#21 畑を荒らす鳥退治
翌日、僕はアンドレイさんと一緒にリースと出会ったマリドの町へボアラのお肉とボアラの牙を売りに行く。どうやら僕が騎士の変装をしていた人物だとは気付かれていない。これは助かった。そして無事に素材を完売されるとアンドレイさんが言ってくる。
「お前は狩人より商人向きじゃないか?」
「僕からするとアンドレイさんの無口販売はあり得ないと思いますよ?」
僕がしたのは普通の客寄せだ。あれで商人向きか判断されるのは問題有りだと思う。その後、アンドレイさんにいくつか狩りのためのお店を紹介して貰った。そこでモンスターの狩りをするのに最低限の装備と罠用の縄を購入した。そして帰り道にアンドレイさんに聞く。
「色々な罠があるんですね」
「中々面白いものがあったりしただろ?」
「はい」
罠用の縄の様に物に何か新たな特性を付与している物が主流になっているようだ。縄が引っ張られると自動で巻かれる縄を使って釣り竿のレールを作っていたり、縄を弓の弦のようにしたクロスボウなどがあった。
他にもマッチの代わりとなる木に触れると発火する光る綿やゲームでお馴染みの瓶に入った回復薬など興味深いマジックアイテムをたくさん見ることが出来た。おかげで当分の目標を見つけた。
『目指せ! クロスボウ!』
そこから僕は狩りのための罠を作製しながら、執事の生活を送っているとアークスさんから依頼を受けた。
「畑を荒らす鳥から野菜を守って欲しいですか?」
「あぁ……サギシーフというモンスターがいてね。そいつがいつも野菜の収穫時期になるとやって来て、野菜を取って行ってしまうんだ。それに村人は困っていてね」
話を聞くとカラスのような気がするな。ただ名前にサギが入っていると僕らの世界にはサギという鳥がいたからよく分からなくなってくる。
「モンスターの退治ならアンドレイさんに依頼したら、良いんじゃないですか?」
「実は既に依頼したことがあるのだよ」
「え? 魔法銃を持っているアンドレイさんが失敗したんですか!?」
「失敗というかね……サギシーフに馬鹿にされて、魔法銃を撃ちまくった結果、弾が地面に落ちてしまったんだ。それで畑が逆に被害を出してね」
何をやっているんですか……アンドレイさん。意外に頭に血が上るタイプだったんだろうか?因みにこの事件でアンドレイさんは物凄いお金を払うことになり、また同じ仕事を頼むのは気が引けるから僕に話が来たという流れのようだ。
「なんとかしてあげたい気持ちはありますがアンドレイさんが無理だったのに僕がなんとか出来るとは思えないんですが」
「確かにそうかも知れないが君には動物の声を聞く力があるだろう? サギシーフは魔素の影響を受けたモンスターではないから恐らく声を聞けるはずだ。もし声を聞けたら、何か解決策を見つけることが出来るかもしれないと思ってね」
「はぁ……分かりました。やるだけやって見ます」
サギシーフが出現するのは夜ということで夜に農家のお姉さんの許可を貰って、畑に入ってみると早速サギシーフを三羽見つけた。というかランプで照らされているのに逃げないな。
「「「カーカーカー」」」
この鳥は馬車の運転手に糞を落とした鳥じゃないか?識別を使うとそこまで強くない。取り敢えず動物念話を使ってみる。
『野菜がよく見えるね。兄貴達』
『人間は馬鹿だよな~。こんなのでビビるわけないだろうが』
『無駄口を叩く暇があったら、野菜を盗れ。お前達』
完全に人間を舐めているな。取り敢えず大声を上げて脅かして見る。
『人間が何か言っているよ? 兄貴達』
『ほっとけ。どうせここにいる人間はこんなことぐらいしか出来ないんだからよ』
『その通りだ。弟よ』
軟弱なのは認めるけど、ムカついて来たな。すると僕以上に怒ったのは黎明だった。
『我が主を侮辱するか……盗むことしか能がない鳥風情が』
黎明が怒ってくれたから取り敢えず冷静になる。するとここでサギシーフ達は飛び去って行った。僕はお姉さんに謝り、自宅に帰る途中で黎明と話す。
『あの様子じゃあ、案山子とか作っても意味無さそうだよね』
『はい……多少嫌なことがあってもあの様子では野菜を盗みに来るでしょう』
『だよね。完全に味を占めていたもんな~』
こうなると命の危険を感じない限り、ここから離れたりはしないだろう。でも、魔法銃を撃たれても盗み来るような奴らだからな。どこかにあいつらの天敵でもいないだろうか?
「ただいま~」
「お帰りなさい! カナタ! 今日はトランプでスピードをする日ですよ!」
「『あ』」
僕と黎明が視線が合う。そして黎明が頷いた。これならあいつらに一泡吹かせられるかもしれない。
翌日、僕はアークスさんに作戦を説明して、色々準備をしてもらった。そして夜、僕は台車に大きな樽を乗せて、畑まで運ぶ。そして昨日と同じように畑には三羽のサギシーフがいた。
それじゃあ、作戦開始と行こう。三羽に動物念話を発動される。
『大変だ~! この村に竜人族が出たぞ~!』
『あ? なんだ?』
『これは念話か?』
『竜人族だって! やばいよ! 兄貴達!』
『バーカ。こんな人間の村に竜人族なんているはずねーだろ』
それでも気になるのかサギシーフ達がこちらに飛んできた。
『ほらみろ。どこにもいねーじゃねーか』
『くだらん時間を使ったな。さっさと野菜を盗むぞ』
彼らに現実を教えてあげよう。僕は樽を叩いて合図を出す。
「どーん!」
エルが樽から飛び出した。因みにアークスさんが今夜はサギシーフがこの村に来ないようにする作戦を実行するから出歩かないように村人に伝えているから村人に見られる心配はない。
『わ!? な、何!? ……あ』
一番下の弟と思われるサギシーフがエルの姿を見て、声が絶望に染まった。
『ほ、本当に出たーーーー!? た、助けてーーー! 殺されちゃうぅぅぅ!』
兄達を置いて、一目散に逃げだした。効果抜群だね。
『あん? 何馬鹿なことを……あ』
『竜人族などいるはずがないとあれほど……あ』
兄弟だけあって、リアクションがそっくりだ。そして一番の兄と思われるサギシーフは何も言わず真ん中のサギシーフをほったらかしにして、逃げ出した。
『おい! 兄貴! あれは竜人族じゃ……って、逃げてる!? おい! こら! 待てよ! このくそ兄貴! 俺を囮に使ってんじゃねーぞ!』
きっと彼らの兄弟仲は崩壊することになったかも知れないけど、悪さをしたのは彼らの方だ。これからは人間が一生懸命使った野菜には手を出さないことを切に願おう。
「これで良かったの? カナタ?」
「ばっちりだよ。エル。アークスさんに結果を報告して来るから約束のご馳走を待っててね」
「はい!」
エルをご飯で協力された僕でした。この日以降はサギシーフは村に現れなくなり、たくさんの村人から感謝され、結構纏まったお金を貰えた。これの使い道はすぐに決まり、リースに相談する。
「エルちゃんに新しい服を買って欲しいですか?」
「うん。これはエルが初めて受けた仕事みたいなもんだからさ。その記念に何かを上げたいんだ」
「なるほど。そういう事でしたから協力しますね」
というわけでエルに服一式プレゼントした。
「わ~! 可愛い服ですね!」
「気に入った?」
「はい! 早速着替えて来ますね」
ちゃんと別室で着替える。エルも人間の生活をだいぶ慣れて来た。まぁ、人間の恥ずかしいという感覚だけはまだ理解できない。人間の服は見えないところで着替える物って理解をしている感じだ。
その後、新しい服を着たエルはご満悦な感じだった。これで少しは仕事や勉強に前向きになってくれればいいなと僕は思った。