#4 星空の人間嫌いと守護獣の名付け
僕は馬車に乗りながら、町の様子を観察していた。まず判明したことは文字が読めないと言う事だ。しかし言葉は通じるので、何とかなるだろう。最悪聞けばいいだけだからね。
次に観察していた僕が抱いたのは町の違和感だった。
『妙だ。魔王の危機に晒さらされているはずなのに普通に賑わってる。魔王に狙われているこの国でどうして普通に生活出来るんだろう?』
普通の商人ならまず魔王に攻撃を受ける国には近づかないと思う。少なくとも僕なら安全の国で商売をする。魔王に攻撃を受けてお店が潰れでもしたら、台無しになってしまうし、命があってこそ商売が出来るからだ。
『情報統制されている? でも、商人は商売に関わる情報には特に敏感だと思うしなぁ』
僕は商売に関わる人間がどれだけ情報に敏感かよく知っている。僕らの動物保護施設が出来るきっかけがネット配信という情報の力だったし、そこから話題になると次々に色々な話が来たからだ。
『うーん……何か怪しくなってきたな。まぁ、いいか。僕は無職だから働かず、葵達が魔王を討伐するのを待ってから、みんなが帰る時に帰らせて貰えればいいや』
無職の僕に出来ることなんて限られている。だからこそ僕は気持ちの切り替えが早く済んだ。
『僕に問題があるとすれば出発前の騎士達のやり取りなんだよね。たぶんお金を渡して何かを依頼していた。ルチア姫様達の様子から判断すると僕を何らかの方法で手を汚さず殺すつもりなんだろうな』
僕は黙って殺される主義ではない。そもそも僕は動物は好きだが、人間は大嫌いだ。これは真央達からのいじめもあるが、それよりも僕はペットを捨てる人間が許せない。特に餌代が家計の負担になって、やむを得ず捨てることにしたとか言っている人達だ。
やむを得ずとか自分がこれからする罪の言い訳に過ぎない。ペットを飼うならお金が掛かることは当然わかるはずだし、それを承知で飼ったのにお金が掛かるから捨てることにしたとか最初からペットを飼う資格がなかったとしか言えないだろう。
僕は動物保護施設で嫌と言う程、こういうことをいう人間の相手をしてきた。僕がそういう理由で預かることは出来ないと言うと怒鳴り散らした挙げ句、帰り道に捨てていく人がいたほどだ。
そんな人達は後日警察に捕まることになる。犬や猫などの愛護動物を捨てたり、暴力、餌をあげないなどの虐待するのは犯罪となっている。これは病気などでやむを得ない理由でペットを飼えなくなった人も同じだ。
では、そんな人達はどうすればいいのかと言うとペットの幸せを本当に願うなら里親を探すのが一番いい手段となる。最悪の場合は僕らの施設のようにペットを引き取ってくれる施設があるからそこに連絡することになるのが普通の流れだ。僕らの施設では経済的な理由は断っているが病気などが理由の場合は預かることにしていた。
そんな施設に関わっているからか僕はきっと人間の悪意を他の人よりたくさん見てきている。しかも直接だけでなく、捨てられたペット達からも人間の悪意を感じ取ることが出来る。
ペット達にも人間と同じ脳があり、物事を記憶する。構造がどこまで同じなのか詳しいことは知らないけど、人間に捨てられた記憶をペットは死ぬまで忘れることはない。
人間も虐められた記憶はまるで呪いのように残り続ける。ペットも同じだ。どれだけ月日が立っても、例え優しい家庭で飼われることになったとしても、人間に捨てられたという事実がペット達を呪いのように苦しめ続ける。
本当に思い出したようにいきなり怯えたり、暴れだしたりするのだ。そういう瞬間を僕はずっと見て来た。それを見る度に僕は人間が彼らにしたことの罪の重さを思い切る。こんなペット達に僕は謝り、優しい声で安心させることしか出来ない。この時、自分の不甲斐なさと同時に捨てた人間への憎悪を感じずにはいられないんだ。
「はぁ……」
僕は溜まっている感情を溜め息で吐き出すとこれからのことを考える。まずは現在獲得出来るスキルの確認からだ。
『やり方、わからないな』
すぐに放り出されたから、どうしようもない。するとここで声が聞こえた。
『カードの裏面に載っております』
「わ!?」
僕が驚きの声を上げたことで運転手の騎士が僕を見てくる。
「あの~。スキルの獲得方法とか色々教えて欲しいんですけど」
「ふん」
そういうと運転手の騎士は僕のお願いを聞くこと無く前を向く。
『これだから人間は嫌いなんだよ。こういう人間は死ねばいいのに。えーっと……これでいいのかな? 聞こえる? 守護獣さん』
『はい。驚かしてしまい申し訳ありません。我が主よ』
守護獣さんが僕の目の前に現れる。しかし都の人は誰も気付かない。どうやら見えていないようだ。それに声も僕にしか聞こえないみたいだね。
『謝らなくていいよ。僕の疑問に答えてくれてありがとう』
『もったいなきお言葉です』
我が主なんて呼ばれたこと無い僕は変な気分になる。しかしやめてほしいと言っても直す気を感じられないから僕は呼び名は受け入ることにした。ただ僕だけ受け入れるのは不公平だ。そんなわけで守護獣さんの名前をつけるにした。
『私はオスなのでちゃんと男の名前にしていただけるとありがたいです』
『あぁ~……もしかしてゴン太のこと?』
『……はい』
ゴン太は最初に葵が僕のところに持ってきた犬の名前だ。子供の僕は犬の名前はゴン太と譲らなかった。その結果、メスなのにゴン太という犬が誕生した。僕の黒歴史の一つだ。
他にもあまりのペットの多さに結構おざなりの名前を僕はつけている。ネットで名前を応募したことも一度だけではない。
『僕を二度も助けてくれたんだから、頑張っていい名前を考えるよ』
『ありがとうございます』
僕は名前を考えるとやはり助けて貰ったあの光景が忘れられない。すると僕のイメージに合致する名前が自然と浮かんだ。暗闇にいた僕に光を告げる存在。その名はーー。
『黎明なんてどうかな? かっこいいと思うんだけど』
『黎明……素晴らしい名前をありがとうございます! 我が主よ』
『気に入ってくれて良かった。それじゃあ、黎明。スキルのことから色々教えてくれる?』
『お任せください!』
こうして黎明のスキル講座が始まるのだった。