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#2 勇者召喚と無職

僕は寝袋から出るとそこはテントの中ではなく、お城の中だった。周囲を見ると地面には魔方陣が描かれており、周囲には西洋の騎士っぽい人達が剣を抜き、構えていた。


「ふぅ……寝よ」


「残念ながら夢ではないようだぞ? 星空」


僕に話しかけて来たのは賢吾だ。


「いやいや。これは夢でしょ」


「俺もそう思うが、夢で会話が成立すると思うか?」


賢吾にそう言われると否定できない。


「はぁ……で、これはどういう状況なの?」


「俺達は勇者召喚されて、異世界に来たらしい」


「よく聞く設定だね。それなのになんで騎士に囲まれているの?」


「どうやら俺達を逃がしたくないらしい」


僕は納得し、周囲を確認する。クラスメイトや林間学校に参加していた同級生に先生達がいた。どうやら林間学校をしていた全員が勇者召喚されたみたいだ。


「勇者多すぎじゃない?」


「同感だ。ま、勇者召喚に巻き込まれたオチだろう」


「はた迷惑な話だね。あ、リュックはあるんだ」


僕は近くにあったリュックの中身や持ち物をチェックする。どうやら寝る前から変わっていることはないみたいだ。


「ふ……やはり星空は対応力があるな」


「そう?」


「あぁ。少なくとも俺は騎士達を刺激せず、まずは自分の持ち物を確認したお前を評価する」


「買いかぶりすぎだよ。騎士達に攻撃されたくないだけだって」


そんな会話をしているとクラスメイト達や先生達が起き出した。するとあっという間にパニック状態だ。


「な? これが普通の反応だ」


「そうなのかな?」


剣を構えている騎士達に罵詈雑言(ばりぞうごん)()びせるなんて普通じゃないと思う。すると当然騎士達の怒りを買う。


「静まれ! 我々が必要としてのは勇者と力ある者だけだ! 他の者はこの場で斬殺(ざんざつ)する許可が出ている! 大人しくするなら手出しはしないが黙らないなら死刑する!」


めちゃくちゃな言い分だ。しかしこれで全員が静かになる。相手が本気なのはわかったからな。


「どえらいことになっとるで……これ」


「どうすればいいんだよ……」


「とりあえず待てばいいんじゃない? 誰が勇者で力ある者かわからないんだからさ」


「その通りだ。もうすぐ俺達を呼び出したお姫様がやってくる。それまではじっとしているんだな」


賢吾にそう言われ、全員が荷物の確認と寝袋の片づけをしていると扉が開いてぞろぞろ人が入ってきた。その中には杖を持ったお姫様やエルフ、立派な司教の服を着た長い髭のおじいちゃんなどがいた。


「お待たせしました。あ、皆さん起きられたんですね」


「エルフや! エルフがおるで!」


「なんだ……もっとこう……ボッ! キュッ! ボン! じゃないんだな」


「あぁ~……そこはわかるで。あっきー」


男子の多くは頷くが、そんな彼らに女子達からゴミを見る視線が注がれる。


「「「「サイテー」」」」


ここで賢吾が手を叩く。


「これからゲームで言うところのステータスや職業を調べるそうだ」


「おい。なんでお前が取り仕切っているんだよ」


「気に入らないならお前がするか? 真央。俺も好きでこんなことをしている訳じゃない。偶然一番最初に起きて、そこのお姫様に説明を受けたからやっているだけだ」


賢吾にそう言われて真央は引き下がる。ここでお姫様が僕達に改めて話しかけてきた。


「えーっと……私の名前はルチア・ルーナリア。この国、ルーナリア王国の王女をしています。皆さんを勇者召喚でこの世界に呼び出した者です」


「あぁ~……一応こいつらの代理の保護者をしている萩だ。色々聞きたいことがあるんだが、まずは俺達の質問に答えてくれるか?」


「そうですね。答えられることならなんでもお答えします」


そこでルチア姫が色々な質問に答えてくれた。まずは勇者召喚をした理由についてだ。


「この国は魔王の危機に(さら)されています。私達ではどうすることも出来ず、勇者召喚をする決断をしました。皆さんには申し訳ありませんが私達にお力を貸してください」


ありきたりな理由だね。ルチア姫様が頭を下げると騎士が怒鳴る。


「姫が頭を下げているのだ! 返事はどうした!」


「「「「わ、わかりました!」」」」


これでは完全に脅しだ。


「ありがとうございます! はぁ~……優しい人達で良かったです」


本気で言ってるな。さっき賢吾と真央が揉めていたのを見ていたはずなのに……随分楽観的な姫様みたいだ。次に質問されたのは元の世界に帰れるかどうかだった。


「元の世界に帰すことは出来ます。ただそれが出来るのは召喚主である私だけです。そして私は魔王の危機がある以上、皆さんを元の世界に帰すわけにはいきません」


つまり僕らが元の世界に帰る条件は魔王の討伐とこの姫様が無事であることなわけだ。次に魔王についての質問をした。


「魔王の戦力については現状正確な数はわかっていません。ただかなりの戦力差なのは確実だと思ってください」


そうじゃないと勇者召喚なんてしないだろうな。いや、いつでも帰ることが出来るなら案外簡単にされるかも知れない。それにしても魔王の戦力が未だにわかっていないのは、問題がありすぎる。


戦いはいかに正確な情報を手にいれるかが重要だ。その情報が正確であればあるほど作戦が立てやすくなり、作戦の成功率が飛躍的に上げることが出来る。逆に情報が少なすぎると作戦自体が立てることが難しくなる。この国が陥っているのはまさにこの状況なのだろう。


次の質問は賢吾から話があったステータスとスキルについてだ。


「皆さんの基本的な能力は皆さんがいた世界と変わりません。ただ勇者召喚をされた段階でなんらかの特殊なスキルを獲得しているはずです」


僕らの初期ステータスは僕らの世界基準でスキルは能力のことを言うらしい。この辺りはゲームと同じだな。


「スキルにも様々あります。例えばーーライト」


ルチア姫様の杖に魔方陣が描かれると杖の先端に付いている宝石が光る。みんなが驚きの声を挙げるが僕には光るおもちゃのステッキ見たいだなと思った。


「これは光魔法のスキルです。これは戦闘系のスキルですが、他には木を切るために便利な伐採スキルやどんな装備か調べる時に使う鑑定スキルなどがあります」


この辺りもゲームやファンタジーにはよくある設定だ。ルチア姫様の説明によるとスキルを新たに獲得することも可能。その場合はスキルポイントを消費することで獲得することが出来る。


「勇者召喚された皆さんには沢山のスキルポイントが与えられているはずです」


「そのスキルポイントやステータスはどう知ればいいんや?」


「これから皆さんにお渡しするカードで確認することが出来ます」


またスキルポイントはレベルアップで獲得することも出来るらしい。またレベルアップするとステータスポイントも貰えて、自由にステータスを上げることが出来る。これは面白いと思った。ここで葵が質問する。


「スキルにはレベルアップとかありますか?」


「ありません」


「な、ないんだ」


これには人それぞれ反応が分かれる。しかしそうなると疑問が出て来る。なおやんが質問してくれた。


「スキルのレベルアップが無いんやったら、他の光魔法とかどうやったら、使えるようになるんや?」


「魔導書を読んで会得したり、人から教わることで覚えることが出来ます。物凄い天才ですとオリジナルの魔法を作ってしまう人もいるんですよ」


「あぁ……そういう方向性なんやな」


これでこの世界はゲームというより、本格的な異世界ファンタジー要素が強くなった印象を受けた。何せこれは強くなりたかったら、しっかり勉強をしないといけないことを意味しているからだ。ただレベルやステータスとか聞くとゲームとファンタジーの中間といった印象を受けるね。


「あ! それとスキルによっては強いスキルに成長する物もありますよ」


「は? どうやって強くなるんや?」


「色々ありますけど、これから説明する職業と関りがある話なので、先にそちらを説明しますね」


ということで職業の説明をしてもらう。


「皆さんの職業については今からここにいる大司教様に決めて貰います」


「全員勇者じゃないのか?」


あっきーのこの質問は当然だ。何せ勇者召喚されたんだからね。しかしこれは否定される。


「勇者召喚されたといっても、勇者と決まったわけでは無いのです。人には向き不向きがどうしてもありますから」


それなら向いてない人を勇者召喚しないでほしい。そのための勇者召喚じゃないのだろうか?これでは異世界召喚と呼んだ方がいいんじゃないかと僕は思った。


そしてこの勇者召喚の話を聞いて僕は勇者じゃないと確信した。だって魔王と戦うなんて柄じゃない。ただ僕には勇者に向いていそうな人に心当たりがある。ここであっきーが質問する。


「さっきの話だと職業がレベルアップするのか?」


「はい。昇進(しょうしん)します。昇進する条件は主にレベルと功績です。勇者の場合ですと一定のレベルへの到達とモンスターの討伐などの依頼で獲得出来る功績によって昇進します。昇進したいときは私や町にあるギルドで話をしてくれれば昇進することが出来ますよ」


ギルドがあるんだ。それにさらっとモンスターがいることも明言されたな。まぁ、魔王がいるんだからモンスターぐらいいるか。賢吾が言う。


「それで上の職業になるとスキルも成長するということなのか?」


「はい」


ここでルチア姫様の隣にいた側近が助言をする。


「姫様、一応称号についても話しておいた宜しいかと」


「そうですね。称号というのは例えば勇者になられた人は《駆け出しの勇者》の称号を得ることになると思います。この称号があるのことで勇者専用のスキルが解放されることになるんです」


つまりこの称号がスキル解放の条件の一つってことらしい。職業が上がっていくと称号も上の称号となり、上位のスキルが解放されると言う仕組みみたいだ。他にも功績によって、称号が上位の物になることもあるらしい。


他にもスキルの解放には知力というステータスがスキルの解放の条件になったりことがあるらしい。魔法を覚えなくても勉強は必要と言われた気がする。


僕達の初期の称号は勇者召喚される前に何か実績があると称号を得られることがあるそうだ。僕は動物関連なら称号を得られるかも知れない。これで僕らからの質問は無くなった。


「最後に属性について説明しますね」


「まぁ、光魔法があるぐらいやから属性は存在してるやろな」


ルチア王女によると属性は風、火、土、水、光、闇、無が基本の属性でそこから派生している属性として雷、爆発、木、氷、聖、魔がある。それぞれ有効な属性があり、ルチア王女の話を纏めるとこんな感じとなる。


火<土<風<水<火


光⇔闇


無属性は有利不利は存在しない。因みに一般人のほとんどはこの無属性という話だ。


「それでは皆さんの職業を調べましょう。大司教様、お願いいたします」


僕らは一人ずつ大司教様と呼ばれた老人から祝福を受けて、カードを渡される。そこにはステータスと職業について書かれていた。どうやらこのカードで獲得した経験値を操作することでレベルアップが出来るという仕組みになっているみたいだ。僕もカードを貰い、確認する。


名前 カナタ 無職Lv1

属性 無


生命力   50

魔力    0

筋力    50

防御力   25

魔法攻撃力 0

魔法防御力 25

走力    50

知力    30


スキル


電耐性 守護獣の加護


称号


《医者の卵》、《動物の守護者》


ステータスポイント0pt、スキルポイント30pt


色々言いたいことがあるけど、ひとまずこれだけは言いたい。


『学生で《医者の卵》の称号があるのに無職ってどういうこと!?』


僕は心の底からそう思った。

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