#62 亜人の樹海の守護者
僕は目覚めると木の天井が見えた。
「ふぅ……ん? 普通の木の天井?」
確か僕達が建てたログハウスは焼かれて天井は真っ黒になったはずだ。それなのに今見ている天井は普通の木の天井だった。ただ何というか天井との距離が近い気がする。
「どういうこと? いい!?」
僕の左右にはエルとハクアが密着して寝ていた。デジャヴ!女の子が違っているけど!取り敢えず二人を起こして、僕も起きると僕の周囲にはお花や果物、木の実が飾られていた。
「何? これ? はぁ!?」
僕が自分が寝ている所を確認するとそれは祭壇のような石の上で寝ていたことが判明した。
「何これぇえええ!?」
これが僕があの事件から目覚めてから初めての絶叫だった。
それから僕は事件の事とその後何が起きたのかみんなから聞いた。まずボグとの戦いから一週間以上経過していることを教えられた。その間、ずっとエルとハクアと寝ていたらしい。全員に目撃されているとかどんな羞恥プレイだと叫びたい。
亜人の樹海の現在の状況だが、元通りに戻っているどころが以前よりも草木が成長している樹海となっているそうだ。
その原因は黎明が使ったと言う慈雨スキル。恵みの雨を降らせて草木を成長されるスキルでこれに黎明の力が加わったことで亜人の樹海に降り注いだ魔毒は完全消滅して、ボロボロだったエル達の怪我も治ったらしい。黎明パワー恐るべしだ。
この結果、悪魔達を全滅させて、亜人の樹海を元の姿に戻した黎明は皆から神様とされて、それを召喚する僕は祭壇で祀ることにしたという経緯らしい。
それを聞いた僕は想像する。祭壇の上に眠る僕。それを飾り付けて祀っている亜人達。恥ずかしいという気持ちは勿論あるが何かの生贄にされている気がした。
『黎明、いる?』
『は! ここに』
『ありがとう』
『……勿体ないお言葉です』
一瞬驚いた後、黎明は頭を下げて、尻尾を振っている。僕の身勝手な願い事のために戦ってくれたんだ。ちゃんとお礼は言わないとね。ここで僕にはどうしても聞きたいことが一つある。
「事情は分かったけど、二人には何があったの?」
「何もありませんよ?」
「……うん」
起きてからずっとエルとハクアが僕に密着している。今までこんなことは無かったから明らかにおかしい。すると黎明が教えてくれる。
『亜人の女性にとって、力が強い人間と関係を持つことは子孫の強さに関わって来る大事な事なので、こうなっているのだと思います』
黎明がやんわり言ってくれているけど、それって僕との子作りを狙っているってことだ。エルとハクアが?正直信じられないけど、黎明の話を聞いた後だと確かに強さの面では注目するのも無理はないのかも知れない。
その内飽きると思っていると魔毒の雨の治療で一時的にここにいたみんなが正式にここで生活をしたいとお願いして来た。
「おら達なりに考えたことだぁ。勿論カナタさんが嫌なら諦めるだが」
「いやいや。僕としてはみんなが力を貸してくれるなら喜んで受け入れるよ。でも、みんなはそれで本当にいいの? 僕達に関わるという事は戦闘に巻き込まれることを意味しているんだよ?」
「それは何処にいても同じだと思います」
「お姉ちゃんの言う通りです。それにここにいるみんなは凄く怒っているんですよ? カナタさん。普通に生活していただけなのにそれを一瞬で壊れて」
チョコネちゃんの言葉にみんなが頷き、顔には確かに怒りを感じた。悪魔達の都合で自分の平和がぶっ壊されて、しかも死ぬ苦しみを与えられたんだ。これで怒らない生物はいないんじゃないだろうか。
「……分かった。それじゃあ、改めてみんな、これからよろしくね」
「「「「はい!」」」」
これで正式に魔毒の治療をしたみんなが僕達の仲間に加わることになった。
その後、葵達やリース達に念話で無事であることと何が起きたのか説明する。葵達がチートだと呼ばれて、ある程度見ていたリースは僕達の無事を喜んでくれた。ここで賢吾から質問を受ける。
『あれだけの悪魔の軍勢を全滅されたんだ。何か称号とか手に入っているんじゃないか?』
確かに何か手に入っているかも知れない。カードを確認すると確かに変わっていた。
名前 カナタ 無職Lv52
属性 無
生命力 50
魔力 0
筋力 50
防御力 25
魔法攻撃力 0
魔法防御力 25
走力 50
知力 66
スキル
愛撫 治療 鑑定 識別 解体
検索 罠設置 動物念話 念話通信
守護獣召喚 電無効 守護霊獣の加護
称号
《魔毒博士》、《守護獣を宿し英雄》、《本を愛する者》、
《罠の狩人》、《軍師》、《亜人の救世主》、《モンスターの救世主》、
《雷に耐えし者》、《森の守護者》
ステータスポイント15pt、スキルポイント30pt
とんでもないレベルアップをしたな。賢吾に話す。
『まだスキルとか確認してないけど、結構強くなっていそうな気がする』
『そうだろうな……これからの話もあるし、約束の土産を持って一度そっちに向かわせて貰う』
『了解』
取り敢えず何をするべきなのかさっぱり分からない状況だ。取り敢えずみんなが何をしていたか聞いてみるとガロロ達は食糧と水の確保と森と川の状況確認。バールさん達は木材の確保をしていたそうだ。
するとホゥが僕に相談をして来る。
「森が戻ったことはいいことなんだけど、みんなの縄張りをどうするか相談したくてねー」
「今まで通りで良いんじゃない?」
「それなんだけど、既にかなりの数の亜人が亜人の樹海からいなくなっててねー」
「あぁ~……もう少しで二週間だったもんね」
奴隷にならず森と共に死ぬつもりだった亜人達が結果的に助かる感じとなった形だ。こうなるともっと早く黎明を召喚しておけば良かったとか色々考えてしまう。過去を振り返るのは後にしよう。
「うん。これが原因でちょっと問題事が発生しそうなんだよー」
「問題?」
「今まではみんながそれぞれ生きていくためにモンスターや動物達を狩ったり、作物を集めていたわけなんだけど、今の状況は亜人の樹海の環境バランスが完全に壊れている感じなんだよー」
「え? どういうこと?」
ホゥから詳しく説明を受けた。ホゥの話では、亜人達とその仲間達がいなくなったことでモンスターを減らす要因が減少し、狩られないモンスター達がどんどん成長する状況になっているそうだ。
「今はモンスターや動物達も魔毒の影響を受けて、大人しくしているけど、今のこの亜人の樹海は作物が沢山あるからきっと他の所からここにご飯を求めてどんどん集まって来るよー」
最高の生活環境がそこにあるなら動物達が集まるのも道理だな。
「つまりホゥは亜人の樹海の縄張りを変更とかしたいってこと? いや、せざるを得ないってことか」
「そういうことだねー。ただ縄張りを変更も難しいんだよー」
ただ仲間が減った亜人がいたならやはり縄張りが減ることには納得いくはずがない。それにラフェード魔王国に向かった亜人の仲間達は恐らくこの森に残っているはずだ。しかし数が減っているなら縄張りを守ることは厳しくなるし、亜人だけがいなくなったケースも同じだろう。
更に力がない亜人の問題もある。これからどんな対策をとってもモンスターが強くなることは避けられないそうだ。そうなると最初に被害を受けるのが力がない亜人達ということになる。これ以上、数を減らさないためにも彼らを守る仕組みが必要となるわけだ。
ここまで説明されると僕も何となくホゥが言いたいことが分かった。
「つまりオウバみたいに統治しろってこと?」
「まぁ、そういう事になるかなー?」
「簡単に言ってくれるね」
この辺り一帯を僕達の縄張りにして、狩りや作物集めを自由化することで何とか環境のバランスを取ろうとする考えだ。
「アニキならここにいるみんなは納得するぜ」
「亜人の樹海の救世主様だからねー」
「やめてよ。ガロロにホゥ……というかオウバとか他の亜人達は納得するの?」
「オウバ君は納得すると思うよー。今まさに被害を受けている真っ最中だからねー」
「は? どういうこと?」
ホゥによるとオウバ達の縄張りは魔毒の影響を受けなかったことは既に教えて貰っている。問題はここからだ。元の亜人の樹海に黎明の慈雨が降り注いだ結果、オウバの縄張りは環境破壊レベルの草木が異常に育っている森となった。
当然オウバ達はこの数日の間にその対処に動いていたのだが、悲劇はまだ続く。一番最初に作物が異常に育った場所だから腹ペコのモンスター達が一斉にオウバの縄張りに殺到することになったそうだ。
『ざまー! ……じゃない。僕、知ーらない』
『では、私も知りません』
黎明と感触がないタッチをする。取り敢えずオウバも自分達への被害を少なくする為にホゥの提案には乗るしかないって事か。
「一言でみんなを纏めるといっても大変だよ? ある程度のルールとか必要だろうし」
「そこはー……頑張ってー」
丸投げですか……ガロロ達を見る。リーダーならこう言う勉強をしておくべきだと思うんだよね。
「「「「頑張ってー」」」」
はい。誰も手伝う気がありません。どうしても探り探りになるけど、ルールを考えるとしよう。それよりも僕がこの辺りを縄張りにしても亜人の樹海全体から見たら、微々たるものだ。するとずっと僕の中でくすぶっていた言葉がつい出てしまう。
「奴隷にされた亜人達を解放出来ればいいんだけどなー」
「「「「っ!」」」」
これを聞いたエルを除いた全員が立ち上がる。
「アニキ! やってくれるのか!?」
「奴隷にされた仲間達を助けてくれると言うなら手を貸すしかないわね!」
「みんなとお姉ちゃんを助けて上げてください!」
「ちょっちょっちょ! 待って! みんな、落ち着いて! 今のは願望を言っただけだから」
まさかここまで喜ばれるとは思ってなかった。いや、大切な仲間や家族が戻って来るかも知れないんだ。喜ぶのは当然か。するとホゥが聞いて来る。
「願望ってことはやる気はあるんだー?」
「まぁね……僕は実際にこの目で奴隷にされた亜人達も見た。あんな扱いを受けている亜人達を見たら、助けたいと思うのが普通だよ」
「その普通が人間全てに適応されたら、いいんだけどねー」
「僕もそう思うよ。とは言っても現状じゃあ、奴隷にされた亜人達を助ける計画どころか案すらない状況なんだ。僕の仲間からの情報では少なくともハクア達の縄張りから人間が攻め込んで来る可能性は暫くないと思う。けど、悪魔達を送り込んで来たラフェード魔王国は別だ。まずラフェード魔王国対策を考えないとね。奴隷にされた皆を助ける為にはここにいる皆の協力がきっと必要なる。だからこそまずは生き残らないとね」
僕の言葉でみんなが納得し、取り敢えずご飯を調達する係とバールさん達の家作りをサポートすること係を決めて、バールさん達とみんな家造り計画を話し合った。
その後、僕は外に出て、森の確認をすることにした。すると本当に森が元に戻っていた。
「今までの事が夢だったみたいだな~」
「そ、そう、ですね……」
「……うん。そう、言いたく、なる気持ち、わかる」
「歩きにくいなら無理にくっつかなくていいんだよ」
しかし二人は大丈夫だと言う。仕方ないので手を繋いで歩くことにした。
『色々主とのスキンシップを探っているんでしょうね。本来なら親がそう言うのを教えるはずなのですが、彼女達はそういう事に詳しくないようです』
それで取り敢えずサクニャとチョコネの真似をしてみたって事か。これから僕の気苦労が増加する予感を感じて、森の散歩を終えると新しく覚えたスキルを確認することにした。




