#32 出現した厄災と解放されしカナタの力
リースのお叱りから解放されて、僕はハクアと一緒に朝食を食べる。エルはリースとの約束を破ったから怒られ中。するとアンドレイさんがやって来た。
「昨日の事の説明に来た。白虎の亜人は起きているか?」
「はい。これから事情を聞くところです」
「なら一緒に聞かせてくれ。ウインドウルフが村の近くにやって来たと言うことはいつ村を襲ってくるか分からない状況だからな」
どうやら現状は僕が考えている最悪の状況に近いみたいだ。そしてお互いに昨日の事を話す。
「……そう。みんな、無事でよかった」
「次はハクアの番だよ。昨日何があったの?」
「……ウインドウルフ達がいきなりわたし達の縄張りに入って来て、襲われただけ」
物凄く簡単に言われたと思ったけど、本当にこれだけだったことが判明した。
「亜人の縄張り争いがあることは知っていたけど、こんな急に襲われたりするものだったのか」
これだったら、先手を取ったほうが物凄く有利な気がする。そう思っているとハクアが否定する。
「……亜人の樹海には縄張り争いのルールがある。昨日のは縄張り争いじゃなくてただの襲撃。だからあの森はまだわたし達、白虎の縄張り。あいつらの縄張りじゃない」
どうやら亜人の縄張り争いは決闘形式になっているようだ。意外だと思っているとこのルールを設けたのがホゥの一族であることが判明した。
このルールが出来たお陰で亜人達は休息を取る時間が生まれることになったらしい。いつでも襲撃していいんじゃ、満足に寝れないだろうからね。
「案外凄い一族だったんだな」
「いやー。そう言われるとホゥちゃん、照れるねー」
僕が下を見ると僕の影からホゥの頭が出ていた。
「影移動か」
「これでもストリクスの鳥人族だからねー」
ホゥが僕の影から出て、話す。
「昨日は災難だったねー。ハクアちゃん」
「……それだけで済まさないで。カナタがいなかったら、死んでいたかも知れない。なんで教えてくれなかったの?」
「あははー……面目ない。わたしも教えたかったんだけど、色々な所に警告しに行ってて、間に合わなかったんだよー」
「……警告? 亜人の樹海で何か起きたってこと?」
「正解ー」
なんかホゥが話すと危機感を感じられない。しかしその内容は僕達が思っているより、ずっと深刻な物だった。
「簡潔に話すとウインドウルフの縄張りに人間が言う所のディザスターモンスターが出現したんだよー。地面からいきなり現れて、わたし達も警告するのが遅くなっちゃったんだよねー」
「なんだと!?」
「ディザスターモンスター!?」
危険性は賢吾やアンドレイさんから聞いているけど、いまいち実感がない僕とエルである。
「だからガロロ君達を責めないで欲しいんだー。いきなり縄張りを奪われて、彼らも生きるために必死だったんよー」
「……傷だらけのように見えたのは見間違いじゃなかったんだ。それに物凄く必死だったことも納得した」
「話の流れからするとガロロ君って言うのはもしかしてウインドウルフの亜人?」
「そうだよー。ウインドウルフ達とウインドウルフの獣人族をリーダーをしている男の子。残念だったねー」
別に残念でも何でもないし、何故僕に言ってくるのか意味不明だ。
「……わたしを襲って来た子。いきなりだったから分からなかったけど、泣いていたと思う」
「へー。これは言いことを聞けたよー。今度言ってあげようっとー」
おちょくる気満々だ。ガロロ君とやらに少し同情した。ここでアンドレイさんが大声を出す。
「そんなことよりディザスターモンスターだ! どんな敵か教えて貰おうか」
「はいはいー。猪タイプのディザスターモンスターで現在ここに向かって来まーす」
「「「はぁ!?」」」
流石にこれは洒落になっていない。というか猪タイプのディザスターモンスターってもしかして賢吾達を襲った奴なんじゃないか?確か逃げられたと言ってた。時間がかなり経過しているからここまでやって来ても不思議じゃない。
「た、大変じゃないですか!? 早くみんなを避難させないと」
「教会と冒険者ギルドは何をしているんだ! 時間はどれだけあるんだ? あいつのスピードならいつここに到着しても可笑しくないぞ」
「時間はまだあるよー。ストリクス総出で足止めしているからねー。でも悠長にしている時間はない感じかなー? みんなも体力が無限にある訳じゃないし、数が少ないからねー」
どうやらストリクスというモンスターは足止めに特化している梟のモンスターみたいだな。
「そ、そうですか……でも一体どうしたら」
「とにかくお嬢様はアークスにこのことを知らせてくれ。俺達だけじゃあ、どうしようもない。国とソルティア教会、冒険者ギルドを動かすしかないだろう。あー……待て。やっぱり俺も一緒に行く。お前は後で話を聞かせてくれ」
二人は家から出て行った。もし国が救援要請に応じてくれるなら賢吾達がここに来る可能性もあるな。ただこれは真央も来る可能性があると言う事だ。真央の性格から考えてリベンジに燃えていそうだしな。いや、ビビって来ない可能性も高いかも知れない。黎明に噛まれてあのビビり用だからね。
とにかくディザスターモンスターのことはホゥと強い人間さん達に任せよう。代わりに僕はウインドウルフのことを考えることにした。
「さっきの話からするとウインドウルフの亜人は複数いるの?」
「そうだよー。カナタ君も知ったと思うからはっきり言うけど、ウインドウルフの獣人族はよく誘拐されちゃうんだー。だから人間への敵意は半端じゃないよ」
罠があるのに向かって来た理由はこれか。まぁ、自分の家族とか散々誘拐されて来たなら憎しみを持つのは当たり前だな。亜人達の奴隷現場を見たからはっきり言える。これは人間が悪い。
「それでどうするのかなー? たぶんディザスターモンスターはウインドウルフ達を追ってここに向かおうとしているから彼らを別のところに行かせればカナタ君達もこの村も助けられるかも知れないよー?」
「それは出来そうにないかな?」
「へー……どうして? このままだとみんな死んじゃうかも知れないんだよー?」
「まだそう決まったわけじゃない。何が出来るのか分からない状況だけどここでウインドウルフ達を囮に使ったら、僕は後悔することだけは断言できる。だから僕は彼らを囮にはしたくないんだ」
彼らが死なないと言うなら僕はその手段を取る。だけど逃げて来た彼らの様子とホゥの様子から見て、逃げられるとは思えない。僕の答えを聞いたホゥは目を細める。
「へー。面白い考え方だねー。それでどうするつもりなのかなー?」
「彼らにあって、話をするしかないかな?」
「んー……聞き耳持つかなー? 嚙み殺されちゃうかも知れないよー?」
「生憎噛まれることには慣れていてね。その程度でビビっているようじゃあ、人間の罪はいつまでたっても許して貰えないよ」
こうして僕はウインドウルフ達と会話するために準備をしながら、カードを操作する。それを見ていた黎明が話す。
『遂に解き放たれますか』
『うん。どれだけ効果があるかは知れないけど、無いよりはましでしょ』
『安心してください。我が主よ。我々守護獣一同が保証します。主のその手は我々に一時の安らぎを与え、主の心からの言葉は憎しみに囚われた我らを救う声です。主は元の世界のように振舞えばいいんですよ』
『ありがと』
僕は準備を終えるとエルは剣を持ち、ハクアはリースから貰った服を着て僕を待っていた。
「行こう」
「は、はい!」
「……うん」
僕のカードには愛撫スキルの名が刻まれていた。
名前 カナタ 無職Lv18
属性 無
生命力 50
魔力 0
筋力 50
防御力 25
魔法攻撃力 0
魔法防御力 25
走力 50
知力 47
スキル
愛撫 治癒 鑑定 識別 検索
罠設置 動物念話 電耐性 守護獣の加護
称号
《獣医学を学びし者》、《動物の守護者》、《本を愛する者》、
《罠の狩人》、《モンスターを率いる者》
ステータスポイント0pt、スキルポイント17pt