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#99 ルチア王女との会議と歴史の真相

ルチア王女たちは僕が緊急用にエクリスさんから渡されていた転移魔方陣が描かれた絨毯から現れる。


「無事に転移出来たみたいですね」


「当たり前です。勇者召喚をミスしたルチア王女と一緒にしてもらっては困ります」


現れたのはルチア王女とエクリスさん。更に葵達までやって来た。


「やっと会えた! 星空―!」


吶喊してくる葵に対してエルたちが武器を構えて僕の守りに入り、葵を睨みつける。流石の葵もこれだけ強烈な敵意を沢山の人から向けられたことが無く、吶喊が止まる。


「う……」


「何も考えない所は相変わらずみたいだね。みんな、武器を降ろして。このままだと会議が出来ないから」


そしてこちらの状況を改めて説明をする。


「それでは我が国にいる奴隷さんたちはそちらの国が引き受けると言うことで良いんですね?」


「はい。ただ本人がルーナリア王国での生活を望むのならこちらからそれを伝えて、どう判断をするかはルチア王女に決めて貰えばと思います」


「そうですね。分かりました。さて、ここからは込み入った話をされて貰いますね」


最初の議題はルーナリア王国の内部事情についてだ。


「メロディアの調査でザーム宰相が何かを狙っていることは間違いないようです。そしてその一つには私の命が入っているでしょう」


「今回の事でザーム宰相は相当追い込まれるはずです。もし暴挙に出た場合はあの転移魔方陣の絨毯が逃げ道となりますので、よろしくお願いします」


「任せて下さい。魔毒の雨の中でも死守したんですからね」


それもこれもルチア王女に死なれるのは僕たちとしても致命的となるからだ。元の世界に帰るためにもルチア王女は死守しないといけない。そしてザーム宰相について改めて連携を確認した僕たちは次にずっと気になっているルチア王女を狙っている魔王について話す。


「こちらも調べているんですが全く手がかりがつかめない状況です。ただユメさん」


「……はい。も、もしかしたらだけどカナタ君は叡智スキルを獲得してない?」


「うん? そういえばそんなスキルを獲得してたな。使った事が無いけど」


「そ……それじゃあ、今すぐ【異世界勇者と邪悪な魔王】について調べてみて。それで色々な事がはっきりと思う」


癒夢ちゃんによると叡智スキルは世界に存在する知識を検索することが出来るスキルらしい。これで検索される物は改竄などは不可能らしいのだ。しかも原本などが例えなくなったとしても世界に存在した知識であるために検索可能らしい。流石、魔王を倒して獲得したスキルだ。


そして早速調べてみる。検索ワードを色々変えながら答えを見つける。


「あった……これだ。【原初の魔王との戦争録】」


戦争の記録なら真実が載っているはずだ。読んでみるとそこにはこの世界の本当の歴史が書かれていた。まず最初に魔王と戦ったのは人類ではなく天使族だったらしい。


「知ってましたか?」


「いいえ。いきなり魔王が現れて、人類に戦争を挑んだんだと思ってました」


「その話は私は知ってました。確かその戦いのせいで天使族は絶滅したと聞いてます」


「思いっきりネタバレだよ……それ」


葵の言う通りで戦争録を見るとその戦いは天魔戦争と呼ばれていて、結果は天使族の敗北だった。そして天使族との戦いに勝利した魔王は人類と亜人の世界に宣戦布告する。そこには生々しい戦場が書かれていた。


「目からの光線で町と山が吹き飛んだとか書かれているな」


「触手に捕まって、魔王の身体に取り込まれたとかあるぞ」


「言わないで! 何か凄いフラグな気が! って賢吾!?」


今までいなかった賢吾が僕の影から現れていた。


「いやいや。どこから現れてんねん」


「俺はカナタと一緒に魔王の討伐に参加して称号を獲得したからな。ふ……悪いが一抜けだ」


賢吾の言葉に葵たちはイラっとするが賢吾とのレベル差は完全についてしまったので、何も手出し出来ない。因みに職種の昇進も僕がしている。なので僕らの中で普通に戦えば賢吾が一番強いという意味不明な状態だ。因みに仲間を合わせると無職である僕が一番強い。


「さて、勇者の召喚とかこいつらのレベルアップは過程はどうでもいいだろ…問題はソルティア教会の動きだ。そこまで話を飛ばしてくれ。カナタ」


容赦ない。まぁ、彼らの事は後でじっくり見ればいいだろう。賢吾が気になっているソルティア教会が登場するところは戦争録の終盤だった。その前に僕の疑問が一つ解決した。勇者パーティーには各国から一番強い戦士が選ばれて構成されたらしい。ただ本当に一番強いのがどうかはちょっと疑問がありそうだな。


「え? ちょっと待って……ソルティア教会から勇者パーティーに天使族のルナを仲間に推薦するとか書かれているよ」


「ルナって……確か」


「ソルティア教会の聖女様の名前だね。確か魔王の力を封じた聖女として出て来たはずだよ」


「だがこれは可笑しいな。ソルティア教会は亜人をモンスターと認定していたはずだ。天使族も亜人だろ?」


賢吾の疑問にエクリスさんが答えてくれる。


「確かに変ですね。しかも何故絶滅した天使族がここで登場するかもわかりません」


「物語的には天使族の誰かが自分の子供をソルティア教会の人に預けたってことになるのかな?」


「いい話を作るならそれだな。しかしこのルナという天使族が天魔戦争前に預かったか天魔戦争後に集まったかは知らないがこいつらの教義に反していることは間違いない。当時は亜人をモンスター認定なんてしてなかったのか? それとも天使族だけ例外とかか?」


「そのような規定はなかったはずですが」


僕たちの中でソルティア教会が一気に怪しくなった。そして戦争録は勇者パーティーと原初の魔王との決戦に移る。


「最初に天使族のルナが特殊な結界で魔王の力を封じた……これは物語の通りだね」


「それを確認した勇者たちは攻撃を開始する……なんかさ。こいつら、勇者っぽくなくない?」


「あ……葵ちゃん!? しー!」


「まぁ、デバフを掛けてから戦闘するのは普通やで? 葵ちゃん」


セオリー通りといればその通りだ。そして勇者パーティーは終始魔王を圧倒する訳だが、倒せずその地に封印したと書かれていた。


「「「「封印!?」」」」


思いっきり倒して無かった。驚く僕らに対して賢吾が冷静だ。


「やはりな」


「予想してたの?」


「あぁ……そもそも最初のほうに書かれていたが魔素や魔毒はこの魔王の登場で発生している。つまり悪魔の親元がこいつな訳だ。そいつが死んだのにまだ魔素や魔毒が残っており、悪魔の召喚まで出来る事に疑問を持っていた」


いつの間に最初のほうを読んでいたのかツッコミどころ満載だけど、スルーしよう。何せ賢吾だからね。そして物語は魔王の封印後の話になる。


「魔王の封印は天使族のルナが担当し、勇者パーティーが結果をソルティア教会に報告しに向かっている道中で天使族のルナは勇者たちの裏切りに合う」


「えぇええええ!? ど、どういうこと!?」


「……ここだけじゃ、判断がつかないよ。カナタ君、先を進めて」


癒夢ちゃんに言われて、先を進める。報告を受けたソルティア教会は天使族のルナを封印することを決定する。その後、勇者たちは魔王討伐を果たした英雄となる。そして最後にこれを残した人の懺悔と願いが書かれていた。


「僕たちは彼女を仲間を裏切ってしまった。きっと我々は永遠に彼女から呪われ続けるだろうがどうか弱い僕を許して欲しい……願わくばこれが叡智スキルに検索され、彼女が救われる事を願う。トマス・ルーガス。さて、どう思う?」


「これを残した人は勇者パーティーの一員だったみたいですね。過去に自分がしたことの罪の重さに気が付いて、これを残したんでしょう。いつか真実が世に出る事を信じて」


「凄く苦しんだんだろうね。でも、どうして勇者たちはルナちゃんを裏切ったんだろう?」


「普通に考えれば魔王の封印が解かれないようにする為に彼女を封印することにした感じじゃないか?」


あっきーが凄くまともな事を言った。


「葵の料理を食べて来たの? あっきー?」


「それはどういう意味かな? 星空?」


僕たちが喧嘩していると賢吾があっきーの話におかしな点を指摘する。


「確かにそれだと辻褄が合いそうなものだが、封印された魔王を秘匿した意味が分からん。物語程度ならまだわかるが各国はこれを知っているのか?」


「少なくとも私の国では原初の魔王は死んだことになってますね」


「なるほど……普通なら倒せない魔王を封印した後は倒す方法を協議するはずだ。そして行われなかったのはソルティア教会のせいだと言える。そしてこの秘匿したソルティア教会はその後、聖女ルナが魔王討伐に活躍したことを世間に広めて布教に成功する。ここで問題となるのは聖女ルナが天使族であるところだな」


「そっか。今でも亜人はモンスターにされているんだから昔でもそうだった可能性が高い。だとすると天使族のルナを勇者パーティーに入れたソルティア教会の立場が変になるし、これから自分たちの事を布教されていく上で天使族というのが邪魔になるかも知れない」


世界を救った天使族がいるソルティア教会。僕たちにとってはとてもいい響きに聞こえるけど、これをこの世界の一般論に当てはめると世界を救ったモンスターがいるソルティア教会という事になる。さて、これを知った世界はソルティア教会をどう判断するかは難しくない。恐らく批判することになるだろう。それを恐れて話を自分たちが布教しやすいように改竄したわけだ。


「そういう事だな。さて、これは困ったことになったぞ。ここにいる全員はソルティア教会の闇を知ってしまった。果たして正しい歴史を知った俺たちをほっておくかな?」


「それは……どうなるか分かりませんね。少なくとも我々がこれを知った事をあちらは恐らく把握するはずです。占術にはそういう物がありますから。ただ個人に限定されるかは微妙な所です」


「それはつまり僕が叡智スキルで歴史を知った事はほぼ間違いなくバレるってことですね」


「そうなります。あなたはどうしますか?」


僕の答えは決まっている。


「喧嘩を売って来るなら買うまでです。天使族が不当な扱いを受けているならそれを救う権利がこの国にはある。この本を残してくれた人もそれを願っていますね」


「ふ……。まぁ、この封印された魔王を何とかするためにも話を聞く必要があるだろうな。何せ実際に原初の魔王と戦った当事者だ。なぜ封印するしか無かったのか? 魔王を封印した場所など知りたいことはたくさんある」


「よーし! そうと決まったら、今から殴り込みだね!」


「「「「それは無理(です)」」」」


暴れたい葵の意見を全員が止めた。


「ソルティア教会と戦うことは信奉している国々を敵に回す事と同義なんです。国民をそんな戦争に巻き込むわけにはいきません」


「僕はどこが相手でも喧嘩を売って来るなら戦うつもりでいますが今はその状況じゃありません。せめて国としてちゃんと形を作ってからじゃないと行けませんね。もちろん向こうは先手で動いて来るかも知れませんがこちらにはこちらの切り札があります」


僕は神獣になった黎明の話をすると一番驚いたのはエクリスさんだった。


「神獣を召喚できるんですか!?」


「はい。これが僕の切り札です」


「そんなに凄い事なんですか? エクリス」


「当たり前です! 神獣はその名の通り、獣の神なんですよ。つまり彼は今、神様を召喚出来ると言ったんです。しかしそれは」


僕はエクリスさんの口を手で制する。命が失う召喚であることを葵たちに知られるわけにはいかない。


「すみません。少し興奮してしまいました。ただこれなら確かに他国や各魔王、ソルティア教会を牽制するにはいい切り札になるでしょうね」


「そんなに神獣って凄いんですか?」


「まぁ、召喚されたら、普通の魔王は手も足も出ないでしょうね。人間なんて論外です。いくら異世界の勇者だとしても相手が神では勝てる見込みはないと言っていいでしょう。例えるなら天変地異にスキルも装備も何もない人が一人で挑むようなものです」


それほどの切り札とは思って無かった。これを知れたのは大きい。取り敢えず僕たちは封印された魔王を探すことに決まった。この本によると決戦の場所に魔王は封印されたみたいに書かれているけど、肝心の決戦の場所が分からないのだ。一応叡智スキルで調べてみると諸説が沢山あって、分からない。


「まぁ、片っ端から調べるしかないな。ルーナリア王国以外は俺が担当しよう」


「では、ルーナリア王国内は私が動きます」


最後に同盟の話をする。やはり完全な同盟は現時点では難しく、軍事同盟という形のみに決まった。その一環として、葵以外のみんながこの国に暫く滞在することになった。


「ちょっと待ったー! なんでみんなだけ星空の国に行くわけ!? 私も行く!」


「それは無理だ。勇者が守るべき王女の元から離れる訳には行かないだろう?」


「それはもう聞き飽きたよー! なんか星空の周りに可愛い女の子が物凄く増えているし、色々大変な事態なの!」


「落ち着いて下さい。これは皆さんの強化には必要なことなんです」


ルチア王女の言う通りでまずあっきーは巨人族と小人族の鍛冶を学ぶことが出来る。更に雷竜の星剣も件もあるし、あっきーが学んだこの世界の人間の鍛冶を逆に伝えることが出来て、こちらにもプラスがある。


これは当然、他の人にも言えることでなおやんは小人族とアーティファクト作り。癒夢ちゃんはエルフと薬と回復魔法の研究。美友ちゃんもエルフから魔法を教えて貰って、代わりに他のみんなに人間の魔法を教えて貰う予定だ。


「それだったら、私も訓練とか」


「水瀬、やれ」


癒夢ちゃんが葵に何か薬を浮きかけると葵は寝てしまい、倒れる。こわ!?なんて薬を開発しているの!?癒夢ちゃん!


「……ごめんね。葵ちゃん」


「堪忍してな。やっとファンタジー世界を思う存分満喫できるんや」


「あぁ……本当に悪いと思うが色々我儘を聞いて来たんだ。ここからは自由にさせて貰うぜ」


「きっと物凄く怒ると思いますけど、葵ちゃんをよろしくお願いします」


これはみんなに相当なストレスを葵は与えていたな。昔ならこんなことは起きなかったと思う。すると察した賢吾が行ってくる。


「泉の暴走を星空が全て受けていたからな。葵がみんなを引っ張っているようで俺たちを上手く纏めていたのはお前だったってことだ」


確かに葵はいつも僕を巻き込んでいたけど、纏めていた自覚はない。たぶん僕たちは絶妙なバランスで仲良しになっていたんだと思う。それが今回のことで崩れてしまって、こんなことになってしまった。


でも、崩れた物は直すことが出来る。きっと全てが終われば僕たちは元の僕たちに戻れると確信して、僕たちは葵とルチア王女たちを見送るのだった。

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