#22 同級生の悲劇
それから暫くは狩りの毎日を送った。順調にレベルが上がっていき、今ではエルのレベルを超えるまでになっている。
名前 カナタ 無職Lv12
属性 無
生命力 50
魔力 0
筋力 50
防御力 25
魔法攻撃力 0
魔法防御力 25
走力 50
知力 30
スキル
治癒 鑑定 識別 検索 動物念話
電耐性 守護獣の加護
称号
《獣医学を学びし者》、《動物の守護者》、《本を愛する者》、
《罠の狩人》
ステータスポイント11pt、スキルポイント21pt
突如家に予期せぬお客様がやっていた。
「フーリエさんですか?」
「残念ながら俺だ。星空」
「賢吾!?」
僕が慌ててドアを開けると賢吾の姿があった。
「悪いな。事前の連絡なしでやってきたりして」
「それはいいけど、どうしたの? 確か監視が厳しくて身動き取れないって聞いていたけど」
「その監視が緩くなる隙があってな。分身スキルを使って、分身体をお前の所に送ることが出来た」
「おぉ~! これが分身なんだ。本人と違いが全く分からないね」
「俺の分身だから当たり前だろう」
それはそうだね。
「それにしてもよくここがわかったね?」
「案内役がいたからな」
賢吾の視線を追うと窓の外から悲しそうにこちらを見ているフーリエさんがいた。
「いたなら入ってくださいよ」
「すみません……言い出す隙が無くて」
器用なのか不器用なのか分からない人だな。フーリエさんが家の中に入ったところで賢吾とお互いの現状を話し合う。
「そうか……星空もレベル上げを始めていたんだな」
「もってことは賢吾達もしているんだね」
「あぁ……ただトラブルが発生してな」
「トラブル?」
フーリエさんが賢吾を止めようとしたけど、賢吾が制して僕に告げる。
「レベル上げの最中に強いモンスターの奇襲を受けてな。かなりの数の同級生が死んだ」
「みんなは無事なの?」
「とりあえず生きている。今、水瀬が必死に治療しているところだ」
葵はまず無茶をするだろうし、他の皆も仲間を大切に思っているから、きっと無茶をしたに違いない。そして当時に様子を賢吾から聞く。
まず賢吾達が遭遇したのは黒い瘴気を体中から放出している猪タイプのモンスターだったらしい。巨大な猪の突然の突進を受けて同級生の半数が即死したそうだ。
本来ならこの時点でレベル差は明確で撤退を選択するはずだった。事実葵達はすぐに撤退しようとしたらしいのだが、ここで僕が危惧していた悲劇が起きた。
「逃げるだと!? ふざけるな! 俺達は勇者パーティーなんだぞ! 戦ってあいつを倒すんだよ!」
真央のこの言葉が全員への命令と認識されて、勇者の葵以外の皆が逃げ出すことが出来なくなった。その後も真央の命令は続いたらしい。
「盾役はあいつを足止めしろ! 委員長! 何している! 魔法使い達に早く魔法の準備をさせろよ! 葵! 何ぼさっとしてやがる! さっさと他の奴らと一緒に攻撃しろ!」
この命令の結果、盾を持っている同級生は盾を構えることしか出来なくなり、猪モンスターの突進を受けて防具が木っ端微塵になりながら吹っ飛ぶことになったらしい。
そして魔法使い達も猪モンスターが突進してきているのを見ながら魔法を詠唱を続けた結果、猪モンスターの突進が直撃する。
ここで葵が他の剣士達と一緒に攻撃するが猪モンスターの分厚い皮に攻撃が阻まれ、反撃をされる。ここで本来なら盾や剣でガードしようとするのだが、真央の命令のせいでそれが出来ずノーガードで猪モンスターにぶっ飛ばさたそうだ。
その際に唯一真央の命令が効かない葵がみんなの盾になるために最初に攻撃を受けたらしく、現在意識不明の重体だそうだ。ただ癒夢ちゃんが勇者召喚の時に獲得したスキルが回復特化のスキルらしく、命に別状はないらしい。
その後の猪モンスターは真央に狙いを定めたらしいのだが、真央はここで自分の彼女に自分を守るように命令する。
「ちょっと何命令しているのよ!? 真央!? あ」
真央の彼女の目の前で猪モンスターは口を開ける。
「い、嫌よ!? こんな死に方! 私は誰よりも人気者になって、お金持ちに」
これが彼女の最後の言葉だった。真央の彼女になった末路がこれだと思うと流石に同情してしまう。しかし彼女は真央の彼女という立場を利用して、同級生を支配していたらしい。流石に服を強制的に脱がせるとか言われたら、女の子ならほとんどは言うことを聞くしかないだろう。
更に美友ちゃんには魔法の勉強をさせておいて、彼女の勇者召喚時に獲得した複写スキルで勉強も何もしないで魔法を使えるようになっていたらしい。要は堂々とカンニングをしたようなものだ。これを聞いた僕は同情がなくなり、因果応報だと思った。
真央の彼女を食べた猪モンスターはその後土の中に潜り、撤退したそうだ。その理由がルーナリア王国の冒険者と真央達の担任の先生が騒ぎに気が付いて、向かって来たかららしい。それを聞いた僕はこのモンスターには理性というか野生の感のようなものがあると判断した。
「賢吾は何してたのさ」
「俺は勇者召喚の時に獲得した空虚スキルで隠れて攻撃していた。真央の命令に隠れることは禁止していなかったからな」
空虚スキルは気配、魔力、音、臭い、体温まで相手に知られることがない気配遮断系スキルの最強スキルらしい。自分は色々調べる癖に自分のことは知られたくない賢吾らしいスキルだと思った。
「流石だね」
「ふ……そう褒めるな」
こういう抜け目のないところが賢吾なんだよね。しかもこうなることが分かってて事前に対処法を決めていたんだと思う。これで賢吾達の情報は終わりだ。
「問題は葵かな?」
「あぁ……葵なら自分の力の無さを悔いるだろうからな。精神的に追い詰められていたこともある。立ち直るためには時間が掛かるだろう」
勇者としての重責にたくさんの同級生の死。流石の葵も今回の事は相当なダメージになるはずだ。こういう時に傍にいて上げられないなんて……辛いな。僕は気を取り直して賢吾に聞く。
「真央はどうなるの? 死刑?」
僕の質問にフーリエさんが答えてくれた。
「そ、そのことなんですがどうやらなんの罪にもならないそうです」
「この国の法律を全部見させて貰ったけど、これは完全にスキルを使った殺人だと思うんだけど?」
「私もそう思います。しかし悪意が無かったという判断らしいです」
モンスターに食べられそうになったところに守れ命令は悪意がありすぎると思うんだけどな。
「まぁ、あんなのでも苦労して召喚した勇者だ。死刑にするよりも今回の事件を使って飼いならしたほうが得だという判断だろうな」
「その判断を下したのはルチア王女様なの?」
「まさか。ルチア王女様は寧ろ罪に問う側でした。しかしザーム摂生と他の貴族の方々からの進言に負けてしまったようです」
「ザーム摂生って確か僕を死刑にしようとしていた人じゃなかったっけ? なんか滅茶苦茶怪しいんだけど?」
勇者だから殺人の罪を許して、自分達の勝手な都合で呼び出した無罪の役立たずは死刑にする。当然どちらも明確な法律違反。この国はどうなっているんだか。
「当然俺達も怪しんではいる。だが逆に言うと怪しすぎるという見方もある。少なくとも俺はあいつが黒幕だとは思っていない」
「その根拠は?」
「黒幕は隠れているから黒幕だからだ。表に立つはずがない。もしザーム摂生とやらが本当に黒幕だったとしたら、相当小物だ」
なんとなく賢吾が言いたいことが分かった気がする。つまり黒幕さんはザーム摂生に怪しい目を向けさせている状況を作っているわけだ。いずれにしてもザーム摂生を裁けるのはルチア王女様か現在体調が良くない王様ぐらいしかいない。
改めてルチア王女様の重要性が分かったところでフーリエさんからお願いをされる。
「ここで暮らしたいですか?」
「はい。どうやら私の事を探っている人がいるようなのです。それでこのままお城との行き来をするのは危険ということで連絡手段を変えることにしました。つきましてはブルンハイム様に紹介して貰いたいのです」
「それは構いませんが、ここで暮らすのはちょっと問題が……」
「さっきから思いっきり布団から顔を出している女の子のことか?」
僕も気が付いていたけど、そこははっきり言わないでおいて欲しかった!というわけで二人にエルを紹介した。
「随分可愛い女の子と一つ屋根の下で暮らしているんだな。星空」
「からかわないでよ。賢吾」
「くく……すまない。俺もストレスが溜まっているからな。少し発散させてくれ。それにしても最強クラスの亜人と普通に暮らしているとは、本当にお前は面白いな……っとどうやらそろそろ限界のようだ。死ぬなよ。星空。俺達にとって、外に出ているお前が希望になっているんだからな」
「そっちもね。早くお城から抜け出して来なよ。そうしないと折角の悪巧みに乗り遅れちゃうからね」
お互いに悪い笑顔を浮かべて、拳を合わせると賢吾の分身は消えた。
「これが男の友情というものですか……なんというかいいものですね」
「うん! なんかお互い信じ合っている感じがしました」
「まぁ、賢吾の能力は疑ってないよ。夜遅いですけど、この時間ならまだアークスさんは起きていると思います。行きましょう」
「はい」
僕はフーリエさんをアークスさんに紹介し、事情を説明する。
「私もこの国の貴族だ。喜んで君達に協力しよう」
「感謝いたします」
フーリエさんはアークスさんの屋敷で暮らすことになった。そして翌朝、執事としてお屋敷に入ると髪型まで変えたメイド姿のフーリエさんがいた。
「新しくブルンハイム様のメイドになりましたフーリエと申します。以後、よろしくお願いいたします。カナタ様」
『これがプロのくノ一か!』
フーリエさんの仕事っぷりに戦慄する僕だった。