#91 開戦と人質の解放
僕達が帰って暫くすると情報が集まって来る。まずどの国もギルドも教会も僕達の討伐には動かないようだ。恐らく原因は黎明にある。ボグとラフェード魔王国の悪魔の軍勢を倒した効果は相当あったらしい。
ただ今回が最初の被害だったから楽観視は出来ない。これから情勢を見極めながら動いていくとしよう。そしてダークエルフの話はエクリスから聞く事ことが出来た。
『エルフの元々の縄張りはラフェード魔王国があった場所なんです』
『そうなんですか?』
『はい。魔王メイルが無類の女好きなのは知っていますか?』
『はい。ラフェード魔王国に侵入した時にあちこちから話が聞こえてきましたよ』
とびっきりの美人を自分の奴隷にして、毎晩楽しんでいるとか話しているのを聞いた。
『そんなあいつが最初に狙ったのがエルフだったんです』
『あぁ~』
そういう流れになる訳ね。てっきり亜人が沢山手に入る場所を選んだと思っていたけど、それは偶然ついて来た物って感じか。
『つまり自分の縄張りを取り戻す為に戦っているってことですか?』
『そんな大層な話ではないと思います。彼女達が隊商を襲撃している話はずっと聞いて来ました。要は盗賊のようなものですね。その為、今回の話も恐らくダークエルフの仕業だと思っていると思いますよ』
常習犯なわけね。僕達もそう思われないといけない。ここで気になっている事を聞いてみる。
『エルフとダークエルフの仲ってどうなるんですか?』
『良好ですよ。最初はやはり肌の違いで色々言い争いがあったみたいですけど、今ではエルフに取って、ダークエルフは住処を与えてくれている恩人ですし、ダークエルフも植物を育てるのが苦手なので、色々助かっているはずです。その証拠にハーフエルフも存在しているんですよ』
つまり魔王メイルが狙ったのは普通のエルフで魔王から逃げるエルフを保護したのがダークエルフってことになるのか。因みに普通のエルフは魔法特化でダークエルフは近接戦闘や弓など武器を扱うらしい。
二つのエルフが手を組んだことで魔王メイルはその後、直接的な手出しを止めて、こちらと同じで誘拐して奴隷にするという手法に変えたそうだ。そしてエクリスさんから質問される。
『話した通り、ラフェード魔王国には多くのエルフの奴隷がいます。あなたはどうするつもりですか?』
『奴隷は全て解放します。そもそも魔王メイルを倒せばどっちみち解放されてしまうようですしね』
『魔王メイルを倒すつもりでいるんですね』
『奴隷の解放の準備は確実に進んでいます。そして奴隷にされていた者、大切な人を奪われた者達が元凶を許すはずがありません。あいつの討伐は避けては通れない道だと思います』
ここでもし庇えば僕の立場まで危なくなる。まぁ、元々庇うつもりはないけどね。今まで散々彼らを苦しめて来たんだ。その罪を裁く法律が世界に無いのなら、僕達がその罪を裁くしかない。例えそれが殺人という大罪になったとしてもだ。
『そうですか……私は立場上何も出来ませんがあなた達が勝った後ならエルフの事で動けます。なので後の事は忘れて、今は目の前の奴隷解放に集中してください』
魔王メイルを倒した後の土地とかどうしようとか考えていたことがバレてしまったようだ。
『分かりました。その時が来たら、よろしくお願いいます』
僕達はその後、隊商の襲撃とそこから得た生地でミイネ達が普通の服などが作って貰った。夏になると水着の生地まで手に入り、エル達は川で大はしゃぎをしていた。
その一方で春にはラピス山脈の奴隷解放がほぼ完了し、夏中に簡略化された偽物の奴隷の首輪をラムーナの町や他の町にばら撒く事に成功する。
それも偽物の奴隷の首輪に罰を受けるシステムが搭載させているからだ。それを奴隷にされた亜人達は自分達が解放されるために歯を食いしばって、耐え続けた。その覚悟があったからこそ、人間や悪魔達に気付かれる事は無かった。
みんなが奴隷の解放に動いている間、僕は森にいる魔獣と契約スキルで仲間にしていった。これで魔獣たちを仲間召喚することが出来る。そして森にいる魔獣のほとんどと契約して亜人の森の戦力のほとんどが僕たちの元に集まった。
そして季節は廻り、秋。この間に悪魔との小競り合いなどがあったが作戦は最終段階を迎えることが出来た。
「カナタさん、皆さんの準備が整いました」
「うん」
チョコネに言われて、僕がエルと家から出ると新しい服にそれぞれ武器を装備したみんながずらっと並んでいた。亜人の後ろには仲間にした魔獣たちもいる。壮観だね。
「みんな……とうとうこの時が来た。この日を迎えることが出来たのは一重にみんなが捕まってしまった仲間を家族を助けたいと強く思ったからだと思う。みんな、本当によく頑張ってくれた」
みんなが誇らしげな顔を浮かべる。僕は目を閉じると今までの戦いを思い出す。例え小競り合いだったとしても命を無くすかも知れない危ない戦闘ばかりだった。
「今までのみんなの我慢は全てこの時ため! 今日は遠慮無用だ! 仲間を! 家族を! 必ず救い出して、ラフェード魔王国を終わらせる!」
「「「「おぉおおおおお!」」」」
「全軍、出陣!」
こうして後の世に語られる奴隷解放戦争が始まった。最初に動いていたのはホゥとフリューグ達だった。
「お邪魔しまーす」
ホゥが現れたのはラフェード魔王国の首都ノープルにある遊郭の地下だ。
「カゲツさんの使いの人ですか?」
「はいー。人質にさせている皆さんを助けに来ましたー」
ホゥは奴隷の首輪を解除することが出来るアーティファクトを使って、あっさり外すと偽物の奴隷の首輪を渡す。
「わぁ! ねぇねぇ! お姉ちゃん! ここから出れるの?」
「もうすぐ出れるよー。すぐに君のお父さんとかが迎えに来るからねー」
「やったー!」
子供が大きな声を上げると騒ぎを聞きつけて、悪魔達がやって来る。
「おい! うるさ……うぐ!?」
「どうし……あぎゃ!?」
「子供の歓喜の声ぐらい見逃していたら、死なずに死んだのにねー」
ホゥは影移動で悪魔の背後に回ると痺れ羽で動きを封じた。そしてとどめを刺す。
「お姉ちゃん、強ーい」
「ふっふっふー。森の監視者であるホゥちゃんは凄く強いことがわかったかなー?」
「うん!」
ご満悦なホゥに大人の亜人が声を掛ける。
「あの……他にも人質にされている人がいると思うんですけど」
「わ、私の娘は魔王メイルの城に連れていかれました! 助けて下さい!」
「大丈夫ですよー。今頃は助けられているはずですからー」
城の屋上からはフリューグ達が音もなく潜入していた。
「……カゲツの手の物か?」
「はい。忌まわしい首輪を外す為に馳せ参じました。失礼を」
「許す。さっさとこの首輪を外せ」
ホゥが使っていた物と同じアーティファクトで奴隷の首輪を外す。
「ほぅ……やっとあの無駄に重い首輪から解放されたか。して、現状はどうなっておる?」
「もう暫くすると国中が戦火に包まれるかと」
「そうか。それならここからその光景を見るのも一見じゃな」
こうして僕達の最大の懸念材料だった人質の解放が終わり、いよいよ本格的な戦闘が始まる。




