#11 マリドの町とマーケット
町に入った僕はまず人波に任せて歩いてみる。騎士の鎧を着ているせいで凄くぎこちない歩き方をしているせいか避けられている気がする。まぁ、重要なのは人の流れだ。沢山人が歩く方には必ずお店がある。
そんなことを考えながら歩いていると予想通り出店がたくさん並んでいるマーケットに辿り着いた。
そこで人の買い物を見て、コインの金銭価値を覚える。服を買うならある程度、高いコインを使うし、果物などの食料品はそこまで高額なコインを使わない。
しかも聞こえる声は理解できるから暫くすれば大体のコインの価値が分かる。どうやら日本で言う所の貨幣はこの世界では青銅と銅のコインで取引されているらしい。紙幣の価値は銀貨、金貨となっているようだ。
ただ覗き見で覚えた金銭価値だからここからは実際に買い物をして覚えて行けばいいだろう。そしてあの騎士の財布の中身は金貨がたくさん入っていた。
まぁ、僕を殺すためのお金とか考えたら、高額になるのかな?まぁ、いいや。命を狙われた代償にお金がたくさん手に入ったんだからね。先に買い物をするか悩んだけど、ギルドへ行くことにした。
「すみません。無職について聞きたいんですけど」
「へ? あの……騎士の方なのにですか?」
しまった。僕は今、騎士の格好をしているんだった。しかしこの失敗はまだ取り返せる。
「何か問題ありますか? 知り合いに相談されて、聞きに来ただけなんですけど?」
「そ、そうだったんですね。すみません!」
僕は店員さんから無職について説明を受ける。
まず無職は転職することが出来ないことが判明した。何故なら職業が無職だから職に付くことが出来ないということみたいだ。更に昇進も存在しないことが判明した。戦力外で捨てられるわけだよ。というか無職に就職のチャンスすら与えないってどうなっているんだろうね?この世界。
「そうだったんですね。知りませんでした」
「騎士の方なら知らないのも無理はないでしょうね」
「その無職はどうやって生活しているんですか? 職には付けないんですよね?」
「はい。職には付けませんが手伝いをすることは禁止されておりません。それで生活費を稼いでいますね。ただお手伝いは正規の職と比べてお金が安いので、ほとんどの無職の人は休みなく働いています」
正社員にはなれないけど、アルバイトは出来るって感じか。そして僕達の世界と同じで給料の差があるってことだな。これはしんどいことになりそう。僕がげんなりしていると店員さんが思い出したように付け加えた。
「あ! すみません。無職にも例外的になれる職業がありました」
「それはなんですか?」
「奴隷や遊女です」
冒険者とか期待した僕が馬鹿だった!
「それになるメリットってあるんですか?」
「最初に物凄いお金は貰えますね。それ以降どうなるかは人それぞれなので、答えることは出来ません」
奴隷や遊女は最終手段でギルドにとってはタブーみたいだ。
「分かりました。ありがとうございます」
僕が帰ろうとすると黎明が教えてくれる。
『先程の人間から識別を受けました。主』
やはり騎士であることを疑われたみたいだ。
『バレたかな?』
『いいえ。防ぎました』
黎明は優秀だ。僕は振り返る。
「さっきのは見逃してあげるけど、他の騎士にはしない方がいいですよ?」
「え!? す、すみませんでした!」
完全に脅した形になったけど、ここで僕が騎士じゃないことを探らせるわけには行かない。もしバレたら、恐らく捕まるだろうからね。
ギルドを出た僕は服屋さんに向かい、取り敢えず周囲の人と同じような服を購入することにした。しかしそこでも騎士の姿に疑問を持たれた。
「騎士様なのにこんな服でよろしいんですか?」
「はい。双子の弟に送るものなので」
「なるほど。サイズは本当にあなたと一緒で大丈夫ですか?」
「問題ありません」
そこで人間にはちゃんと下着があることが判明した。これは本当にあってよかった。ただ出来れば市民の格好に着替えたかったんだけど、流石に怪しまれそうな気配を感じて、やめておいた。
次に向かったのは市場だ。流れ的にはエルの服を選んだ方がいいんだけど、先に馬さんとの約束を優先することにした。女の子の服を買う度胸が僕にはないことも影響はしている。
果物を売っているお店を見つけて、鑑定で果物をチェックしていると店員をしている女の子の異変に気が付いた。
「はぁ……はぁ……」
「あの……大丈夫ですか?」
「大……丈夫……けほ! ……です」
どうやら風邪をひいているようだ。顔も赤くなっているみたいだし、咳もしている。苦しそうだし、見つけてしまった以上はなんとかしてあげたい。
「あの……効くか分かりませんが、これを吞んでみてください」
「え……? これって、異世界の文字?」
どうやら薬に書かれている日本語でばれてしまったようだ。僕の大馬鹿!
「えーっと……これは……」
「くす。優しい人なんですね。けほ! すみません。お薬、頂きますね」
店員の少女が薬を飲むと顔の赤みが消える。効果効きすぎだね。
「だいぶ楽になりました。ありがとうございます」
「いえいえ。良かったですね。それじゃあ、僕はこれで」
「まだ果物を買っていませんよ?」
逃げようとしたが駄目だった。意外にしっかりしている子みたいだ。
「そうでしたね。それじゃあ、それぞれ果物を3つずつください」
「はい!」
少女はてきぱき紙袋に果物を詰めて、渡してきた。
「6銅貨となります」
「はい」
「ちょうどですね。ありがとうございます。それとこれは先程の薬のお礼です」
少女は紙袋の上に紙を置く。そこには地図と場所が指定してあった。これは行くしかない流れだな。
僕はその場所に向かう途中にあった出店でお肉を発見する。
ボアラの肉
独特の獣臭さと噛み切れないほど硬さがあるお肉。
説明からみるとまずいイノシシ肉みたいだな。そのため滅茶苦茶安い。名前を見た瞬間、コアラかと思い、ぞっとした。
「すみません。このお肉」
僕が店員さんを見ると白人で怖い軍人のような人がいた。
「……ボアラの肉だ」
威圧感ある人だな。店員には向いてないよ。
「そ、そうですか。それじゃあ、これを4つください」
「……8銅貨だ」
僕はお肉を買い、その場から離れる。滅茶苦茶怖かった。物凄く睨んで来るんだもん。
その後、僕は店員の少女に指示された建物に向かうとそこには大きな建物があった。文字が読めないためここがなんの建物か分からない僕にとっては恐怖しか感じなかった。




