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#40 アークスの策と復活する葵

賢吾と念話通信を終えた僕は村に向かい、色々手を貸してくれた人にお礼を伝えると逆に感謝された。しかも僕が思っていた以上にこの村の人達は(たくま)しかった。


「これからこの村の野菜はディザスターモンスターから生き延びた野菜として売りに出す予定ななんですよ」


「私の方はディザスターモンスターの討伐に大活躍した酒として売りに出す予定だ。あの時、君に賭けて良かったよ。お陰でたくさんのお酒は無事だったし、お酒に格が付いた。だから感謝するのは私達の方だよ」


アークスさんが言っていたのはこれか……こういう所にまでは頭が回らなかったな。取り敢えず喜んで貰えているし、無料で貰ったお酒が無駄にならなくて良かった。


翌日から僕は独り立ちの準備を始める。まずはアークスさんとリース、アンドレイさんと一緒にマリドの町で買い物に向かった。そこで僕はリースに事情を話して、リースにあるお願いをした。


「……ズルいですよ。カナタ様。既に話が進んでいるなら嫌とは言えないじゃないですか」


「ごめん」


「う……そんな顔をしないで下さい。分かりました。頑張ってみます。ただ絶対に死なないことだけは約束してください」


「約束する。僕も死ぬつもりは無いからね」


なんとかリースに納得して貰うと僕はみんなに買い物分のお金を渡す。そして町に到着するとそれぞれ買い物のため別れる。


アークスさんには高額の布団や毛布を買って貰うことにした。いくら買い物を頼まれたことにしても無職の人間が高額な物を買う事は怪しまれる可能性があったからだ。幸いカリュドーンボアの討伐を知っているのはごくわずかでアークスさんが沢山買っても避難先の準備と言うことに見られた。


これはアンドレイさんも同じで沢山の罠やクロスボウを購入してもディザスターモンスター対策に見られることになった。


僕はリースと一緒にみんなの服選び。冬服は勿論だが、夏服も選んで貰う。そこでカップルだと誤解を受けて、リースは顔を真っ赤にして一生懸命否定していた。それを間近で言われた僕は悲しい気持ちになるのだった。


その後、目当ての暖鉱石や調理器具、ホースなど役に立ちそうな物を買っていく。そして町に帰るといよいよアークスさんが動き出す。ここで僕は贈呈スキルを覚える。


名前 カナタ 無職Lv32

属性 無


生命力   50

魔力    0

筋力    50

防御力   25

魔法攻撃力 0

魔法防御力 25

走力    50

知力    61


スキル


愛撫 治癒 鑑定 識別 検索 

罠設置 贈呈 動物念話 念話通信 守護獣召喚 

雷無効 守護獣王の加護


称号


《獣医学を学びし者》、<<守護獣を宿し英傑(えいけつ)>>、《本を愛する者》、

《罠の狩人》、《軍師の卵》、<<亜人に認められし者>>、<<モンスターに認められし者>>、

<<雷に耐えし者>>


ステータスポイント0pt、スキルポイント8pt


そしてリースに守護獣の内、一体を預ける。


「贈呈! コロ!」


「ワン!」


「わー! 可愛い!」


コロは豆柴だ。近所の子供の一人が段ボールで川に流されているコロを見つけて、僕が助け出したことがきっかけで出会った。この恐怖体験のせいか豆柴としては珍しい甘えん坊の性格で必殺技は悲しい瞳。餌が欲しい時に悲しい声と一緒に凄い悲しい目で訴えて来るのだ。


僕はいつもこの目に敗北して餌を挙げてしまっていた。懐かしい思い出だ。因みに甘えん坊だったから葵達に絶大な人気を誇っていた犬でもある。


「リースを守ってやってくれ」


「ワン!」


コロがリースの中に消えて、贈呈が完了する。


「葵達の事をお願いね」


「任せて下さい。お父様」


「あぁ。では、行ってくる」


アークスさんとリース、アンドレイさんと数人の村人達が王都に向けて出発した。


その間に僕はこの村まで乗って来た馬車を使って、荷物を森の中に運ぶ。そしてこの馬車はハクアの住処に隠すことにした。この馬車が村で見つかると色々厄介なことになるし、家がない間の寝床として使えるからだ。


因みに馬さんはアークスさんに預けることにした。森での生活よりアークスさんの家の専属の馬として飼われたほうがずっと幸せだ。今までお世話になったから彼には幸せになって欲しい。


更に僕はお酒の製造法を教わる。消毒用のアルコールを作り出すためにはまずお酒を作らないといけないからだ。村でいつでも買えるなら問題ないのだが、村に居られなくなることを考えると製造法を知っておいた方がいい。


僕が着実に準備を進めている間にアークスさんと一緒に王都に向かっていたアンドレイさんはマリドの町でアークスさん達と別れる。アンドレイさんが冒険者ギルドでカリュドーンボアの討伐報告をするためだ。ここで初めてディザスターモンスターが討伐されたことが世間に知られることになった。


アンドレイさんはこれにより職業が凄腕狩人となり、討伐報酬を受け取り、さっさと村に帰った。そして僕はとんでもない大金を受け取ることになる。


「机の上に山済みってどんだけですか?」


「本来なら討伐に参加した者と山分けするのが普通だ。だから本来はこんなにも貰うことは無いんだが、一人で討伐したことになっているからな。当然こうなるわけだ。お陰で俺は道中盗賊に追いかけ回されたぞ」


「お、お疲れ様です。でも、迷惑料で一袋だけで良いんですか?」


「あぁ。実際俺はお前達の手伝いをしただけのようなもんだ。称号も得てしまったし、本来なら報酬を貰わなくても問題ないぐらいなんだが、これから冒険者ギルドで色々声掛けとかあるだろうからな。ちょっと色目を付けて一袋にした。お前もこれのほうが納得するだろう?」


もう少し持って行ってもいいと思うのだが、アンドレイさんがそういうなら納得しよう。


「でも、これってどうすればいいんでしょう? お金って預ける所とかあるんですか?」


「ギルドに預けることは出来るが、お前の場合は止めておいた方がいい。無職のお前がこんな金を預けるのは可笑しいし、国が調査して没収されるのがオチだ」


それなら自分で管理するしかない。


「金庫ってありますかね?」


「あるぞ。というか買ってきた。まぁ、これだけの大金が入る金庫は特注品になるから普通の物だ。全部は入らないが、無いよりかはマシだろう」


「ありがとうございます!」


複数買う手もあるが流石に時間が無いため、僕は金庫にありったけのお金を詰め込んで馬車の中に置いた。これで取り敢えず安心だ。金庫に入らなかった分は自分で持つ分とアークスさんに預けることにした。


僕が準備を着実にこなしている頃、遂に王都にアークスさんが到着し、大注目を浴びていた。


「なんだ!? あの巨大な牙は!?」


「災厄獣の牙ですって」


「まさかディザスターモンスターの牙なのか!?」


アークスさんはディザスターモンスターの牙を持って、王都に入ったのだ。これがアークスさんの作戦。国やギルド、教会がどれだけいないと言ってもディザスターモンスターの牙を国民が鑑定すれば自然とディザスターモンスターが実在し、討伐されたことが分かる仕組みになっている。鑑定スキルを利用した見事な作戦だと思う。


「ディザスターモンスターの討伐の証拠を持参した。ルチア王女にお目通りを頼む」


「そ、そんな偽物を持って来ても姫様は貴殿とは合わない!」


「ほう? では鑑定してみてはいかがかな? これが偽物だと言うなら看破スキルで破られるはずだ。最も町の商人達は既に使ってこれが本物だと確信していると思うがね」


「ぐ……黙れ黙れ黙れ! 姫様は忙しいのだ! お前に割く時間は無い!」


これを聞いたアークスは次の一手を出す。


「ほぅ……ではこの手紙を送って来た大臣にお目通りを願うとしよう」


「な、何?」


「これは私が救援要請を送った時に国からの返答の手紙だ。ここにはこう書いてある。ディザスターモンスターは出現しておらず、救援要請には応じられない……とな。しかしディザスターモンスターは実在し、私の村の民はもう少しで全員殺される所だった。私は田舎とはいえ領地を持つ貴族だ。この件に明確な説明をして貰う義務がある! 分かったなら、城の中にいる大臣達をここに呼んで来て貰おう!」


アークスさんの迫力に騎士は押されて、お城の中に入ってしまう。そのアークスさんの動きを賢吾達も察知していた。


「あの化け物が倒されただと!? どういうことだ!」


「わ、分かりません! 我々も急な事で……」


「落ち付くんだな。真央。説明した通り、勇者召喚されたのは君達だけじゃないだな。冒険者の中には落ちこぼれの勇者召喚された人間がゴロゴロいる。きっとそいつらが討伐したんだな」


「そ、そうか……そうだったな……星空の奴が関わっているはずがねー……そうだ……あいつは死んでいるんだ」


そんな真央の様子に賢吾は笑みを浮かべていた。その頃、女子寮に引きこもっている葵の部屋がノックされる。


「もう誰もボクに関わらないでって言っているでしょ!」


「そうは行きません。私はカナタ様のお願いを受けてここに来たんですから」


「……え? 星空のお願い?」


葵がドアを開けると葵達と同じ制服姿のリースがいた。


「初めまして。アオイさん。私はリース。カナタ様に命を救われた者です。あなたとカナタ様を繋げるためにここに来ました」


「どういうこと?」


「コロさん、出番ですよ」


「ワン!」


コロが葵の目の前に現れる。それを見た葵は目を見開く。


「コロ!? 本当にコロなの!?」


「キュウゥゥゥン」


「あぁ……この声、この目、本当にコロだ!」


コロを見てはしゃぐ葵にリースが告げる。


「これで今夜にでもカナタ様から念話による通信が来ると思います」


「え? じゃあ、星空と話すことが出来るの?」


「はい」


「や、やったー! 本当に本当だよね!? 嘘じゃないよね!?」


「え、えぇ……本当です」


流石のリースも葵に押された。これが僕が考えた作戦。アークスさんに注目が集まっていれば必然的に他の所は手薄になる。後はルチア王女とメロディアさんが手引きして貰う形でリースを潜入させて貰った。そしてリースは僕の現状を伝えた。


「そっか……星空があいつを倒してくれたんだ」


「はい。私はカナタ様に騙されましたので、実際に戦っている所は見てませんけど」


「あはは! 星空ならそうするだろうね! いじめられている事とか絶対にボクには言わないから! この世界に来ても星空は変わらないんだな……うん。これは負けていらない! 無職の星空に負けたら、ボクは最弱の勇者の称号を得ちゃうかも知れないからね!」


カリュドーンボアの一件で停滞していた葵はこうしてようやく立ち上がった。そして話は僕の今後の話に移る。しかしこれを聞いた葵は普通の反応だった。


「星空ならそう動くだろうね」


「分かっていたんですか?」


「もっちろん! 亜人と一緒にいると聞いた時から星空が亜人の味方をすることは分かっていたよ。だって、星空は傷付いたペット達の救世主だもん。人間のせいで苦しんでいる亜人達をほっとくことなんて星空はしないよ」


「でも恐らくですが国はカナタ様達をほっとかないと思います。もしそうなったら、カナタ様と戦うことになりますよ」


これは当然予期されている事だ。元々僕を殺そうとしていた連中だからほっとくはずがない。


「もしそうなったら、ボク達はチャンスだね。星空に負けたら、やっと自由の身になれるだろうからね!」


「え? でも、もしカナタ様が負けたら」


「星空は負けないよ。ペットには優しいけど、人間には容赦しないのが星空だからね。子供の頃の鬼ごっこで動物の糞を使った堆肥(たいひ)に落とされたことは今でも忘れないよ」


それを聞いたリースは引き、葵はリースに僕とは敵対しないことを強く薦めた。因みに鬼ごっこの場所を事前に決めたことで可能となった罠だ。わざわざ運ぶのに苦労したんだよね。一応言っておくと最初に挑発してきたのは葵の方だ。余裕で捕まえられると言われたからムキになったんだよね。


葵との話を終えたリースは癒夢ちゃんと美友ちゃんにもコロを見せて、触らせることに成功する。そこで二人から僕との関係の質問攻めにあって、僕が知らないリースの気持ちを彼女達に話すこととなった。


やっと解放されたリースは学校の作業室にいるあっきーとなおやんにも事情を説明して、コロに触って貰った。これで僕達はようやくまともに連携が取れることが可能となった。


「あんな可愛い子の執事をしとったんか……」


「フィギュアを動かしながら言うなよ。なおやん。分かっていたことだろ? まぁ、予想を超えられたけどよ。俺達にもいつか春が来るさ」


その為にもまず自由が欲しいと思わずにはいられないあっきーとなおやんだった。とにかくメロディアさんとフーリエさんの負担もかなり減って、国の調査に専念出来るはずだ。リースは無事に学校を後にして王都の外でアークスさんと合流を果たす。


「どうでしたか? お父様?」


「予想通りではあるが相手にして貰えなかったね。ただ記者達は集まっていたし、国の大臣達への疑惑は皆が持ったはずだ。後は国がどう動くかだね」


「やはりカナタ様に危害が及ぶんでしょうか?」


「分からない。だが大臣達がこのまま黙っているとも思えない。何かしらの反撃はあるはずだ。その反撃にカナタ君を利用することは十分あり得る。リース?」


ここでアークスさんはリースが苦しい顔をしていることに気が付いた。


「お父様、カナタ様のお友達と話してようやくわかったことが二つあります。一つ目はこの国は歪に歪んでいるという事です」


リースは葵達から国に対する不安を伝えられた。身勝手な勇者召喚については思う所はあるが国の危機なら仕方ない。しかし毎日監視を付けて、町に出る時はレベル上げの時のみ。当然街の散策や買い物などは許可されていない。これではまるで犯罪者だ。国の為に戦ってくれる彼らに対して、この対応はあまりに酷すぎるとリースは思った。


「このことをルチア王女様は知っているんでしょうか?」


「もちろん知っているはずだ。しかし王女といえど賛成多数には勝てない。政策の決定権を持っているのはファロス王であって、ルチア王女では無いからね」


それでもルチア王女は無理に命令することは一応可能だ。しかしそれをすると城内部へのルチア王女に対する不満が溜まることになる。今の状況化ではまず敵と味方を見極め、敵の隙を伺うことが重要だとアークスさんはリースに伝え、リースは納得を示す。


「それでもう一つはなんだい?」


「私はカナタ様に恋をしているんです」


「そうか……辛いことを言うようだけど、リース」


「分かっています。お父様。カナタ様にはカナタ様の戦いがあって、私達にも私達の戦いがあるんですよね?」


リースは覚悟を決めて、ロメリアの村へと帰るのだった。

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