#10 川の怖さと町到着
翌日、起きた僕達は急いで川に向かう。その甲斐もあって、明るい内に川にたどり着いた。
「水だ~!」
「水です~!」
極限状態の僕達である。綺麗な川でエルはそのまま水を飲むが、僕は洗った缶詰の中に水を入れてから沸騰させてから飲む。
「そのまま、飲めばいいのに……」
「僕は安心安全を求めるの!」
川で髪や体を洗っていたエルに悲劇が襲う。
「きゃあ!?」
川に入っていた尻尾に魚が噛み付いていた。
「いやぁあああ~~!?」
エルの電撃が発生し、噛み付いた魚は消し炭、川にはとばっちりを受けた魚が浮かぶ。僕は釣竿を作ろうとしていて、喰らわずに済んだ。
「グッジョブ!」
「意味はわかりませんが、心配してください!」
死んだ魚を集める。
「見たことない魚だな」
牙がたくさんある。鑑定するが出来ない。すると黎明が教えてくれる。
『どうやらモンスターのようです』
『本当に!? それじゃあ、僕のレベルが』
『主は何もしていないので上がってませんね』
あ、何かしないと経験値貰えないのか。小石でもぶつけておけばよかった。森で集めておいた木の枝を魚に刺す。すると青い血が出てきた。
「うげ~……食べれるのかな……これ」
因みに僕の料理の腕はなんとも言えない。一応料理の手伝いとかはしたことがある程度のレベルだ。魚の串の焼き方は山で父さんに教わったからちゃんと出来る。問題はこの魚がどれぐらいで中まで焼けるのか分からないところだ。こうなると多少焦げていた方が安全だと思う。
ということで筆記用具からカッターを取り出して、内臓を取り出すと川の水で洗ってから木の枝で魚を刺し、なんとか無事に焼けました。
「エル、先に食べさせてあげるよ」
「嫌ですよ! カナタもお腹が減っていますよね? お先にどうぞ!」
焼いた謎の魚を二人同時に食べる。
「まずいな~……」
「まずいですね~……」
泣きたい気持ちの僕らだ。しかし食べないと生きていけない。僕らは我慢して、食べた。
その間に沸騰された水を水筒に入れて、残った焼いた魚を馬車に詰んで移動を開始する。暫くするとエルに異変が起きた。
「カ、カナタ……お腹、痛いです~……と、止めて、くだ、さい~」
僕に異変はない。考えられるのは川の水だ。危なかった。
「ほら、川の水をそのまま飲むからだよ」
「うぅ……もうダメです!」
馬さんに止まってもらうとエルは飛び出す。するとこっちを見る。
「カタナは遠くに行っててください! こっちを見たら、ダメですからね!」
「はいはい……」
昨日とリアクションが一緒だ。異世界旅って想像していたより大変なんだな。キャンピングカーの有難みを痛感していると帰って来たエルはまだお腹を押さえている。
「うぅ……まだ痛い……」
「どこまで効果があるかわからないけど、はいこれ」
僕はあっきー達がお世話になった下痢止めをエルにあげるとエルはすぐに復活する。
「治りました~!」
「良かったね」
「はい! ありがとうございます! カナタ!」
傷薬の時にも思ったけど、僕らの世界の薬は異常な効果を発揮する。僕のリュックには風邪薬、下痢止め、傷薬、消毒液が入っている。
風邪薬は中学の修学旅行で風邪を引いて色々台無しになった経験から持つようにしているものだ。いつ風邪になるかわからないから慎重に使わないといけないかも知れない。
『主は我々がいるので、病気にはなりませんよ』
『そうなんだ。もしかして僕も食あたりになったりしていたのかな?』
『現時点では異変はありませんね』
ならやっぱり川の水が原因か。怖いな。下痢止め兼食あたりの薬は少なくなっているから気を付けよう。そして僕らは一泊野宿して、翌日のお昼に遂に目的地の町に到着した。
「町だ!」
「え!? どこですか!?」
すっかり寝袋を占拠したエルが芋虫のように移動してきた。これは見たら、他の竜人族はどう思うのかな?きっと悲しい気持ちになるだろう。
とにかくこれでまともな食事を食べることが出来る。出来れば服とか買いたいな。そこで僕はエルのことを考える。
運転手の騎士の様子から見て、人間は亜人をモンスターと認識している。そんなエルが町に入ったなら、大混乱になるだろう。ということはエルの買い物は僕がしないといけないわけだ。
服なら彼女へのプレゼントとか言えるけど、下着はどう考えても無理だ。一応想像してみる。
「彼女へのプレゼントに下着を買い来ました!」
僕は間違いなく変態に思われるだろう。男子高校生の僕には難易度が高すぎる。
「エルが着ている服は僕のなんだけど、人間の女性の服って欲しい?」
「あるなら欲しいです!」
「でもエルは町に入らない方がいいと思うんだ」
「えぇー……つまらないです」
僕もここでお預けをくらうのはきついけど、命の危険の事を考えるとやはりエルを行かせる訳にはいかない。とにかく命の危険があることを伝えて、服を買ってくることを約束することで納得させる。
「ただ服はいいんだけど、下着だけはどうしようもないんだよね」
「下着とはなんのことですか?」
僕は思考が停止した。
『お、落ち着け! 僕! これはあれだ! そう! 下着の呼び方が異なっているとかそういうオチに決まっている』
「えーっと……ごめん。パンツとかアンダーウェア、ランジェリーとか聞いたことない?」
「ありません」
僕が知っている下着の別名は尽きた。もっと女性の下着の読み方を勉強しておけばよかった!いや、それはしたらダメな気がする。混乱してきた。
「うーん……それじゃあ、スカートとかは知っている?」
「それぐらいは知っていますよ」
「じゃあ、スカートを着る前に何か着たりしないかな?」
「何も着ませんよ?」
これはもうアウトじゃない!?僕はずっとノーパンの女の子と旅をしていたのか!異世界って、すごいと実感した。僕は落ち着く。今、重要なのはそこじゃない。僕はエルの下着を買えないことが問題なんだ。
「うーん……取り敢えず服を見てから考えればいいか」
エルは寝袋の中にいることを指示する。そして僕は駐車場に馬車を止めて、いよいよ異世界最初の買い物をするために町の中に入った。




