#51 ルーナリア王国対策とアンドレイ
まだ寒い頃、賢吾とフーリエさんは旅立ちを決意した。
「温かくなってから情報集めをしていては遅いからな。動き出すなら今が一番いいだろう。お金も借りれることだしな」
「無駄だと思うけど、気を付けてね」
「あぁ……耳寄りな情報を期待していろ」
こうして賢吾は旅立った。エルが聞いてくる。
「寂しいですか? カナタ」
「寂しいというか心配かな? いつもこの心配は無駄に終わるんだけどね」
僕の心配を平気で乗り越えて、想像を超える成果を出す。それが賢吾だ。だから今回もきっとそうなるんだろう。
「賢吾達が動き出したというなら僕達も動き出さないとね。外は寒いけど、敵に備えよう」
僕達は安全になったガロロの縄張りに向かい、適当に枯れ木を組み合わせた家をたくさん作る。
「こんなものを住処だと思うのか?」
「人間はみんながどんな生活をしているか知らないからね。ここに家っぽい物があることが重要なんだよ」
これを見たら、例えガロロ達がいなくても飛びつくはずだ。後はここにどんな罠を仕掛けるか考えないといけない。
僕が敵なら火計を選択する。火で一気に住処を燃やして敵を炙り出し、各個撃破を狙うのが普通だと思う。不安要素があるとすれば魔法。僕はどんな魔法があるのかそこまで詳しくはない。ましてや高火力の魔法は秘匿されている。敵が火矢とか使ってくれると助かるんだけどね。
何はともあれ、ここには敵が火計を仕掛けて来る前提の罠を張ることにした。木の家の中に別の木を仕込んでいく。これは植物図鑑に載っていたエンキンモクという木だ。この木は燃やすと毒の煙を発生させる木で煙が危険で燃やすことを禁止している木だからこの名前が付いたらしい。
ちっぽけな木の家の中に危険な木があることを果たして気付けるのか見ものだね。
次は通り道に落とし穴を仕込んでいく。まぁ、これはバレるだろう。しかし罠があることでこの先に拠点があると思い込み安くなるから仕込むのは無駄じゃない。
後は大仕掛けを用意するとしよう。森の中にハクア達の土壁スキルで溜池を住処に満遍なく設置する。これを見たホゥが言ってくる。
「もしかして敵を水で流すつもりー?」
「まさか。この程度の水で敵の部隊を流すような水流を作り出す事なんて出来ないよ。それに余程の激流じゃないと敵に大ダメージは与えられないからね」
もしその激流を作り出すというなら亜人達の共有の川を塞き止めるしかないと思う。しかし亜人達共有の川に手を加えることはルール違反だ。
「じゃあ、狙いは別にあるんだー? あぁ、なるほどー。そういう事ねー」
ホゥには僕の狙いが分かったらしい。後は時間が許す限り、罠を森の中に設置することにした。しかし事態は僕が考えているより、もっと悪い方向に進むのだった。
冬が終わり、春を迎えるとラフェード魔王国が動き出す。亜人の樹海に一番近い町であるラムーナの町にラフェード魔王国が誇る悪魔の部隊は集結する。
「あぁ……亜人達が苦しむ声がこれから聞くことになると思うと興奮するな」
「俺は泣いて助けを求めて来る声に期待するぜ」
「俺達にもおこぼれ貰えねーかね?」
「ヒヒ。たくさん亜人が手に入るんだ。ちょっとくらい味見してもバレないさ」
この悪魔達の声を偶然この町に来ていたアンドレイさんが耳にした。
「こいつは不味いな……あいつに連絡を入れれるか?」
アンドレイに贈呈した守護獣から黎明に緊急の連絡が入る。
『主、狩人の人間に与えた守護獣より緊急の知らせが届きました』
「アンドレイさんの守護獣から? ルーナリア王国が動いたのかな? でも、それならリースから連絡が来るだろうし……何かトラブルでもあったのかな?」
取り敢えずアンドレイさんに念話をする。
『カナタです。どうかしましたか? アンドレイさん』
『今、ラフェード魔王国のラムーナの町に来ているんだが、ラフェード魔王国の悪魔の大部隊が集結している。狙いはどうやら亜人の樹海のようだぞ』
『何ですって!?』
このタイミングでラフェード魔王国が亜人の樹海に攻め込んで来るなんて完全に予想外だ。これは偶然なんだろうか?今は考えている余裕はない。
『悪魔って空を飛んだりしますよね?』
『あぁ。そうか。お前は見たことが無いのか。基本的な特徴は俺達の世界の悪魔と大差はない。悪魔には大きく分けてデビルとデーモンの二種類がいてな。基本的にデーモンのほうが強く、どちらも空が飛べる。デーモンの特徴は羊の角があり、体がデビルよりも大きく武闘派だ。逆にデビルは魔法戦闘を得意としている』
これで僕達が準備してきた作戦は全部パァだ。地面を歩いて進行してくる人間を想定していたんだからしょうがない。今からクロスボウを上に向けても敵の大群を相手に焼き石に水のようなものだ。そしてアンドレイさんが更に警告する。
『後、この二種類の他に魔王の配下の悪魔がいる。そいつらは人間そっくりに化ける姿から魔人と呼ばれている上位悪魔だ。恐らくそいつも』
「それは私の事でしょうか?」
念話していたアンドレイさんに漆黒の爪が襲い掛かると僕が与えた守護獣がアンドレイさんを守る。
「これはこれは。守護獣に守られているとは……もしや念話の相手は亜人の樹海にいるという人間ではないですよね?」
アンドレイさんが魔法銃を構える。
「さぁな。それよりもいきなり攻撃を仕掛けて来るとはどういう要件だ? これでもちゃんと金を支払ってこの国に来た客なんだが?」
「それはそれは……私としてもお客様を殺したくはないのですが工作員ならばしょうがないと思いませんか?」
「そうだな!」
アンドレイさんが魔導銃の引き金を引くと弾丸がボグの前で止まり、地面に落ちる。
「念動力か!」
「えぇ。こう見えても魔王メイル様に仕える上位魔人。人間の小癪な武器程度私には通用しませんよ」
アンドレイさんは絶望的な力の差を認識する。それでもアンドレイさんはボグに銃口を向ける。
「おや? 聞こえませんでしたか?」
「聞こえていた。だが俺も勇者召喚された人間だ。お前に負けるつもりはない」
「いいですね。逃げることも勝つことも不可能だと理解した上で戦いを選ぶあなたは間違いなく勇者でしょ。例えその称号を持っていなかったとしても認めて差し上げますよ」
こうして二人はラムーナの町で激突する。最初に仕掛けたのはアンドレイさんだった。指輪のマジックアイテムの効果で手に煙玉を取り出したアンドレイさんは煙幕を張る。
「悪魔にそのようなものが通用するとお思いですか?」
ボグは一瞬でアンドレイさんの前に現れ、拳を放つがアンドレイさんは英雄障壁でガードする。
「ふ」
そしてアンドレイさんは手を広げるとそこには爆弾があった。そして至近距離で爆発するとアンドレイさんは距離を取り、隠れる。
「うむ。ダメージを無効化する指輪も持っていましたか……それを利用しての自爆攻撃。接近戦が苦手な銃使いの接近戦対策と言ったところですね。さて、その攻撃は後、何回出来るか確かめて差し上げますよ」
町のあちこちで爆発が起きる度にアンドレイさんは確実に追い詰められていた。
「見事な罠と戦術でしたが力の差がありすぎましたね」
「はぁ……はぁ……あぁ、そのようだな……」
それでもアンドレイさんは魔法銃を構えた。
「いいでしょう。その玩具と一緒に殺して差し上げますよ!」
ボグが飛び出すと地面に仕込まれた罠が発動し、ボグが縄で拘束される。
「切り札は最後に取っておくものだ。制限解除!」
魔法銃に稲妻が走り、三つに重ねられた魔方陣が展開されるとアンドレイさんは引き金を引く。すると魔法銃から集束された熱線が放たれ、動けないボグに命中すると魔法銃が壊れてしまう。
アンドレイさんが勇者召喚された時に獲得したのが制限解除スキル。機械系の武器の力を限界以上に発揮されるスキルでこれを使った後に装備が壊れるというデメリットがあるが瞬間火力はかなりあり、まさに切り札と呼ぶべきスキルだった。
ここで絶望の拍手が聞こえて来た。
「確実に切り札を当てる戦術。見事でしたよ。お陰で久々に痛みと言うものを感じました」
「俺には無傷に見えるがな……化け物め」
「これでも上位魔人ですからね。さて、死ぬ覚悟は出来ましたか?」
「あぁ……来い」
ボグは手から漆黒の爪を出すとアンドレイさんの体を貫いた。
「ふふ。ん?」
「あばよ」
アンドレイさんは手に握られたスイッチを押すと服に仕込まれた爆弾が爆発した。
「やれやれ。最後まで往生際が悪い人間でしたね。勇者召喚された人間の魂の回収は魔王様に命じられている大切な仕事。あなたに粉々になられると怒られるのは私なのですよ」
そう言うとボグはボロボロ状態で死んでいるアンドレイに手を向けるとアンドレイさんの魂を抜き取った。
そんなことになっているとは知らない僕はアンドレイさんにずっと呼びかけていたけど、返事が返って来ることは当然無かった。
「くそ!」
「カナタ!? どうかしたんですか?」
「あ、ごめん……エル。驚かして」
「いえ。大丈夫ですか? カナタ」
「大丈夫……まずこの事をホゥに伝えないと」
ホゥにラフェード魔王国の動きを伝えるとすぐに動いてくれることとなった。そして僕達も対策を考える。もしここに悪魔の軍勢がやって来るならこの家は空からバレバレだ。隠すことも不可能なら捨てるしかない。
「えぇ!? 折角の家を捨てちゃうんですか!?」
「迎撃するにも時間が無さすぎる。どれぐらいの数の悪魔がやって来るのか知らないけど、アンドレイさんが大部隊というならかなりの数がやって来ると思う。どうしようもないよ。この家にある物をハクア達の住処に作った洞窟の中に避難させよう。急がないと敵が来る。速さが勝負だよ。みんな」
みんなが返事をして、急いで家にある物を運び出す。最初に手に取ったのがカードゲームのデッキで苦笑いしていると黎明が話しかけて来た。
『……主、あの狩人に与えていた守護獣が帰ってきました』
守護獣が帰って来たと言うことは宿主に何かが起きたってことだ。僕は悔しくて拳を握り、唇を噛む。それでも聞かないといけない。
『……その子は何か言っている?』
『はい……俺のことは気にするな。お前はお前が選んだ道を信じて進め。だそうです』
それがアンドレイさんが最後に僕に残した言葉だった。この言葉を裏切らない為にも僕は涙を我慢して必死に生き残るための方法を考えることにした。




