん!と音を立てて、小さな花束を出して、スゥイーリア様に手渡し、耳元にこっそりと囁いて。
「後で王太子様が謝罪に行きますので、帰らないでくださいね」
それから僕は、大勢の客の前で軽業師のような曲芸を10分程度披露しながら、
「すみませんねえ〜〜、なあに、ちょっとした誤解です!若い二人の痴話喧嘩ですから許して差し上げてくださいませ!」
こんな感じで言って回ったのだ。
客人達も和やかになって、何とか危機は回避出来たようだ。あとで王様にご褒美をもらう!!僕は頑張った!!
そして僕は呆然と立ち尽くす小娘の所にすたすたと近寄って、にっこりと笑って・・・そっと耳元で囁いた。
「僕はね。嘘つきは嫌いなんだ。ジョークなら許すけど。つい最近まで平民だったお前と、生まれながらの公爵令嬢。格が違うよね?ついでに言っておくが、おうちで役人と騎士が待っている。王太子様に変な思想を吹き込んだんだ、きっちりと調べてもらうが良いよ、この思い上がりも甚だしい小娘が。輝かしい未来の王に、お前はいらないんだ。弁えていれば良いものを」
にたあと凶悪な笑みを披露すると、小娘はガタガタと震え出した。
未来の王に、何が『平民は自由でざっくばらんで気取らない』だ。王が平民になってどうする。
全く、つまらん事を吹き込んでくれた。まあ小娘がどうなろうが知った事か。
ボーイを呼んで、小娘を家に返すように託けて・・
僕は王太子様のところへ行き、ブローチの件を説明した。大事なところは思い切り強調して、ね。もちろん大声では無いです。王太子様だけに聞こえる程度の声ですよ。僕は意外と思慮深いのです。
気安く王太子様の肩に右腕を乗っけて、
「ブローチはあの小娘が隠し持っていましたよ。まあ王太子様の気を引きたいが為の猿芝居とはいえ、我が国最大の影響力を持つ公爵家の御令嬢、しかも王太子様の婚約者であるスゥイーリア嬢に向かって泥棒扱いをしたのです。しかもでっち上げですよ?ああ、侮辱どころか冤罪ですよ!これだから平民上がりのマナーも知らない小娘は嫌なんだ」
「4世・・言い過ぎだぞ」
恋した小娘をひどく言われたのだから、怒るのはやむ無し、か。
でもね、それじゃダメなんですよ。
「え?何か言いました?未来の王ともなろうあなたが?んん〜?あなたが未来の王?ねえ、そろそろしっかりと考えてくださいな〜。あなたにどれだけの人が期待しているか。そしてこんな事をしでかしたあなたに、どれだけの人がついて来てくれるか。平民を私は舐めてはいませんよ?さあ、目を瞑って。未来のあなたの『後ろ』を見てごらんなさい。どれだけの人が、ついて来てくれるでしょうねぇ?」
しばらく王太子様は僕を睨んでいましたが、やがて睨んでいた目は不安げな視線となって。
ようやくですが・・色々気付いたようです。顔色が悪いですからね。
王太子様が恋をしてはいけないとは言いませんが、断罪はやってはいけないでしょう?
結婚したく無いなら、それなりに穏便にとか・・まだまだ子供ですね、王太子様。
若いから思慮が足りなかった、それではダメなんです。
だってあなた、王になるんですもん。
「さあ、スゥイーリア嬢に謝罪していらっしゃい。嘘八百口八丁なんでもござれ!これくらい出来なければ、国を守る事なんて無理ですよ!」
根が真面目な王太子はどう言えば良いのか思い浮かばないようで、しばらく項垂れて足元を見つめていました。
なので、僕が考えた言い訳を教えて差し上げました。はあ、全く。
政には多少の嘘や誤魔化しは必要なんですよー。お父上はそりゃあもう・・奥方である妃様には紳士ですけどね!
多分、我がクラウン家の誰かがあなたをお守りする事になるんです。
今のあなたでは、我が家で一番能力が無いアーチャー(道化師になったらジェスターになる)でさえ付けたく無いです。ちなみに、アーチャーは今4歳です。
あーー、僕頑張った!
早速王様にご報告だ!ご褒美たんまり頂ける予感!!
だから道化師はやめられない!!
この話は1年前に書いた。
で、ランキングタグテスト。お客さま、どのくらい増えるかな〜?