#81 奴隷の首輪の無力化と贖罪の獅子の亜人
無事に奴隷の首輪を獲得した僕達はエルスに連絡を入れるとこちらで作業をした方がいいという結論になり、夜にフリューグがエルスを連れて来た。
そして洞窟の中で結界に包まれている奴隷の首輪を見る。
「見事にやったもんっすね。この結界は広く出来るっすか?」
「もちろん出来ますよ」
「ならお願いするっす。一応魔力が外に出ていないか魔力感知装置でチェックをお願い出来るっすか?」
「それなら僕とチョコネ、サクニャが交代で見ようか」
「「はい!」」
仕事が貰えて嬉しそうだな。更に子供達も立候補した。まぁ、ずっと魔力感知装置と睨めっこしていたも退屈なだけだし、眠気覚ましとして良いだろう。一応魔力感知装置に触らない条件と危ない遊びはしない約束はしておいた。魔力感知装置が壊れたら、目も当てられないからね。
「それじゃあ、早速作業を始めさせて貰うっすよ」
「あの……これ、あたしが作った机と椅子でやんす」
「おぉ~! これはありがとうっす。正直地べたで作業するつもりでいたっすよ」
褒められて、カンナちゃんは誇らしげだな。こうしてエルスが作業を始めてから数日後、賢吾から催眠による記憶改竄が上手くいった事を聞いた。そして賢吾にまた買い物を頼み、素材を持って来て貰った。
「ラフェード魔王国はどうだった?」
「首都を見て来たが魔毒の雨の準備が進んでいたな。ただ工場が建てただけで上手く作れる物でもないらしい。担当になっていた上位魔人は怒鳴り散らすばかりであれでは量産に入るのは時間が掛かりそうだ」
「どちらが速いかだね。賢吾の見立てではどのくらいに仕掛けてくると思う?」
「小規模な攻撃なら秋には来ても可笑しくはない。この前のような大規模な物になると来年の春から夏と言った所じゃないか? まぁ、量産速度を見ながらの判断にはなるが」
「そっか。なら来る前提で準備をしておかないとね」
魔毒の雨に有効なのは洞窟などの地下か雨を防げる屋根がある家であることが判明している。家はバールさんたちが一生懸命作っているからこれからは洞窟というか地下を開発していきたい。そう考えていると賢吾が懸念を話す。
「準備も重要だが、一つ危惧がある」
「何?」
「悪魔の数だ。これまでにかなりの数をお前達は倒している。もちろんその影響で悪魔の数が減っているんだが、今では魔毒の雨以前と変わりがない状況だ」
「それが変なの?」
「五十嵐が言ってたが、悪魔はお前の守護獣召喚のように召喚によって、現れるそうだ。生命力と魔力を使うのも同じだが、違う所は召喚されすれば常時存在出来ることと使用する生命力と魔力は召喚主以外からの人間でもいいらしい。要は生贄だな」
悪魔って、そういう風に現れていたのか……知らなかった。
「人間じゃないと行けないの?」
「五十嵐の話では動物は無理らしい。亜人は微妙な所だろうな……それよりも問題はこの召喚条件でラフェード魔王国の悪魔が増える速度が速すぎるのが問題だ」
「魔王なんだから僕よりもずっと強いんじゃない?」
「それは当然俺も考えた。回復アイテムやスキル、魔法で回復している可能性もな。だが、もう一つ悪魔を確保する方法が俺は一番高いと思っている」
なるほど。そういう手もあるのか。勉強になった。しかし賢吾が言っている悪魔を確保する方法って、何だろう?手軽に悪魔を増やす方法……そこで僕も気が付いた。
「まさか他の魔王からの増援?」
「あぁ。これなら一気に戦力が増えたことにも納得が行く。あくまで可能性の一つだが、頭の片隅には入れておけ」
「うん。賢吾は他の魔王がここにちょっかいを出して来ると思う?」
「普通は思わないだろう。お前の守護獣に喧嘩を売って、戦力が減れば立場が悪くなるのは喧嘩を売った魔王の方だからな。だから魔王メイルとやらが奴隷と悪魔を交換したというのが俺の推論だ」
魔王メイルとやらがどんな奴かは知らないけど、奴隷はラフェード魔王国において重要な産業であることは奴隷商人が証明している。僕は賢吾の推論を頭の片隅に入れて、地下の開発をハクア達にお願いした。
そしてエルスの作業開始から一週間後、エルスは見事に奴隷の首輪の破壊をやってのけた。
「成功したっすよ! 完全に機能を無くしたっす!」
「やったね。お疲れ様」
これで奴隷の首輪を無力化することが出来、当然破壊して外すことも可能となった。しかしまだ問題は山済みだ。ここからはどうやって、奴隷達を解放させていくかが焦点となる。現在奴隷の首輪を無力化出来るのはエルスのみだ。
しかしエルスだけで奴隷の首輪を全て解除するとなるととんでもなく時間が掛かる上にそれまで僕達が持ちこたえられる保証はない。
「これは僕達には解除することは出来ないのかな?」
「難しいっすよ。一つ間違えれば魔王メイルに気付かれると思うっす」
「お前と同じ小人族ならどうだ?」
「俺っちも同じことを考えていたっすよ。やり方さえ教えれば小人族なら無力化作業が出来るはずっす」
なら最初に狙うのは小人族の解放ということになる。しかし小人族の監視は厳しい。その上、奴隷の首輪を無力化したことがバレる可能性も高いし、奴隷に裏切られても詰みだ。
「問題山済みだな~」
「解放した人を亜人の樹海に連れてこれば良いんじゃないですか?」
「それだとバレちゃうから問題なんだよ。人質がいる話もあるし、奴隷達の解放は人質の解放と同時じゃないとまずい」
「だな。人質を先に解放したことがバレると奴隷の首輪で強制的に操って来るだろう。それでは意味がない」
エルがしょんぼりする。エルなりに考えて発言したことは褒めてあげたい。
「ひとまず小人族の解放から始めないと全員を救うなんて不可能だ。エルス、この奴隷の首輪とそっくりな物って作れないかな? 具体的には自分で解除出来る奴隷の首輪とか」
「そっくりは無理っすね。魔王メイルのスキルだけは俺っちが持っているわけじゃないっすから。ただそれ以外の機能なら余裕って……何考えているっすか?」
「そんなの決まっているでしょ? 奴隷の首輪を解除するためには小人族達の所へ行かないといけない。しかも作業にはある程度の時間が必要でしょ? それならもう潜入するしかない。更に言うと救い出した小人族にも偽物の奴隷の首輪を渡して、奴隷であることを偽りながら奴隷の首輪の無力化をして貰わないといけないんだ」
「まぁ、それしか手はない感じっすね。わかったっす。俺っちは偽物の奴隷の首輪を作ればいいんっすね」
材料はまた賢吾が用意し、僕は奴隷の首輪の無力化に成功したことをオウバとエルードに伝えて、改めて協力の要請をするとした。最初に向かったのはオウバの所だ。
「まさか本当にここまでやり遂げるとはな」
「これで僕達に協力してくれますか?」
「あぁ。我々の仲間を救うお前の覚悟とその方法は示されたからな。協力は惜しまん。皆もそれでいいな?」
「無論です。仲間や家族が帰って来るかも知れぬのです。誰が反対をするでしょうか?」
賛同の声が他の亜人からも出た。こうしてオウバ達とは同盟を結ぶことになった。流石に僕が彼らの上に立つことはあっちゃいけない。ここにいる亜人はみんな、オウバという王の元に集まっているからだ。だから僕とオウバは対等の関係である同盟という形を取ることになった。
「少し時間を貰えるか? お前達に直接会いたいと言っている者がいてな」
誰だろう?そう思っていると一人の獅子の亜人がやって来た。
「初対面になるんだろうな。こいつがお前達の情報をボグに売った獅子の亜人だ」
「「「「な!?」」」」
全員が怒りの目を向けると獅子の亜人は突然土下座をした。
「本当にすみませんでした!」
「謝って許されると」
「もちろん思ってはいない! だが、まずあなた達を仲間……いや、自分の命が助かる為に売ってしまった弱さを謝らせて欲しい!」
「……僕からの伝言の答えがこれですか?」
僕の問いかけに獅子の亜人は答える。
「答えの一つだ。謝っても私の罪が許されるとは思っていない。あなたの伝言の通り、私の罪は一生消える事はないだろう。だからこれからその償いの為に一生使うつもりだ。だから私をあなたたちの元で戦わせて欲しい」
これにはみんなが困惑する。
「えっと……どうするんですか? カナタ?」
「……信用できない」
「俺もハクアの意見に賛成だ。また同じことをされたら、溜まらないぜ」
「そうだね……」
ガロロの言い分が当たり前だろう。あの時点で僕達は仲間でも何でもない関係だったから裏切りでも何でもないけど、保身のために僕達を悪魔に売ったことは紛れもない事実だ。
「……君が僕達を売ったあの日から今日までの話を聞かせてくれないかな?」
「はい」
まず彼が味わったのは同族だから冷たい態度だった。獅子の亜人は正義感が特に強い種族らしい。だからこそ救いを求める亜人を助けているわけだ。そんな中で悪魔の口車に乗って、僕達を売ったこの人は仲間から完全に見放された。
そして次に彼を襲ったのだが、魔毒に侵されて救いを求める亜人達の罵詈雑言の声だった。やはりオウバの縄張りだけ無事だったことには他の亜人も疑問に持ち、自分達が助かる為に俺達を売ったという声が数日続いたらしい。
「その声を聴いて、自分のしでかした罪の重さを思い知ることになりました。そしてもう死ぬしかないと思った時にオウバ王に自殺を止められました」
「私も多くの罪を犯して来たからな。その中でも大切なライバルの家族を守ってやることが出来なかったことは今でも後悔している。だからこそこいつの自殺という決断を止めさせて貰った」
「罪から逃げる事は許さん。せめて被害を受けたあなた達にお前の罪を告白し、どうするか判断して貰え。オウバ王にそう言われました」
その結果があの伝言だったんだね。そして伝言を伝えるよりも早くにボグの再侵攻があり、彼らは黎明を目撃することになる。
「お前が予言の人間ならあの窮地を脱するとは思っていたがあの霊獣は予想を超えていたぞ。あれから数日間は全員が怯えていたな」
「私があなた達を売った事であの霊獣が私達にも襲いに来るのではないかと皆が邪推していましたね」
そういう事なら当然彼は仲間から糾弾されることになっただろう。中には自決をするように言った仲間もいたそうだが、同じようにオウバ王が止めた。そしてホゥが言っていたモンスターの大侵攻と成長しすぎた木々にオウバ達は苦しめられるようになる。これを獅子の亜人達は黎明が自分達に天罰を下したと思っていたそうだ。
『実際はどうなの? 黎明』
『私は主の願いを叶えただけです。そこに私の私的な目的はありません』
僕が森を元に戻して欲しいと願ったことで偶発的な起きたことが勝手に天罰と解釈されたのか。そしてこの天罰は彼もそう思ったそうだ。
「これがあの神様の天罰なら私は喜んでその罰を受けようと思い、必死に戦いました。そしてあなたからの伝言を受け取り、戦いながら悩み続けて自分がした罪を償い続けるしかないと考えて、今、ここに立っています」
「そっか……それなら君を仲間として受け入れよう」
「アニキ!?」
「ガロロ……彼は自分がした罪の重さを学んだ。だからこそ同じ事は繰り返さないよ。それにいつまでも苦しめ続けるのも僕が望む事じゃない」
自分がした罪と向き合い、僕達を売った彼がずっと生きる道を選ぶのか見極めたかった。ずっと何もせずに苦しみ続けるのも彼の人生だし、罪と向き合い、罪を少しでも償う道を選ぶのも彼の人生だ。ここでオウバ王が言う。
「お前と私はやはり似ているな。罪の重さを理解し、その上でどう生きて行かねばならないかを知っている。狼の少年よ。お前もいずれ王となるなら覚えておくといい。仲間を喜ばすだけが王ではない。時に厳しく接するのが王の仕事だ。しかし厳しくしているだけでは誰も付いて来なくなる。厳しくし、許す心が王には求められるのだ」
「許す心……」
「……わたしは王様にはなりたくないからガロロの事を一生許さない」
「まだ言っているのかよ!?」
それを言うなら僕がすっかり王様のような扱いを受けている事に異議を唱えたい。確かに皆のまとめ役をしているけど、とてもじゃないが王様じゃないですよ。
「みんなが彼を許せないと言うならずっと彼を見ていて欲しい。それぐらいの覚悟はあるよね?」
「もちろんです。なければこんなことは言いません」
「ふ……なかなかいい顔をするようになったな」
「そ、そうでしょうか?」
「あぁ。覚悟を決めた男の顔をしている。戦士たちにも見習って欲しいものだ」
そういうオウバを見て、僕はやっぱりオウバの方がずっと王様だと思った。それからオウバと今後の話をする。その結果、彼の仲間入りは持ち越すことになった。理由はまだ悪魔達はオウバと僕達の関係に気付いていないからだ。
結果、僕達の関係は本当にやばいことが起きる時には秘匿することになった。そして僕から魔毒の雨の対処法を伝えて、オウバ達も動くことになった。ここで活躍したのが犬の亜人だ。どうやら穴掘りが得意らしい。
僕達の方にも数人派遣されて、地下での開発が加速することになった。彼ら以外にもこちらの森での暮らしを希望する者が沢山おり、彼らが元々縄張りにしていたところを与える。彼らの心の傷を癒すのも僕の仕事だ。なるべく叶えられる所は叶えてあげたい。
そして次にエルードにも伝えると提案を受ける。
「ラピス山脈に潜入するというならフリューグ達を使うといい。フリューグ達なら悪魔に気付かれることは無いし、空からラピス山脈に潜入することが出来るはずだ」
「それは助かります」
こうしてまた奴隷の解放に大きな一歩を踏み出すことになるのだった。




