#117 それぞれの旅路
サタナイールとの決戦から一か月後、僕たちが元の世界に帰る日がやって来た。この一か月はボロボロにされた町の復興に費やされて、僕たちはロボのデータなどの削除などの元の
世界に帰る準備で色々大変だった。
「やっと…やっと勇者様から解放されるー!」
「いいですよね…葵さんは元の世界に帰ったら、役目を終えれるんですから…私なんて何もしていないのにずっと世界の救世主、救国の女王ですよ…何もしてないのに」
ルチア王女、改めてルチア女王が大事なところを二回も言った。サタナイールを討伐したのは葵となっている。黎明が召喚された時には守護獣を宿していない者以外は全員が色欲スキルを受けて、ダウンしていたので、話をでっちあげることに成功した。
この結果、葵と葵を召喚したルチア女王は救国の勇者と女王として祭り上げられた。これをさせたのは僕で命を捨てて、サタナイールを倒した僕のお願いを二人が拒否できるはずが無かった。
なぜそんなことをする必要があったのかは簡単な話で強い力はまた争いの火種となるからだ。僕はあの一件で全てのスキルを失い、ステータスも最初に召喚された時の状態に戻っているから脅威には全くならないんだけど、それでも亜人の国の代表がサタナイールを倒したことはこの世界の人間たちには恐怖を与えるかも知れない。
その点、葵なら心配無用だ。寧ろ亜人たちの力を見た彼らにとっては葵がサタナイールを倒した事実は安心するものとなった。もし亜人たちが自分たちに戦争を挑んで来たら、葵がなんとかしてくれると思うはずだからね。
因みに僕はあの戦いで死亡したことになっている。これも人間たちに安心を与える偽情報だ。僕がいなくなれば亜人たちは自分たちの国の立て直しなどで戦いを挑む余裕がなくなると賢吾たちが情報を流してくれた。
ただ黎明が暴れた痕跡は世界中に残っている。復活した大地にいつも以上のマナが注がれたことで草木が異常に成長して、世界中の町や村が緑に呑み込まれてしまっていた。まぁ、これは黎明たちの人間たちに対する一つの罰であり、試練だと思う。
そんな状態の町や村の復興は簡単な物じゃない。ましてや世界人口が今回の戦いでかなり減ってしまった。そこで亜人が人間の町や村の復興を手伝うことにした。これがきっかけで少しは亜人と人間との距離は少しは縮まることが出来たと思う。こういう一つ一つの行いが亜人に対する誤解を解くことに繋がっていくと僕は信じている。
「星空のほうはもういいの?」
「エルちゃんたち、泣いてなかった?」
「泣いてたね…それに大変だった」
あれからエルたちはずっと子作りを迫ってきている。僕が死んだところを目の前で見てしまったから余計に行動が過激になっていた。ただそうなるといつも赤ちゃんになったルナが泣きだしてしまい、エルたちの野望が阻止されることになる。僕にはルナが助けてくれているんじゃないと思っている。
「…国のほうはいいの?」
「うん。ガロロに代表を譲ったから大丈夫だよ」
あの時のガロロは滅茶苦茶驚いていたけど、力が無くなった僕が国の代表にいても意味がないし、僕は異世界の人間だ。極力この世界に関わらないほうがいいと判断した。
「けど、なんで俺なんだよ…アニキ」
「僕をアニキと言っているのが一番の理由だよ」
「う…けど、俺はまだまだ子供だし」
「僕とそこまで変わらないでしょ? もうこれ以上の異論は認めないからね。諦めて頑張ろう。ガロロ」
こうしてガロロがエルピス亜人連邦国の代表となった。
「ガロロさん、今日のお仕事です」
「ガロロさん、こちらが現在の国の食糧事情なんですけど」
「ガロロ、武器が足りていないぞ。暴れる魔獣はいなくなったが狩りはしないといけないだろ? だからもっと武器を生産してくれ」
「ガロロさん、商店街の話なんですが」
「うわぁあああああ!」
自分の目の前に次々山済みされていく紙の束を前にして、ガロロが爆発する。僕はその仕事量をこなしていたんだよ。ガロロ。その事実はみんなから伝えられたガロロは机で伸びる。
「マジかよ…アニキはどれだけ化け物だったんだよ」
「ずっと寝る時間まで削ってみんなの為に仕事していましたからね。ガロロさんもカナタさんを兄を慕うなら頑張ってください」
「うへ~」
文句を言いながらも作業をするガロロにはやっぱり王としての資質はあると思う。そんなわけで僕としては元の世界に帰る準備は万端だ。
「皆さん、準備出来ましたよ」
「はい。念入りに魔法陣のチェックをしたので、大丈夫です」
「「「「本当にぃ~?」」」」
「本当です! 私、女王ですよ! 女王に失敗はないんです!」
堂々と言うルチア女王にみんなが指摘する。
「女王のドレスを踏んでこけていたのは、失敗じゃないんだ」
「私が出した紅茶を飲んで火傷してましたね」
「激務から逃げ出して、ボクに捕まったのは失敗じゃないのかな?」
「俺の統計によるとルチア女王が失敗した数はな」
「あー! もう! 五月蠅いですよ! 皆さん! 元の世界に帰るお時間です!」
なんというかルチア女王は結構な弄られキャラなんだよね。今となっては女王の立場を忘れて気軽に話せる相手が本当に少なくなったから内心では僕たちを元の世界に帰すことが一番躊躇しているのはルチア女王かも知れない。
「それでは皆さん、魔法陣の上に立ってください」
「魔法陣の上に立つんだね」
「そう言えばボクたちの時って寝ているところに急に異世界に転移させられたんだっけ?」
「よくよく考えると酷い話やんな?」
「はい! 転移させますよ! 最後に皆さん、もう一度だけ言わせてください。この世界を救って下さり、本当にありがとうございました! 私は皆さんを召喚出来て本当に良かったと心から思います。元の世界でも皆さんが幸福であることを祈らせて貰います」
お互いにお別れの挨拶を躱して、葵たちは元の世界に帰った。
「ん? あれ? ここは?」
「林間学校で来ていた山だよ! 葵ちゃん! 良かった…元の世界に帰ることが出来たんだ」
「…内心失敗を疑ってた」
しかしここで葵たちはあることに気が付く。
「あれ? 星空は?」
「賢吾さんたちの姿もありませんね?」
「…もしかして」
「「「また失敗したの!? ルチア女王ーーー!」」」
葵たちが元の世界に帰れているので、ルチア女王は失敗していない。
「これで本当に良かったんですか?」
「うん」
「俺たちは元の世界に興味はないからな。こっちのほうが正直性に合っている」
「葵ちゃんたちには悪いけどな」
転移魔法陣が設置された場所の物陰から僕たちが出て来る。転移されたのは賢吾が使った影分身と変装スキルで完全に僕たちと同じ姿となった影分身だ。流石に異世界の壁を分身が超えられるはずもなく、転移と同時に消滅している。
「今頃、私への悪口や星空さんへの悪口を言いまくってますよ」
「だろうね…でも、葵達には向こうの世界のほうがきっと幸せになれると思うからこれで良かったんだよ。それに僕が世話していた子たちのことも心配だしさ」
「ほんまに罪な男やで。星空は」
「自覚しているよ。それでも僕は命を救ってくれた彼女を見捨てることは出来ない」
僕の腕の中には赤ちゃん姿でぐっすり眠っているルナの姿があった。流石に彼女を捨てることは僕には出来なかった。エルたちには全く懐かないしね…本当に困った天使ちゃんだよ。
「あっきーは帰らんで良かったんか? 帰っていたら、ハーレムやったのに」
「マジで言っているのか? なおやん。あの三人がそう簡単に鞍替えなんてするかよ。寧ろこっちの世界に来る方法を作り出してやって来るぞ」
それはなんか分かる気がする。そしたら僕たちは葵たちにボコボコにされることになるだろうな。ここでエクリスが聞いて来る。
「それにしても皆さん、全てのスキルを消し去るというのは本気ですか?」
「あぁ…俺たちはこれから本当の意味でこの世界の人間として再出発する。折角サタナイールが異世界に召喚された人間狩りをしてくれたんだ。ここで俺たちがスキルを残したら、ろくなことになるはずがない。だから全部消してくれ」
「分かりました」
ここで僕たちはそれぞれ別れることになった。それぞれこの世界でやりたいことがあるのだから当然だ。それでも僕たちの友情に変わりはない。僕はエルピス亜人連邦国の城にずっと住むことになっているので、何かあれば顔を見せに来てくれるだろう。
僕は外で待っていたエルとハクアと一緒に歩いて、エルピス亜人連邦国に帰る。何故か今日はそういう気分だった。
「カナタはこれで本当に良かったの?」
「うん。この子を育てながらガロロの成長を陰ながら応援させて貰うよ」
「…カナタらしい決断」
みんなの子作り戦争が落ち着きを取り戻したのは僕がこの世界に残る決断をしたところが大きい。ここで僕は道端で倒れている子犬を見つける。
「大変だ! あ、足を怪我してる。何かの動物に襲われちゃったのかな?」
「回復魔法を使おっか? カナタ?」
「いや。普通に手当てをすれば大丈夫だよ。んん~…ルナも赤ちゃんだし、このままペットにしちゃおうかな? 子供の成長にペットはいい刺激を与えてくれるって聞いたことがある気がする」
「…それなら名前を決めないと」
僕たちが考えると意見が一致した。
「「「黎明」」」
「キャン!」
「気に入ってくれたみたいだね」
こうして僕たちはエルピス亜人連邦国に帰って、それぞれが思うがままの人生を送るのだった。
---END---
これで『動物保護をしている少年は異世界で虐げられている亜人を救います』は完結となります。完結まで約二年もかかってしまいましたがここまで私の小説を読んで下さった皆さんに感謝と気持ちと同時にペットについてやそれぞれの命について、何かを感じてくれたらいいと思います。
『EO』のほうでもそうですが色々反省点が多い作品でファンタジー小説の難しさと共に色々勉強になる作品でした。たぶん次にファンタジー小説を書くことになったら、ステータスやレベルは設定しないようにすると思います。
それでは引き続き『EO』かまた別の作品でお会いしましょう。最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました!