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#9 失う食料

僕は朝日を浴びて、目を醒ます。


「い、生きてる?」


僕は確かに電気が全身に流れたのを感じた。普通なら死んでいる。脳や心臓が感電して生きているはずがない。


「やっぱり僕は死んだのか……短い人生だった」


『辛うじて生きています。主よ』


黎明がそういうからには生きているんだろう。


『でも、なんで生きているの? 普通死ぬよね? もしかして黎明達が何かしてくれた?』


『いいえ。主が持っている雷耐性の効果です。これで雷属性のダメージを半減させることが出来たようですね』


そういえばそんなスキルがあったな。黎明が聞いてくる。


『主はなぜ雷耐性スキルを獲得していたんでしょうか? 私が知る限りでは、そんなスキルを獲得する出来事は無かったはずですが?』


『それは猫の守護獣に聞いてみれば分かると思うよ』


家で猫を飼っている人は経験したことがあるかも知らない。冬場で毛布の上でゴロゴロした猫がどうなるか知らない人でも分かるだろう。答えは恐ろしい静電気モンスターになる。


あの毛が逆立っている姿からは恐怖しか感じない。そして猫はお腹が減るとじゃれて来る生き物だ。僕が一体どれだけ静電気を食らってきたことか……雷耐性スキルが証明している。


『心当たりが無いようですが?』


『あ、そう……ならもういいよ』


僕は周囲を見るとエルが木の裏からこちらを伺っていた。昨日は完全に僕が悪いから謝らないといけない。


「えーっと……昨日はごめんね?」


「本当に反省してますか? 女性の尻尾を触るなんて人間で言ったら、お尻を触るのと同じことなんですよ!」


僕は知らない間にエルのお尻の触って揉んだりした訳か。僕はカードで称号を確認する。変態や痴漢の称号は無かった。セーフ。


「それは知らなかったよ。本当にごめん! お詫びに缶詰をたくさん上げるよ」


「そ、それはもういいです! 別のご飯はないですか?」


僕はエルに疑いの眼差しを向ける。あれだけ缶詰を楽しみにしていたエルがこんなことを言うのは明らかにおかしい。僕はリュックの中を確認すると缶詰が無くなっていた。やられた。


「缶詰が無くなっているんだけど?」


エルの尻尾が跳ね上がった。


「き、気のせいではないですか? わ、私は何も知りませんよ?」


明らかにエルは挙動不審だ。状況や尻尾から見ても犯人はエルで決まりだけど、ここは証人に聞こう。僕は馬さんに聞いてみる。


『俺も何も見てないぜ?』


僕は椅子に隠されているイボを確認すると凄く減っていた。


『ここに入ってた果物が凄く無くなっているんだけど?』


『そうなのか? 俺は何も知らないぜ?』


馬さんの方が誤魔化すのが上手だが、知らないと言った時点でアウト。背後の馬車で果物泥棒が入れば馬なら分かるはずだ。誤魔化すなら猿とか犯人を作るべきだったね。


「もういいよ。どうせあげるつもりだったし、これで昨日の尻尾を触った件は無しね」


「え……私は食べてな」


「これ以上誤魔化すなら僕は手加減しないよ? 最初に言っておくと動物を躾るのは結構得意だからね?」


本職の人には敵わないだろうけど、年間の躾した動物の数なら負けてないと思う。それなら称号を得ても不思議じゃないけど、躾は本職の人に教えてもらっていないことが影響しているのかも知れないな。


「はい……私が食べました。ごめんなさい」


エルは僕の迫力に押されて、缶詰を食べたことを認めるのだった。


食料が無くなったわけだけど、僕には最後の食料があった。それがお菓子である。朝の空腹ぐらいは満たせるだろう。


「これも美味しいです!」


意外だったのが馬さんがお菓子を欲しがったことだ。


『体に悪いよ?』


『ならお前らも食べるなよ。体に悪いものだと知っていても美味しければ食べたくなるもんだろ?』


僕もジャンクフードが好きだから、これを言われるとあげるしかなかった。


「他には何かないんですか?」


エルがリュックを覗き込む。


「また尻尾を触るよ」


「やめてください!」


エルはリュックから離れて尻尾を手で隠す。余程嫌だったようだ。しかし正直に言うと僕らの世界の食料は本当に無くなってしまった。ということは何処かで食料を確保しないといけないな。


しかし森の中にはモンスターがいるらしいし、どうしたものか。


「武器と防具はあるけど、戦闘で使おうとするとかえって邪魔になりそうだし、戦って勝てる保証もないしな~」


寧ろ情報も何もない状態で挑むのはリスクが高すぎる。これがゲームだったら、死ぬわけじゃないから平気で行動するんだけどな。


「そういえばエルは剣を持てていたよね?」


「はい。でも戦うのは嫌です」


流石、ニート竜人族のお姫様だ。こうなると食料の確保方法は絞られてくる。


「川とかあればいいんだけどなぁ」


森よりは危険度が下がるだろう。馬さんにダメ元で聞いてみる。


『川なら一日ぐらい進んだ先にあるぞ』


頼るべきは土地勘がある馬さんだ!でも一日か…仕方無い。道中何かないか鑑定で探してみよう。流石に果物だけではきつい。


エルが捨てた空の缶詰を回収して、木材を集める。僕がポイ捨てについてエルを叱っている時にズボンのポケットに手を入れると怪我をした。調べてみると焦げているスマホが現れた。エルの電撃の影響だ。


今まで続けた来たゲームのデータが消し飛んだ事実を前に一瞬思考が停止するけど、課金はしてなかったから、そこまでのダメージは無かった。それに持っていても異世界ではスマホはほとんど役に立たないし、元の世界に戻っても時間が経過していたら、ゲームでの差は致命的だ。結局ゲームを辞めることになることを考えたら、ここで踏ん切りがついて良かったと思うことにした。さっきポイ捨てを叱ったので、リュックの中に入れると新たな木材を求めて歩き出すとエルが突然慌て出した。


「ここから先は行っちゃダメです!」


「へ? なんで?」


「そ、それは……言えませんけど、ダメなものはダメなんです!」


僕は顔を真っ赤にしているエルの様子になんとなく察しが付いた。ずっと旅をしていたら、そりゃあトイレぐらいしたくなるものだろう。僕も流石にエルに見せたいとも思わない。


「わかったよ」


僕はその場から離れてエルがあの場から離れないことを確認してからこっそりトイレを済ませる。その後、木材を集め終えた僕達は出発した。


そして夜になる。食料、飲み物なしである。簡単に手に入る訳がなかった。


「お腹が減りました……カナタ」


「僕はきっとエルより空いているよ……酸っぱい」


今頃、みんなは美味しいご飯を食べているんだろうなぁ。異世界の綺麗な星空を見ながらそう思っているとエルが何かを持ってきた。


「カナタ! 見てください! 捕まえました!」


エルの手には木の枝に刺さったまま動いている芋虫がいた。


「それを食べるのは最終手段にさせて」


虫を食べる文化があることは知識として知っているけど、それをやるには勇気が必要だった。


「食べないんですか? うーん……きゃ!?」


エルが芋虫と睨めっことしていると芋虫がエルの顔目掛けて糸を吐きかけた。その結果、エルは木の枝を手放してしまい、芋虫には逃げられてしまった。


「うぅ~……うぅうう~……」


「……変わった踊りだね」


「違います! 攻撃を受けたんですよ!」


そんなことがあったけど、空腹の時は寝るに限る。僕は寝袋を馬車の中に広げるとエルが興味を示す。


「それはなんですか?」


「寝袋。って知らないか。この中に入って寝るものなんだ」


「この中で寝るんですか? 変なの」


「なら入ってみる?」


エルが寝袋に入る。


「何ですかこれ!? 温か~い」


「でしょ? わかったなら、出て。もう寝るからさ」


「私もこれで寝ます」


「一人分しかないよ! ほら、出て!」


「いーやーでーすー!」


エルと寝袋戦争が勃発した。余計な体力を使い、空腹が加速したのは言うまでもない。そして先に寝袋に入ったエルに勝つ手段がなく、僕は硬い馬車の床の上で寝ることになった。

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