#3 守護獣と国外追放
僕が絶句していると先に終わった葵が僕のカードを覗いてきた。
「星空、どうだった? わぁ! 星空、ステータス高~い!」
「そうなの?」
「うん! ボクより高いよ! ほら!」
葵がカードを見せてきた。
名前 アオイ 勇者Lv1
属性 光
生命力 40
魔力 10
筋力 40
防御力 20
魔法攻撃力 10
魔法防御力 10
走力 30
知力 5
スキル
剣 鼓舞 勇者の加護
称号
《駆け出しの勇者》
僕の予想的中。葵は勇者だと思ってたよ。いつも僕やみんなを助けてくれる葵は十分勇者だと思う。剣道もしていて、葵で勇者じゃなかったら、クラスメイトは全滅してだろう。
ただ葵の言うようにステータスの合計数値は僕のほうが高い。なぜこうなったのか疑問だけど、無職の時点でステータスの高さは意味がない気がする。それと塾に行っているはずなのに知力が低いのはどういうことだろうね?
「やっぱり葵が勇者なんだね」
「これからは勇者葵と呼ぶように! って、星空の職業はなんだったの?」
見てなかったらしい。もう一度見ようとしてきたが隠した。
「なんで隠すのさ!」
「一度見たじゃん。プライバシーを守るのは当然の義務だよ」
「ぶーぶー!」
僕らが話していると皆が来た。
「星空の職業なら考えるまでもねーだろ」
「……うん。猛獣使い。ビーストテイマーだと思う」
「それ以外考えられないよね」
「そーやな」
ごめんなさい。無職です。
「その様子じゃ、猛獣使いじゃなかったようだな?」
「……うん」
「マジかよ」
「……それじゃあ、召喚士? サモナー」
違います。無職です。僕は皆ならいいと思ってカードを見せた。
「ステータス、高!?」
「筋力俺よりあるんやな。サッカー部の俺と同じ走力って自信無くすわ」
「そうか? このステータスは当然だと思うぞ? 考えてみろ。星空は子供の頃からずっと犬の散歩をしてきたんだ。しかも相手はほとんど野犬。散歩だけでも相当力を使うだろう。それを毎日、何回もしているんだぞ?」
「「「「あぁ~」」」」
全員が納得した。知らない間に僕は皆に鍛えられていたのか。ここで賢吾は問題を指摘する。
「ステータスに納得したなら星空の職業を見てみろ。中々愉快なことになっているぞ」
全然愉快じゃない!
「「「「無職?」」」」
全員から哀れみの視線を受けた。そうなるよね。すると真央が笑いながらやって来た。
「ははは! ざまーねーな! 星空! お前、無職なのかよ! おい! 皆! 星空の奴は無職だってよ!」
真央の様子に葵が噛みつく。
「何がそんなに可笑しいのかな?」
「あぁん? 勇者様にそんな口を聞いていいのかよ? 葵~」
真央がカードを見せる。
名前 マオ 勇者Lv1
属性 闇
生命力 10
魔力 20
筋力 20
防御力 5
魔法攻撃力 5
魔法防御力 5
走力 10
知力 1
スキル
格闘 指導者 勇者の加護
称号
《駆け出しの勇者》
確かに勇者だけど、ステータスの低さに目が行く。しかも闇属性。可哀想な奴だ。しかも勇者なのに剣スキル無し。ここに無職より遥かに弱いヤンキー勇者が誕生した。というか二人揃って知力がない勇者って大丈夫なんだろうか?
「なんだ? その生意気な目は?」
真央が近付いてくるとあっきーとなおやんが前に出る。
「そこまでだ。真央。やめとけ」
「そうやで。そんなことしても何の得にもならんやろ? 真央」
「うるせーよ。どけ! 彰久! 直哉!」
真央がそういうと二人は真央の言う通りに道を空けてしまう。
「なんだ!? これ!?」
「体が勝手に!? 真央! 何したんや!」
「ははは! これが勇者の力だ! 誰も俺の言うことには逆らえねーのさ!」
どうやら真央は洗脳みたいな能力を得たみたいだ。明らかに悪役の能力だが、誰でも暴力で従わせようとする真央にはぴったりの能力だと思った。
「ほら、星空。謝れよ!」
「星空には手出しはーーえ?」
葵が僕を守ろうとしてくれたけど、僕に真央の指導者スキルが発動する。しかし真央の指導者スキルは弾かれる。
「「「「は?」」」」
僕や真央以外も全員が首を傾げると真央が慌てる。
「星空、てめぇ! 何しやがった!」
「そんなこと言われても知らないよ」
事実僕は何もしていない。すると僕の体が光り、僕達と真央の間に一匹の犬が現れる。それは僕と真央が知っている犬だった。
「な!? そ、そいつは俺達を襲ってきた!? 死んだはずだろ!? く、来るな!」
真央がまたスキルを発動させるがその犬も真央のスキルを弾いた。それを見た真央は逃げ出すと僕にだけ声が聞こえた。
『罰を受けても性根は変わらんか。哀れな人間だ』
「君はあの時、僕を助けてくれた」
僕が真央達にいじめられた時に助けてくれた犬だった。
『はい。私はあの町でずっと主を見てきた者です。主は数多くの動物達を救いました。その功績こそ主の力です』
その場にたくさんの動物達が現れる。そのどれもが僕が今まで世話をしてきて、死んでしまった動物達だった。
『我々は主より受けた恩を返すために主の守護獣となりました。幽霊なので戦う力はありませんが主を危険から守ることは出来ます』
僕は皆に守って貰ったんだ。ヤバい、泣きそう。一方で周囲の騎士達は大混乱だ。
「モンスター!?」
「武器を取れ! 姫様を守るのだ!」
「くそ! 攻撃が当たらないぞ!」
僕はかつて死んでしまったペット達を殺そうとする騎士達の行動に怒りが沸く。
「……僕の家族に何してるの?」
僕の怒りが伝わるように守護獣達が一斉に騎士達に敵意を向ける。
「「「「ヒッ!?」」」」
「そこまでです」
エルフの人の声が響いた。
「騎士達は武器を納めなさい。信じられませんが彼らは全て彼の守護獣のようです。攻撃能力はありませんから落ち着きなさい」
これを聞いた騎士達は武器を納めると守護獣はいなくなる。ルチア姫様がエルフに聞く。
「さっきの全てが彼の守護獣だったんですか? 私、初めて見ました!」
「そのようです。守護獣は余程のことがない限り宿ることはありません。さっきの守護獣の数はそのまま彼が今まで救ってきた動物達と言えます。一体、あの若さでどんな人生を歩んできたのか……興味深いです」
「優しい人なんですね」
ここでルチア姫様の側近が声をかける。
「しかし姫様、無職で守護獣が力なら戦力になりません。ここはやはり死刑にするべきでは?」
そういえば騎士達が力無い人は死刑にする許可が出ているとか言っていたな。するとルチア姫様が決断する。
「死刑には出来ません」
「しかし姫様!」
「ここで彼を殺せば守護獣さん達はきっと物凄く怒りますよ? ザーム摂政。あなたはこの何千、もしかしたら何万倍の数のモンスターの大群と戦う覚悟がありますか?」
守護獣には戦う能力は確かにないが守るべき人を殺されれば、宿主の無念の気持ちを汲み取り、復讐することがある。その時にどんな復讐をされるのか守護獣が判断することなので分からないがルチア姫様達は過去にモンスターの大群が押し寄せるという事例を知っていた。
「そ、それは……」
ザーム摂政はルチア姫様の問いかけに答えられない。もし今、そんなことになれば魔王と戦う前に国は壊滅的被害を受けるからだ。
「わかりました。死刑は得策ではありませんね。しかし戦力にならないのも事実です。姫様はどうすればいいと思いますか?」
「国外追放にするしかありませんね」
「賛成です。それなら守護獣の怒りに触れることはないでしょう」
「わかりました。では、そのように。おい! そいつをここからつまみ出せ!」
僕は騎士達に捕まり、外に運ばれる。そこで重要なことを思い出した。
『みんなのカード見てない! 不公平だ!』
こんなことを思っている僕だが、葵が必死に訴える。
「ちょっと待ってよ! 星空が国外追放するならボクも」
「それは許可出来ません」
「それなら力付くで」
「待て。葵。武器もなくここで暴れても俺達に勝つ手段はない。それに星空なら上手くやるさ。俺達の中で星空と一番付き合いが長いのは、お前なんだ。それくらいはわかるだろう?」
賢吾に止められて、葵は落ち着く。そして僕は自分の荷物と一緒にその場からいなくなった。するとルチア王女は疑問を口をする。
「武器がない? そういえば勇者の装備がありませんね。確か勇者召喚された勇者は対魔王の武器をもられるはずですが?」
「え? そんなものないよ? あぁ! 何か操作すると出て来る感じ?」
「いいえ。勇者召喚をされた時点で装備されているはずですけど……そういえば最初からありませんでしたね」
「これはもしかして……ちょっと失礼します」
エルフが描かれている魔方陣をチェックする。するととんでもない事実が判明した。
「ルチア姫様……魔方陣の文字が間違っています」
「「「「はい?」」」」
全員がこのとんでもない事実に首を傾げる。
「またまた~。エクリス。そんな嘘を付いても騙されたりは」
「こことこことここです」
「……」
ルチア姫様が間違い箇所を指摘されて絶句する。そして皆もこの状況を理解した。
「ねぇ。これってどういうこと?」
「どうやら俺達は失敗した勇者召喚で呼び出されたって事らしいな」
「おいおい! なんだよ! それ! ふざけんなよ!」
「貴様! よくも姫様に暴言を」
真央の言葉でカオスな状況になっているとは知らない僕は馬車に乗せられることになった。僕を連れ出した騎士は馬車を操縦する騎士と何やらこそこそ話をしてから、馬車は出発した。気分はドナドナだ。こうして僕の異世界旅が始まった。