#108 ドラゴンたちの奇襲
大混乱が収まり、僕はエルの両親とその場にいる側近たちにエルとの出会いと僕たちがここに至るまでの事を簡単に説明した。
「なるほどな…事情は把握した」
「それじゃあ、カナタと子作りしても問題ないですよね?」
「いや、それは許可しかねる。一応父親なのでな。娘に相応しい男かどうか私の目で判断させてくれ」
やっぱりしっかり者の王様だね。常識があって、助かった。ほっとしている僕の一方でエルは不機嫌そうだ。
「別にお父様が許可しなくていいですよ。私が王様になったんですから法律で決めちゃいますから」
「こらこら」
僕たちが法律を考える姿をエルも見ている。遊んでいるだけだと思っていたがまさかこんなことを考えるようになっていたとは驚いた。
「とにかく子作りの話はここまでにしておいたほうがいいよ。カナタ君。時間がない」
「そうだった。とにかくこれから人魚族との会談をして海の縄張りについて、議論してくれませんか?」
「わかった。準備しよう」
「お願いします。会談場所はエルが現れていた方角にある最初の陸地でお願いします。時間は三時間後でどうですか?」
「問題ない」
僕たちはエルに乗って、急いで戻ると人魚族に話を通して、会談が実現すると互いの縄張りのルールを決めて、それを破った場合のペナルティについても話をした。
「これで僕たちはあなたたちの望みを叶えました」
「分かっています。私たちもあなた達に手を貸しましょう」
「状況は一刻を争う事態なんです。そして最高のタイミングでもあります。急かすようで悪いのですが、今すぐ準備をしてください」
エルとドラゴンたちのごたごたの間にエルピス亜人連邦国は危機的な状況になっていた。まずソルティス教会がある方向とは真逆から魔王ゴラスが率いる魔王軍が進軍を開始して、みんなと戦闘が勃発した。
それを知った他の魔王がエルピス亜人連邦国の北と南が進軍を開始。更に魔王たちの動きを見たソルティス教会もエルピス亜人連邦国に進軍を開始したとの報告を受けた所だった。
これは各魔王たちとソルティス教会の戦力が今、エルピス亜人連邦国に集中している事になる。つまり各国やソルティス教会に奇襲をかける絶好のチャンスと言えるのだ。その為に今、エルピス亜人連邦国のみんなは戦ってくれている。
ただ四方からの進軍にいつまでも耐えられるわけがない。一応侵略に備えて、罠や砦の準備、作戦は伝えてある。そのお陰でまだ犠牲は出ていないそうだ。しかし時間が立てばみんなの命が危険になる。僕の真剣な様子にそれぞれの王が要請に答えてくれた。
僕が作戦を議論している時に人魚族に連れて来られた葵とガロロが率いる亜人部隊が大集結する。
「来たぜ! アニキ!」
「みんな、ご苦労様。連戦で悪いけど、この奇襲でエルピス亜人連邦国の運命が決まる。力を貸して欲しい」
「ドラゴンたちに人魚族が手を貸してくれるんだ。それにこの程度の連戦で弱音を吐くような奴はいねーよ。アニキ」
みんながやる気十分な声を上げる。そしてドラゴンと人魚族の準備が整った。僕はみんなに言う。
「これよりエルピス亜人連邦国と魔王ゴラスに奇襲を仕掛ける! 全軍、出陣!」
こうしてエルピス亜人連邦国の反撃が始まった。まず魔王ゴラスの国がエルのお父さんが率いるドラゴンたちの奇襲を仕掛けた。
「行くぞ! 今日は遠慮は無用だ! 町を火の海にして構わん!」
『『『『息吹!』』』』
ドラゴンの群れからドラゴンブレスが魔王ゴラスが治める首都に降り注ぐが結界で止められる。しかし突然のドラゴンの群れの襲撃に国を任された魔人たちは大混乱だ。
「なんだ!? どこからの攻撃だ!」
「ド、ドラゴンの大群に寄る襲撃です!」
「ドラゴンの大群による襲撃だと!?」
慌てて外を確認すると首都の周囲は完全に包囲されており、次々ドラゴンたちがドラゴンブレスで絶え間なく攻撃を加えていた。
「どういうことだ!? ええい! 奴らを撃ち落とせ!」
「む、無理です! 外に出るために結界を緩めたら、壊れます! 攻撃についても同じです! それに数が多すぎます! 外に出た瞬間、全滅しますよ!」
「そんなことは分かっている! だが、結界はいつまで持つんだ?」
「…長くは持ちません。ドラゴンたちは明らかに結界を突破するために連携して休みなく攻撃を続けています。これはもう明らかにドラゴンたちによる宣戦布告です!」
「く…魔王様に連絡を入れろ!」
魔王ゴラスはエルピス亜人連邦国への進軍拠点でこの連絡を受けた。
「ドラゴンたちが俺の国を襲撃しているだと!? どういうことだ!」
『わかりませんが大至急お戻りください! 魔王様!』
「ち…折角面白くなってきたところなのによ! 国に戻るぞ!」
だが、ここで悪魔が慌てて、やって来る。
「報告! 亜人たちがここに向かって来てます!」
「何!? これはまさか…ドラゴンと亜人たちが手を組んだのか?」
今頃気付いても手遅れだ。国に帰るとドラゴンの部隊と後ろから追撃を加えるレロードの部隊に挟み撃ちにされる事になる。
「出て来ないと思っていたら、ドラゴンたちと接触してやがったのか…遊んでいた俺の判断ミスか」
「どうしますか? 魔王様」
「そんなの決まっているだろ? あいつらを迎え撃つぞ!」
「しかしこのままでは国が潰されます! もしドラゴンたちと手を組んでいたら、次はここに来ます! ここは魔王ギルガルズ様のところに逃げ」
次の瞬間、魔人の首が跳ぶ。
「俺様があいつに助けを求めろって言うのか。そんなことをするぐらいなら死んだ方がマシだ!」
こうして魔王ゴラスは自分の国を捨てた結果、首都はドラゴンたちに火の海にされ、更にドラゴンたちは次々、町や村を襲撃し、そのままエルピス亜人連邦国に向かうと魔王ゴラスの部隊と勝手に連携をしようとした魔王アンデルと魔王ジュエリーまでドラゴンたちの襲撃を受けることになった。
「あぁー…これは完全に連携しているなー…面倒を見てくれる奴隷メイドの反乱の仕返しなんて考えるべきじゃなかったかー」
「なんなのよ!? これ!? 私はただ奴隷のイケメンを奪われて、取り返そうとしただけのになんでドラゴンたちと戦うことになるわけ!?」
この光景を自分の国で水晶から見ていた魔王ギルガルズが笑む。
「くく…俺は忠告したんだがな。人の忠告より私怨を優先するからこういうことになるんだよ」
「しかしドラゴンたちがあいつらの味方になるとは完全に予想外です。これは由々しき問題ですぞ。魔王様」
「そんなんだからお前たちはダメなんだよ。お前たちが心配するところはそこじゃないだろう?」
「どういう意味ですか?」
「はぁ…分からないならそれでいい」
魔王ギルガルズはここに僕がいないことに気が付いていた。そしてソルティス教会がこの機に動いていることも知っている魔王ギルガルズは僕がソルティス教会を狙っていることを予想するのは難しくはない。
そしてこの世界の運命を決める僕たちによるソルティス教会の奇襲がこの戦いの裏で始まっていた。




