#23 野草集めとブルンハイム家の歴史
フーリエさんがメイドさんになってから数日後、僕はフーリエさんにお願いをすることにした。
「料理を教えて欲しいですか?」
「はい……。この世界の調味料や食材がよくわからなくて教えて欲しいんです」
ずっと料理を食べさせて貰っていて、気付いたことだけど、僕らの世界の調味料や食材の味が微妙に一致していないんだ。このことは元々アークスさんのメイドとして料理を担当している人にもお願いをしていたんだけど、フーリエさんも同じ回答をする。
「それは別に構いませんが男の人なのに料理をするんですか?」
「料理担当のメイドさんにも同じ事を言われました。でも、この村から出ていく日がいつか来るなら知っておきたいんですよ。美味しい料理はいつでも食べたいですからね」
「それならエルさんに……あ、いえ。そうですね。私に教えられることがあれば教えますよ」
エルはフーリエさんに料理は出来ないと判断されたね。こうして僕はフーリエさんから色々料理について教えて貰えた。そして衝撃的だったのが、この世界で塩や砂糖だと思っていた白い粉はなんと木の実であることが判明した。味が微妙に違って感じていたのはこれが原因だと思う。他にも油は樹脂で食材についても教えて貰えた。
「ただ私は野菜などの作物についてはそこまで詳しくはありませんので、詳しく聞きたいならこの村の農家さんに聞いてみたら、どうでしょうか?」
ということでサギシーフの時にお世話になったお姉さんの所へ行き、教えて貰うことにした。野菜を教えて貰うと森で取れるキノコや食べれる野草などを教えて貰った。その後、僕は彼女の家でお茶しているとある物が目に留まった。
「あそこにある本って植物とかの本に見えるんですけど」
「へ? あぁ~……そんな本があった気がするわね~。ごめんなさいね。お姉ちゃん、うっかりしてたわ」
色々言いたいことはあるけど、この人に言っても何も通用しそうにないので、諦める。植物図鑑を借りれただけで御の字だ。この植物図鑑には結構特徴とか正確に書かれており、更にはチェックが付けられていた。恐らくこの付近にある物にチェックを入れてあるんだろう。
そして罠を仕掛ける為に森へ入った時に色々集めることにした。
「なんのために籠を背負っているのかと思ったら、そんなことを始めたのか?」
「はい。ある程度、こういう事には馴れておいた方がいいと思いまして」
「村を出た時の為か……確かにこういうことは最初から上手くいくような物じゃないからな。折角集めたなら売って見たら、どうだ?」
「でも、僕は無職ですから自分では売れないんですよね」
「アークスに頼めばいい。定期的にマリドの町でこの町の農作物を売っているからな」
そういえば最初にリースと出会った時に果物を売っていたんだった。あれはそういう意味だったのか。詳しく話を聞くとマリドの町に行くためには最低馬車は必要になるらしい。しかもモンスターが出現するこの世界では長距離の移動はかなりのリスクを伴う。
僕が使っていた魔除けの術式がある馬車はかなり高価な物で通常は普通の馬車に護衛役を雇うのが普通らしい。それでも高レベルの冒険者を雇うにはお金はかかるし、低レベルの冒険者を雇うと今度はモンスターに自分達が襲われる可能性が高くなる。
結果的にこの村の人達を救うためにアークスさんが考えたのが魔除けの術式がある馬車を所有している自分達が無料で商品と村人を運ぶと言う方法だ。これのお陰で村人は安心してマリドの町で商売が出来ている。
「道理でアークスさんが村人から慕われているわけだ」
「最近は悩み解決の執事までいるからな」
「あれ? 僕って、そこまで有名なんですか?」
「当たり前だろう? 農村のこの村で一番被害を出してどうしようもなかったサギシーフを来なくしたんだからな。お陰で今年は豊作で皆が喜んでいるぞ。俺の耳に入るくらいにな」
嬉しいけど、心配でもある。有名になると言う事はその分、リースが見つかる可能性が高くなるということだからだ。
「それにしても無料はやりすぎな気がしますけど」
「俺もそう言っているのだが、お前も知っていると思うが村人は領主にお金を支払っているだろう?」
「はい。あ……もしかして」
「あぁ。その料金の中にこのお金が入っているとあいつは言っている。これを始める前と支払う金は変わってないのにな」
ここまで善良な領主は珍しいんじゃないだろうか?改めてアークスさんの評価を挙げた僕だった。
翌日アークスさんにこの話をすると喜んで引き受けてくれた。そしてこの話からアークスさんの話になると昔話を聞くことが出来た。
「この地は代々私達、一族の土地でね。私は父からずっと領主たるもの村人を一番大切にしなければならないと教えられて来た。だけど、私の妻の考えは私とは逆でね。当時はよく喧嘩したものだよ」
「そういえばリースの亜人の話でもかなり厳しかったみたいですね」
「あぁ……。リースを心配してのことだったと思うがリースの病気を亜人のせいにして、村人に亜人の討伐を命令したこともあった」
それは酷い。でも、亜人と出会ってすぐに病気を発症したみたいだし、疑うのは仕方が無い事かも知れない。
「結果はどうだったんですか?」
「村人はモンスターに襲われて、怪我人が多数出てしまったよ。それに対して怪我人の治療費も依頼費も出さなくて、村人の怒りが爆発した。私はこの日ほど、父から教えられてきた教えの大切さを感じた日は無かったよ」
この村でそんなことが起きたのか。のどかでいい村だと思っていたけど、凄い歴史があるんだな。
「その後はどうなったんですか?」
「私がお金を支払い、怒りを鎮めたが私の妻が村人に放った心がない言葉の数々が村人には残り続けてね。それが原因とは言えないが倒れて、亡くなってしまったよ」
相当な心労があっただろうからね。その後、葬儀が行われて、泣いているリースの姿を見て、村人はリースは優しい子だと言うことが伝わり、現在ののどかさを村は取り戻したという歴史のようだ。
「そんなことがあったんですね。でも、アークスさんはどうしてそんな奥さんと結婚したんですか?」
「政略結婚だよ。これでも領主だからね。領地を持たない都の貴族が国に権力がある貴族達にお金を支払い強引に決まった結婚だった。カナタ君の世界では結婚はどうなのだったかな?」
「お見合いという結婚を希望する人同士が対面する習慣はありますけど、基本的には好きになった人と結婚する感じだと思います」
「いい世界だね。父としてリースには好きになった男性と付き合って欲しいものだよ。出来ればカナタ君が相手になってくれると私も安心なんだけどね」
「茶化さないで下さいよ」
アークスさんとリースの昔話を聞いた僕は寝ることにした。




