#46 高床式ログハウス
翌日から僕達のログハウス作りが本格化する。最初は丸太集めから始まり、丸太削りや家を建てる所の決定や糸を使った寸法などをした。そしていよいよあっきーから教わったログハウスを作っていく。
「凄い……本当に木と木が組み合わさった! 確かにこれならしっかり木と木が固定されて動きませんね」
「その分、手間暇がかかったけどね。素晴らしい手際だったよ」
「まぁ、こんなことばかりさせられてきましたからね」
パールさんの丸太の削りは見事な物だった。最初は歯で削り出した時は物凄く心配したけど、僕が書いた線にぴったり合う形で丸太を削ってくれた。それがこの丸太同士の組み合わさりに出ている。本当にぶれないからね。
他にも壁を作る時にぶれないようにするための木の埋め込み作業や床を作る時の作業など、パールさんの木の削りが髄所に光っている。
「後はこれをどんどん重ねていくんですね」
「えぇ。それで壁が出来るはずです」
本来なら人が一人で運べない丸太をエルやハクアは平気で運んでくれるから非常に助かる。それを見ていたカンナちゃんが言う。
「あたしもいつかあんな風に丸太を運べるようになりたいでやんす」
「あれは真似するもんじゃねーぞ。カンナ。それぞれに得意、不得意がある。お前には大工の才能があるんだからそれを真似していけ」
「わかったでやんす! じぃじ!」
「カンナはいい子だな。よし、じぃじの仕事をしっかり見て」
カンナちゃんはお兄ちゃんのところに走って行った。それを見たトンカチ棟梁は何も言わず作業を続けるのだった。僕にはその背中が泣いているように見えた。
ログハウス作りはこうしてエル達の能力の高さによって、かなりの速さで完成した。
「なんか思っていたより大きいな」
「上に立つ者の家というのはそういうものですよ」
「そういうのは柄じゃないんだけどなー」
取り敢えずトンカチ棟梁に評価して貰う。
「……上手に組んでやがるな。この黒いのはなんでい?」
「それは炭ですね。これを塗ると木材が腐るのを防いでくれるそうです」
「はぁ~ん。こんなもんでな~」
まぁ、信じないよね。僕も真っ黒な古い家が住んでいる町にあって、それを不思議に思って親に聞いてみたところこの答えが来て、信じなかった人間だ。だって、どっこから見ても火事で全焼した家だったからしょうがないと思う。後で人が住んでいることを知って、家の中が綺麗だと分かってからは親の話を信じるようになった。
「まぁ、よく建てられちゃいるがまだまだひよっこ」
「いやいやー。そこは完全敗北を認めようよー。わたし達の家と比べると全然違うよー?」
「お前らの家は木の上に建てた物だろうが! 一緒にするな!」
「えぇ~」
ホゥが自分達の家の現状を伝える。何でもギシギシ、ガタガタと音がして、家の中に雨や風が入って来るそうだ。音の原因は木材がしっかり固定されていないせいだろう。あっきーの知恵袋に感謝感激だ。
それにしてもよくそんな家に住んでいるなと思う。僕ならそんな家に住みたくない。家の倒壊に巻き込まれたら、たまらないからね。二人が言い争いをしている間に村から持ち込んだ物をセッティングしよう。
「「ふぅ~…落ち着く~」」
エルとハクアは人間の家に慣れているから絨毯でゴロゴロしたりしているがガロロ達は慣れない様子だ。
「なんか落ち着かねーな」
「……それはたぶん地面じゃないから」
「あぁ……そのせいか。納得したぜ」
ずっと地面で生活していたガロロ達にとって、床は全くの未知なものだったんだろう。ましてやこの床は地面から浮いているから尚更感じてしまうのかも知れない。こればっかりは慣れて貰うしかないな。
取り敢えずこれで雨が降る度に洞窟に入ったり、川が増水して、高い所に避難した僕達は馬車で皆が交代で雨を防ぐとか夜の冷たい風で凍えそうになることから解放されることになった。本当に少しの間だったけど、かなりのピンチに遭遇した僕達である。するとカンナちゃんが聞いてくる。
「カナタの兄ちゃん、この穴は何でやんす?」
カンナちゃんの僕の呼び方はこれで固定されるようになっている。
「この穴は囲炉裏って言ってね。ここに灰を沢山入れて、火をつけると家に燃え移らないでしょ?」
「おぉ~! なるほどでやんす! カナタの兄ちゃんは本当に色々思いつくでやんすね!」
これで一応料理も作れる。ずっと雨降りが続いた時は洞窟も使えなくなったことで火も使えなくて折角戻って来たモンスター達を解体しても腐らせてしまう事態が起きた。そんな環境とは今日でおさらばだ。
ここでカンナちゃんが作ってくれた椅子や机などを置く。カンナちゃんは木の家具を作るのが得意で家造りに使っていた技術をすぐさま自分が作る家具にも使っていた。分からない所とかすぐに聞いて来るし、将来かなり有望な木工職人か大工になりそうだと思った。
ここで皆が囲炉裏周辺に集まり、喧嘩が発生する。
「こらこら。そんなところで喧嘩すると危ない」
案の定、尻尾が囲炉裏の中に入り、僕が治療することになった。そして僕は囲炉裏を使って、木の身のクッキーを作る。木の実をエルやハクアが丸太で砕いて、粉にしたものに水を加えて生地にしたものだ。
味付けは果汁のみ。おやつとして試しに作った物だけど、みんなに大変好評だった。そんなクッキーを食べながら、次の問題について話す。
「この家ですと丈夫な分、時間が掛かりますね」
「だな。だんだん慣れていくとしても寒くなるまでに他の家が作れるかかなり難しいだろうな」
「流石に寒さが本格化してから家を造ることはお願いしません。そちらも寒さが越す準備もあるでしょうし、そちらの都合を優先して貰って構いません。続きは寒さが過ぎてからでどうですか?」
「少ししか一緒に生活してねーが憎らしいほど気を使う奴だな。ま、今回はありがたくその提案を飲ませて貰うか……食料も集めねーといかねーからな」
こうしてトンカチ棟梁達は一度自分達の住処に帰ることになった。
「クッキーとカードゲームをしに戻ってくるでやんすー!」
「仕事の事、忘れていないか心配だな」
「クッキーもカードゲームも作ったのはカナタですよ?」
エルの言葉に皆が頷き、僕は何も言えなくなった。
僕達は僕達でやることが山済みだ。まず洞窟で焚火をして、モンスターの肉や魚を煙で焙り、燻製にする。これで日持ちするはずだ。
「けほけほけほ!? し、死にそうになった……」
「煙の焚きすぎだよ。ガロ……ぷ」
「あん? 何だよ? アニキ」
「だって、顔が真っ黒だよ。ガロロ」
皆にも目撃されて、笑われたガロロは八つ当たりをするのだった。こうして僕達はこの世界で最初の冬を迎えることになった。