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試されるもの

作者: 卅日 丰

「運試し、していきませんか」


 遊技場の隅で女神が言う。

 見目麗しく、神々しい姿の彼女のもとには、しかし誰も寄り付かない。


 運を試すだけなら、寧ろ人気が出そうなのに。

 また、卑しい輩が絡んで行ってもよさそうなのに。

 いや、彼女が現れた当初はそういう輩もいないでもなかった。

 しかし彼らは何をすることもないまま撃退されてしまうのである。


 異常なのは、彼女自身は何もしないまま撃退したこと。

 下卑た輩は、彼女に触れる前に自滅した。

 例えば誰かが暴投したダーツの矢が襲い掛かったり、偶々転がっていた球を踏んで転んだりと、勝手に酷い目に遭うのだ。

 それはまさに運命を司るという神の御業そのもの。

 異常を操る存在を見て、人々は恐れ慄き遠巻きに。

 女神はただぽつんと立ち続ける。


 長らく経った頃、一人の挑戦者が女神の前に立った。

 彼女は優しくも残酷な笑みを浮かべ、挑戦者を迎えた。


「表か裏が出たなら、あなたの負けです」


 コインを一枚だけ持った女神が言う。

 彼女は、理不尽な条件を提示していた。

 裏か表か。コイントスの結果など二つに一つである。

 なのに、そのどちらもが敗北条件など勝負として成り立っていない。

 しかし女神はそれを提示して憚らず、譲歩することもない。

 彼女が一人で立ち続けていたのは、それも一つの原因だったようだ。

 勝ち目のない賭けなれば、誰も挑もうとしないだろう。

 挑戦するのも馬鹿馬鹿しく、故にコインは彼女の手から離れなかった。


「あなたが負けたならば、大事なものが失われます。そうでないなら、あなたの幸運は約束されるでしょう」


 コインを弾く構えを取った女神は言う。

 それが所謂最終確認。結果の判り切った賭け。それでも挑むのかと問いかける。

 俄かに注目が集まり、嘲笑と好奇と僅かな心配が集まった。

 引き返すのが賢明だと誰もが思う中、されどその挑戦者は是と答える。

 それを聞き届けた女神はコインを高く弾き上げた。


 誰もがそれの行方に目を奪われる中、挑戦者は女神だけを見つめ、不敵な笑みを浮かべる。

 女神もまた、挑戦者を見つめ、顔をほころばせる。


 数えるほどもなくコインは落ちて、甲高い音を響かせた。

 数度跳ねて転がったコインは、しかし裏も表もない。

 ただ地面にあった溝に挟まり、直立して停止したのだ。


「おめでとうございます」


 誰もが呆気に取られ黙り込む中、コインを拾い上げた女神が笑う。

 賭けは挑戦者の勝ちだと高らかに、威厳を込めて宣言する。


 わっと歓声が上がり、勝者がもみくちゃにされる中、女神はいつの間にか姿を消していた。





誰もが怖じ気付く賭けに、それでも挑む者に祝福を。

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